名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2014年09月

 
*************** 名歌鑑賞 ****************


駆けあがり 庭のかたへに 踏み脱ぎし 小木履見れば
涙し流る
                   大倉鷲夫

(かけあがり にわのかたえに ふみぬぎし こぼくり
 みれば なみだしながる)

意味・・部屋に駆け上がる時、庭の端へ脱ぎ飛ばした
    小さなあの子の木履を見ると涙がこぼれる。

    詞書は「二男大蔵病死の時作歌」です。死ん
    だ男の子は四歳だったと伝えられている。小
    さな男の子だから、庭から部屋に上がるのに
    履物をそろえてなどは脱がない。駆け上がる
    勢いで脱ぎ散らかしたのがそのままになって
    いるのである。元気よく駆け上がっていたの
    に、急病でそのまま寝つき死んでしまった。
    亡くなった後で庭の木履を見て、元気の良か
    った時の子を思いださせて、涙がこぼれるの
    であった。

 注・・木履(ぼくり)=木製のくつ。下駄。
    涙し=「し」は上接する語を強調する語。

作者・・大倉鷲夫=おおくらわしお。1780~1850。
    高知の商家の生まれ。

出典・・藤平春男編「和歌鑑賞辞典」。
 

 
*************** 名歌鑑賞 ***************


国こぞり 力のもとに 靡くとは 過ぎし歴史の
ことにはあらず
                柴生田稔

(くにこぞり ちからのもとに なびくとは すぎし
 れきしの ことにはあらず)

意味・・国民が皆こぞって、権力をもって号令を掛け
    る側になびき従うというのは、決して過去の
    歴史のことではない。

    昭和10年に詠んだ歌です。「過去の歴史のこ
    とではない」と言い切って「現に日本人は皆
    従っているではないか」という心を言外に漂
    わしている。昭和10年は軍部が大陸に出兵し、
    軍国主義に従う風潮が日々に強まっていた時
    代です。

 注・・国こぞり=国内の者がこぞって。

出典・・歌集「青山」(本林勝夫篇「現代短歌鑑賞辞典」)
 

 
*************** 名歌鑑賞 ****************


秋立つや一巻の書の読み残し
                    夏目漱石

(あきたつや いっかんのしょの よみのこし)

意味・・秋になった。読書の秋というけれど、私には
    分厚い一冊の本の読み残しがある。読み切る
    のはいつになることやら。でも、大半は読ん
    だのだから 良しとするか。

    季節も夏から秋へと変化したように、思えば
    自分は老いて人生の秋にさしかかってしまっ
    た。分厚い書の読み残しではないが、私の人
    生にはまだ成すべき事、やりたい事が残って
    いる。

    「明暗」の執筆中に倒れる三ヶ月前に、芥川
    龍之介に宛てた手紙に記されたた句です。

    やり残しがあり残念だが、出きる限りの事は
    やって来たので、後悔もしていないし恥ずか
    しいとも思っていない、満足でもある。とい 
    う気持も含まれています。

作者・・夏目漱石=なつめそうせき。1867~1916。
    東大文学部卒。小説家。「明暗」連載中に胃
    潰瘍のため永眠。

出典・・大高翔著「漱石さんの俳句」。
 

 
*************** 名歌鑑賞 ****************


もろともに 眺め眺めて 秋の月 ひとりにならん
ことぞ悲しき
                西行

(もろともに ながめながめて あきのつき ひとりに
 ならん ことぞかなしき)

詞書・・同行に侍りける上人(しょうにん)、例ならぬこ
    と大事に侍りけるに、月の明かくてあはれなり
    ければ、詠みける。

意味・・秋になるといつも、一緒に名月を眺め風流を楽
    しんで来たのに、上人が死に、一人で眺めねば
    ならなくなったのは、まことに悲しいことであ
    る。
    
    志を同じくして、仏道修業に励んでいた上人の
    病気がひどくなった時、月を見て詠んだ歌です。

 注・・例ならぬこと=病気になること。
    大事に侍りける=病気が重くなること。
    上人=知と徳を兼ねた僧を尊敬してよぶことば。
     西住上人のこと。西行と在俗以来の終生の友。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義清
    (のりきよ)。鳥羽上皇の北面武士であったが23
    歳で出家。「新古今集」では最も入選歌が多い。

出典・・山家集・778。 

 
*************** 名歌鑑賞 ****************


同じくは 共に見し世の 人もがな 恋しさをだに
語りあはせむ
                 宗良親王

(おなじくは ともにみしよの ひともがな こいしさを
 だに かたりあわせん)

詞書・・延元の頃(1338年)、吉野を離れて東国に下りまし
    た後、多くの年(36年)を経て文中3年(1374年)に
    吉野の行宮(あんぐう)に参りましたが、かって会
    った人もなく、万事昔の事が思い出されることば
    かり多くありましたので、「独り懐旧」の題で詠
    みました歌。

意味・・どうせ昔と変わってしまったことを嘆くのなら、
    一緒に昔のことを見た人がいて欲しいものだなあ。
    もしいたならその人と共に今は変わってしまった
    昔への恋しさを話会うだけでもしたいものだ。

作者・・宗良親王=むねよししんのう。1311~1385頃。
    後醍醐天皇皇子。元弘の乱の時讃岐に配流された。
    「新葉和歌集」を撰ぶ。

出典・・新葉和歌集・1306。
 

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