名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2014年06月

*************** 名歌鑑賞 ***************


雨に風にあふほど蘭の白さかな 吉川英治

(あめにかぜに あうほどらんの しろさかな)

意味・・蘭にとってはつらい雨や風に打たれ、その
    厳しさに根腐れせず、倒れずに耐え抜いて
    来た蘭ほどより美しい白さで花を咲せてい
    る。

    どんな状況にあつても希望を失わず、向上
    心を捨てず、苦難を乗り越えた吉川英治の
    自分の生涯を詠んだ句でもあります。

作者・・吉川英治=よしかわえいじ。1892~1962。
    横浜山内尋常小学校中退。小説家。大正12
    年の関東大地震により勤め先の新聞社が倒産
    したのをきっかけに作家活動に入る。宮本武
    蔵・新平家物語など有名小説を多数書く。

出典・・半田青涯著「歴史を駆け抜けた群雄の一句」。


*************** 名歌鑑賞 **************


死近き 母の心に 遠つ世の 釈迦の御足跡の
石をしぞ擦れ
              吉野秀雄

(しちかき ははのこころに とおつよの しゃかの
 みあとの いしをしぞさすれ)

意味・・もう死期の近い母を悲しく思いながら、遠い
    世のお釈迦様の足跡を刻んだといわれる仏足
    石を、静かにさすり母の平穏を祈っている。

    「釈迦の御足跡の石」は奈良の薬師寺にある
    仏足石である。釈迦の足跡を石に刻み信仰の
    対象にしたもので753年に建立されている。
    そこには仏足石歌碑があり、仏徳を詠んだ歌
    21首が刻まれている。
    その内の一首です。
    「大御足跡(おおみあと)を見に来る人の去(い)
    にし方千代の罪さへ滅ぶぞと言う除くと聞く」
    (この仏足石を見に来た人の所には、千代の昔
    からの罪さえ除かれると聞いている。なんと有
    難いことでしょう) 
    母が安らかに眠ることを願った歌です。

作者・・吉野秀雄=よしのひでお。1902~1967。慶応
    義塾大病気中退。会津八一に師事。

出典・・岩田正著「短歌のたのしさ」。
 

*************** 名歌鑑賞 ***************


贅沢に なりたる子よと 寂しみて 皿に残しし
もの夫と食ふ
                                                 松井阿似子

(ぜいたくに なりたるこよと さみしみて さらに
 のこしし ものつまとくらう)

意味・・贅沢になった我が子。好きな物だけは食べて
    嫌いな物は食べ残している。食べ残したおか
    ずは捨てるに捨てられないので、夫と一緒に
    食べている。なんだか寂しくなってくる。

    アメリカの社会学者がかって、日本人を評し
    て「胃袋いっぱい」「魂からっぽ」と言った
    そうです。表記の歌を評した感じです。「米」
    という言葉は、人手を実に八十八回も経て、
    初めて食膳にのるということからその文字が
    作られたと、昔の子供は教えられた。そして、
    一粒の米をこぼしても叱られ、副食が気に入
    らないという顔をしただけで、「いやなら食
    うな」と絶食を強いられて不思議でない時代
    の中を成長していった。しかし、現代っ子は
    あれこれ好きな物だけ食べ散らかし、少しで
    も空腹になれば、冷蔵庫の扉を開け、何かを
    引っ張りだせばすむのである。そうした我が
    子を、自らの手で育ててしまった親は、今更
    のように、「寂しみて」と言うしか仕方がな
    い思いをせずにいられないのだ。それは、自
    分自身の手で育てながら、自分達と余りにも
    価値観の違った者として育ってしまった我が
    子への失望であり、どうにも埋めることの出
    来ない人間的違和感への「寂しみ」を詠んで
    いる。

作者・・松井阿似子=伝未詳。

出典・・昭和万葉集(小野沢実著「昭和は愛し・昭和
    万葉集秀歌鑑賞」)
    

*************** 名歌鑑賞 ***************


ほど経れば 同じ都の 内だにも おぼつかなさは
問はまほしきを
                西行

(ほどふれば おなじみやこの うちだにも おぼつかな
さは とわまおしきを)

意味・・長く逢わないで時が経つと、同じ都にいてさえ、
    気になって安否を問いたくなるものなのに、遠く
    都を離れたらなおさら気掛かりになるだろう。

    旅に出る前に詠んだ歌です。都を離れて遠く旅立
    つ折りの心情を込めています。

 注・・ほど=時間、距離。
    おぼつかなさ=心配だ、不安だ、気掛かりなこと。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。

出典・・山家集・1091。

*************** 名歌鑑賞 ***************


聞かずとも ここを瀬にせん 時鳥 山田の原の
杉のむら立ち           
                                                   西行

(きかずとも ここをせにせん ほととぎす やまだの
 はらの すぎのむらだち)

意味・・たとえ聞けなくても、ここをほととぎすを待つ
    場所としよう。山田の原の杉の群立つここを。

    山田の原は伊勢神宮に近い森。この森厳な伊勢
    神宮の森で時鳥の鳴き声を厳粛な気持ちになっ
    て聞きたいと詠んでいます。

 注・・瀬にせん=逢う場所にしょう。
    山田の原=三重県伊勢市伊勢神宮の外宮の辺り。
    むら立ち=群立ち。群がって立っている所。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。鳥羽院北面
    武士。23歳で出家。

出典・・新古今和歌集・217。

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