名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2014年12月

 
**************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
ながめこし 花より雪の ひととせも けふにはつ瀬の
いりあひの鐘
                   頓阿法師
              
(ながめこし はなよりゆきの ひととせも きょうに
 はつせの いりあいのかね)

意味・・春の花から冬の雪まで、ずっと眺めてきた
    この一年も、今日で終わったと初瀬の入相
    の鐘が響いている。

 注・・初瀬=奈良県桜井市初瀬。長谷寺がある。
    入相=夕暮れ。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。
    俗名は二階堂貞宗。和歌の四天王。

出典・・頓阿法師詠・233。(岩波書店「中世和歌集・
    室町篇」)
 

 
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いたづらに なす事もなく くれはつる としもつもりの
うらめしの世や
                    寒河正親

(いたずらに なすこともなく くれはつる としも
 つもりの うらめしのよや)

意味・・今年はこれだけの事をした、という充実感もなく、
    無駄に月日を送ってはや年も暮れようとしている。
    悔やまれることである。子や孫よ、こんな事では
    いけないのだぞ。

 注・・としもつもり=年も積り。月日が積み重ねる。

作者・・寒河正親=さむかわまさちか。生没年未詳。江戸
    時代の初期の教訓的作者。

出典・・教訓書「子孫鑑(しそんかがみ)」。

 
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世にふるも 更に時雨の やどりかな  
                     宗祇

(よにふるも さらにしぐれの やどりかな)

意味・・時雨降る一夜の雨宿りをするのは侘しい
    限りであるが、更に言えばこの人生その
    ものが時雨の過ぎるのを待つ雨宿りのよ
    うではないか。

    冷たい雨が降ったり止んだりするように、
    人生も良かったり悪かったりするという
    無常観を詠んでいます。
    辛いときは、時雨が通り過ぎるように、
    辛抱していると必ず良いことがやって来  
    るのだと詠んでいます。

    本歌は二条院讃岐の、

   「世に経るは苦しきものを槙の屋にやすくも
    過ぐる初時雨かな」(新古今・590)です。

 注・・ふる=「降る」と「経る」を掛ける。
    さらに=さらに言えば。
    時雨=初冬のにわか雨。人生の無常や冬の
       始まりの侘しさを感じさせる。

作者・・宗祇=そうぎ。1421~1502。連歌師

 
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外山ふく あらしの風の 音聞けば まだきに冬の
をくぞ知らるる 
                 和泉式部
              
(とやまふく あらしのかぜの おときけば まだきに
 ふゆのおくぞしらるる)

意味・・外山を吹く嵐のような風の音を聞くと、早くも
    深まりゆく冬の寒さの厳しさが思い知らされる
    ことだ。

 注・・外山=人里に近い山。奥山・深山に対する。
    まだきに=早くも。
    冬のをく=冬の奥。冬が深まった寒さの厳しい
     時期。「外山」に対して「おく」といった。

作者・・和泉式部=いずみのしきぶ。978頃~。一条天皇
    の中宮・章子に仕える。「和泉式部日記」。

出典・・千載和歌集・396。

 
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樵りおきし 軒のつま木も 焚きはてて 拾ふ木の葉の
つもる間ぞなき
                   上原しん

(こりおきし のきのつまきも たきはてて ひろう
 このはの つもるまぞなき)

意味・・煮炊きのために樵り置いていた薪がなくなり、
    木の葉を集めて焼(く)べてみたが、あっという
    間に燃え尽きて、その木の葉さえ積もることが
    ない。

    貧しい生活を歌いながら、志に向けて堪え抜い
    ていく決意となっています。

    しんの夫は若狭小浜藩の武士であったが、幕府
    に建白書を出したので藩を追われ浪人の身とな
    った。その後、ペリーの来航で吉田松陰らと共
    に尊王攘夷を唱えて奔走したので、生活は困難
    を極めていた。なお、しんは貧弱のため29歳
    で病死した。

 注・・建白書=意見を申し述べた書き物。

作者・・上原しん=うえはらしん。1827~1855。29歳。
    若狭小浜藩の梅田雲浜と18歳で結婚。

 
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世に経るは 苦しきものを 槙の屋に やすくも過ぐる
初時雨かな       
                   二条院讃岐

(よにふるは くるしきものを まきのやに やすくも
 すぐる はつしぐれかな)

意味・・世を生きながらえていくことは辛く苦しいもの
    なのに、槙の屋に降る初時雨はいとも軽々しく
    降り過ぎていくことだ。

    辛さや苦しみ、悲しみを十分味わったので、「
    やすく過ぐる」ように、これからは容易に世を
    過ごす事が出来たら良いのに、という気持を詠
    んでいます。
    なお、二条院讃岐は平家との戦いで父と兄・弟
    を亡くしています。

 注・・世に経る=この世に生きながらえる。
    槙の屋=槙の板で葺(ふ)いた家。
    やすく過ぐる=なんの苦しみもなくさらさらと
       降り過ぎる。

作者・・二条院讃岐=にじょういんのさぬき。1141~
    1217。後鳥羽院の中宮に仕える。

出典・・新古今和歌集・590。
 

 
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老いぬとて などかわが身を せめきけむ 老いずは今日に
あはましものか       
                    藤原敏行

(おいぬとて などかわがみを せめきけむ おいずは
 けふに あわましものか)

意味・・私は年老いて役に立たなくなったといって、
    どうしてわが身を責め恨んだのだろうか。
    もし年をとり生きながらえることが無かっ
    たら、今日の喜びに逢えたでしょうか、逢
    えなかったのです。

    年を取って生きながらえることがなかった
            ら、栄えある今日を迎えただろうかという
    感慨を詠んでいます。

 注・・せめき=責めき、とがめる。恨む。

作者・・藤原敏行=ふじわらのとしゆき。 ~901。
    従四位上・蔵人頭。

出典・・古今和歌集・903。

 
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我がやどの 君松の木に 降る雪の 行きには行かじ
待ちにし待たむ          
                 読人知らず

(わがやどの きみまつのきに ふるゆきの ゆきには
 ゆかじ まちにしまたん)

意味・・私の家の、君を待つという松の木に降る雪
    のように、行きはしないでおきましょう。
    ただひたすらお越しをお待ちしておりまし
    ょう。

    744年安部虫麻呂朝臣の家での宴で詠まれた
    即興歌です。掛詞と同音の多用で面白さを
    出しています。
    心に思っている人が、我が家の素晴らしい
    松の木を見に来て欲しいという気持ちを詠
    んでいます。

 注・・安部虫麻呂(あべのむしまろ)=~752。播磨守。
     従四位下。

出典・・万葉集・1041。 

 
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このくれは いつのとしより うかりける ふる借銭の
山おろしして    
                    唐衣橘洲

(このくれは いつのとしより うかりける 
 ふるしゃくせんの やまおろしして)

意味・・この暮れは、いつの年よりも情けなくつらい
    思いをした。古い借銭の催促がまるで山おろ
    しの風のように、はげしくやってきたので。

    本歌の「はげしかれとは祈らぬものを」の気
    持を含めています。本歌を参照して下さい。

 注・・としより=「年より」と「俊頼」を掛ける。
    うかりける=憂かりける。つらい、情けない。
     俊頼の「憂かりける人を初瀬の山おろしは
     げしかれとはいのらぬものを」を利かいて
     いる。
    山おろしして=山から吹きおろす風のように、
      はげしく責め立てる。

作者・・唐衣橘洲=からころもきっしゅう。1743~1802。
    江戸時代の狂歌の創始者。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。

本歌です。

憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは
祈らぬものを          
                  源俊頼

(うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげし
 けれとは いのらぬものを)

意味・・つれなかった人をどうか私になびかせてくださいと
    初瀬の観音に祈ったのだが。初瀬山から吹き降ろす
    山風が激しく吹きすさぶように、ますます薄情にな
    れとはいのらなかったのに。

    片想いのあの人のことを、長谷の観音さまにお祈り
    をした。そよ風のように私にほほえんでくれるよう
    にと。それなのに、なぜ・・そよ風吹かぬ心の荒野
    を淋しい風が吹き抜けている。

    ままならぬ恋を詠んだ歌です。
    つれない相手の心がなびくように初瀬の観音に祈った。
    しかし、その思いは通じるどころか、相手はいよいよ
    冷たくあたるようになったというのです。

 注・・憂し=まわりの状況が思うにまかせず、気持ちがふさ
     いでいやになること。
    初瀬=奈良県にある地名。長谷寺の11面観音がある。
    やまおろし=山から吹きおろす冷たく激しい風。

作者・・源俊頼=みなもとのとしより。1055~1129。金葉和
    歌集の撰者。
 
出典・・千載和歌集め708、百人一首・74。

 
**************** 名歌鑑賞 **************
 
 
いつまでか 何嘆くらむ 嘆けども かひなきものを
心づくしに            
                 良寛

(いつまでか なになげくらん なげけども かいなき
 ものを こころずくしに)

意味・・いつまでも何を嘆いているのであろうか。
    物思いの限りを尽くして、亡くなった子供を
    嘆いても、生きて返るわけでないのに。可哀
    そうだけど。

    ただ一人の子供に先立たたれ、身は魂の抜け
    がらのようになっている人に、励まして詠ん
    歌です。

 注・・心づくし=物思いの限りを尽くす。

作者・・良寛=1758~1872。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集・598」。 

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