名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2014年08月

 
*************** 名歌鑑賞 ***************


江のひかり柱に来たり今朝の秋

                   成田蒼虬

(えのひかり はしらにきたり けさのあき)

意味・・朝起きてみると、いつもと違って、部屋の奥
    まった柱にも日の光がさしている。それもゆ 
    らゆらと揺れながらである。あ、そうか、今
    日は立秋だったのだ。家のすぐ前の川の水面
    から光が反射して、こんなところまで届くの
    か。やはり秋だなあ。

 注・・今朝の秋=立秋の朝。立秋は八月八日頃。

     暑の昼に対する言葉で、気分的にもすがす
     がしい。

作者・・成田蒼虬=なりたそうきゅう。1761~1842。
    頼山陽と交流。月並俳句の作者として名高い。

出典・・句集「蒼虬翁句集」(尾形仂篇「俳句の解釈と
    鑑賞辞典」)
 

 
*************** 名歌鑑賞 ***************


岩の根に かたおもむきに 並み浮きて 鮑を潜く
海人のむらぎみ
                   西行
(いわのねに かたおもむきに なみうきて あわびを
 かずく あまのむらぎみ)

意味・・岩の根元の方に、ちょうど片貝の鮑が岩につい
    ているように岩に顔を向けて並び浮き、潜って
    行っては鮑を採ってくる海人たちよ。

    海人たちの労働の現場、生活の現場を観察して
    詠んだ歌です。

 注・・かたおもむきに=一方にだけ片寄ること。片貝
     である鮑の意も含んでいる。
    並み浮きて=海底に潜って鮑を採ってきた海人
     たちが、海面に並んで岩の根元につかまって
     いるさま。
    むらぎみ=漁夫の長を本来はいうが、ここは「
     群君」で海人たちをさす。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。

出典・・山家集・1377。
 

 
*************** 名歌鑑賞 ***************


松風の琴の唱歌や蝉のこえ

                野々口立圃

(まつかぜの ことのしょうがや せみのこえ)

意味・・松吹く風は琴をかなでるように聞こえ、
    おりからの蝉の声はそれに合わせて歌う
    唱歌のようである。

作者・・野々口立圃=ののぐちりゅうほ。1595
    ~1669。

出典・・句集「犬子(えのこ)集」(小学館「日本
    古典文学全集「近世俳句俳文集」)

 
*************** 名歌鑑賞 ***************


はなし出す 人の尻馬 口車 いづれ調子に
のりあひの舟 
              平秩東作

(はなしだす ひとのしりうま くちぐるま いずれ
 ちようしに のりあいのふね)

詞書・・乗合の舟に乗りて。

意味・・こざかしげにまず世間話・雑談の口を切る人
    がいる。その尻馬に乗ってまくしたてる者、
    うまく口車に乗せられる人など、なににして
    も調子にのるおっちょこちょいの連中のいる
    乗合舟の風景である。

    馬・車・舟と乗り物づくしに、尻・口の対照
    など、言葉の面白さに笑わせながら、望まし
    い(?)人間社会を描いています。

 注・・尻馬=尻馬に乗る、他人の言に無批判に従っ
     て行動する。
    口車=口車に乗る、うまく言いくるめられて
     だまされる。
         調子にのり=乗合舟を掛ける。

作者・・平秩東作=へづつとうさく。1726~1789。
    家業の馬宿を継ぐ。江戸時代の狂歌師。

出典・・狂歌「万代」(小学館「日本古典文学全集・
    狂歌」) 


*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
うら恋し さやかに恋と ならぬまに 別れて遠き
さまざまな人
                  若山牧水

(うらこいし さやかにこいと ならぬまに わかれて
 とおき さまざまなひと)

意味・・好い感じの人だなと出会った時に思った人だか、
    お互いの気持ちを確かめあうこともなく、はっ
    きりとした恋愛にならないまま、いつしか別れ
    た人々。振り返ると懐かしく思い出される。

 注・・うら=なんとなくそんな気がする。例「うら寂
     しい」「うら悲しい」。
    うら恋し=懐かしく思いだされる。恋とはまで
     は行かない淡い関係だったが、なんとなく恋
     しく思われる。

    遠き=実際の距離が遠い、精神的な距離の長さ、
     別れてから経過した時間の長さ、を含める。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。

出典・・俵万智著「あなたと読む恋の歌百首」。
 
 

 
 
*************** 名歌鑑賞 ***************


討ちはたす梵論つれ立ちて夏野かな 
                  蕪村

(うちはたす ぼろつれだちて なつのかな)

意味・・長い年月探し求めていた虚無僧姿の敵にめぐ
    り合い、果し合いの場所を決めて、二人連れ
    合って夏野を歩いて行く。

    徒然草115段の文章を句に詠んだものです。
    115段の内容です。
    宿河原(神奈川県川崎)という場所で、虚無僧
    (乞食僧)が多数集合して九品の念仏を唱(と)
    なえているところに、外から虚無僧が入って
    来て「もしや、この中にいろおし坊と申す梵
    論(ぼろ)僧はおられますまいか」と尋ねたの
    で、群集の中から「いろおしは私です。そう
    言われるのはどなたですか」と答えた。する
    と虚無僧は「自分はしら梵字(ぼじ)という者
    です。私の師匠の某という人が、東国でいろ
    おしという人に殺されたと聞いていますから、
    そのいろおしという人に会って仇を取りたい
    と尋ねております」と言う。すると、いろお
    しは「よくも尋ねて来た。たしかにそんなこ
    とがありました。ここでお相手をいたしては、
    道場を汚すおそれがありますから前の川原で
    立会いましょう。どうぞ、皆の衆、どちらへ
    にも加勢はご無用に願いたい。多人数の死傷
    があっては仏事の妨害になりましようから」
    と言い切って、二人で川原に出かけ合って、
    思う存分に刺し傷つけ合って、両人とも死ん
    だ。

    虚無僧は世を捨てたようでいて、我執が強く、
    仏道(平和)を願っているようでありながら、
    闘争(戦争)にふけっている。生を軽んじて生
    死に拘泥しない事を皮肉った徒然草・蕪村で
    す。
 
 注・・討ちはたす=一刻後に討ちはたすべき相手。
    梵論(ぼろ)=虚無僧(こむそう)のこと。髪は
     そらず、僧衣はつけず、深い編み笠をかぶ
     り、袈裟をかけ、尺八を吹いてまわる人。

作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。池
    大雅とともに南宗画でも有名。

出典・・句集「新花摘」(河出書房新社「日本の古典「
    蕪村・良寛・一茶」)

 
 
*************** 名歌鑑賞 ***************


今よりは 秋づきぬらし あしびきの 山松かげに
ひぐらし鳴きぬ
                  遣新羅使

(いまよりは あきずきぬらし あしびきの やままつ
 かげに ひぐらしなきぬ)

意味・・今や、もう秋になってしまったらしい。ここ
    九州の松の木陰にはひぐらしがしきりに鳴い
    ている。

    736年4月、朝鮮半島の新羅(しらき)国に遣わ
    された使者の一行が筑紫(福岡県)の館に泊まっ
    た時に詠んだ歌です。大阪の難波の港を出た時
    は年内に帰るつもりでいたのだが、予定が狂っ
    て帰れない。今鳴き始めたひぐらしの声に、さ
    らに旅先の募る不安な思いが詠まれている。

 注・・あしびきの=「山」の枕詞。

作者・・遣新羅使=けんしらきし。736年韓国の東南部
    にあった新羅国に派遣された一行。途中大使が
    病没、副使も病気になり予定が遅れた。

出典・・万葉集・3655。 

 
 
*************** 名歌鑑賞 ***************


心より たぎつ岩波 音たてて わがまつかひの
秋風ぞ吹く
               尭胤法親王

(こころより たぎついわなみ おとたてて わがまつ
 かいの あきかぜぞふく)

意味・・烈しく白波が音をたてて流れている。この涼気
    は、心から私が待つ甲斐があって秋風が吹いて
    来るように感じられる。

 注・・心より=第四句の「わがまつ」にかかる。
    たぎつ=水が烈しく流れる。

作者・・尭胤法親王=ぎょういんほうしんのう。1458~
    1520。三千院の僧。室町期の歌人。

出典・・文亀三年三十六番歌合(小学館「中世和歌集」)

 
 
*************** 名歌鑑賞 ***************


谷川の 岩間をわけて ゆく水の をとにのみやは
聞かむと思ひし
                平兼盛
(たにがわの いわまをわけて ゆくみずの おとに
 のみやは きかんとおもいし)

意味・・谷川の岩間を分けて流れ行く水がその音だけ
    聞こえるように、あなたを噂にだけ聞こうと
    は思っていませんでした。
    
    人からの評判を聞くだけでなく、あなたに逢
    って話もしたい、と逢瀬を求めた歌です。
 
 注・・をと=「音」に「うわさ・評判」を掛ける。

作者・・平兼盛=たいらのかねもり。?~990。駿河
    守、従五位上。三十六歌仙。

出典・詞花和歌集・191。
 

 
 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
終夜 燃ゆる蛍を 今朝見れば 草の葉ごとに
露ぞ置きける
               健守法師

(よもすがら もゆるほたるを けさみれば くさの
 はごとに つゆぞおきける)

意味・・一晩中、燃え輝いていた蛍を眺めていたが、
    今朝見て見ると、蛍に代わって、草の葉一つ
    一つに露が置いてきらきらと光っている。

    夜は蛍が光り、朝は玉の露が光って目を楽し
    ませてくれた喜びを詠んでいます。

作者・・健守法師=けんしゅほうし。生没年未詳。
    1000年前後に活躍した人。

出典・・拾遺和歌集・1078。
 
 

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