名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2014年12月

 
**************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
世に経るは 苦しきものを 槙の屋に やすくも過ぐる
初時雨かな       
                   二条院讃岐

(よにふるは くるしきものを まきのやに やすくも
 すぐる はつしぐれかな)

意味・・世を生きながらえていくことは辛く苦しいもの
    なのに、槙の屋に降る初時雨はいとも軽々しく
    降り過ぎていくことだ。

    辛さや苦しみ、悲しみを十分味わったので、「
    やすく過ぐる」ように、これからは容易に世を
    過ごす事が出来たら良いのに、という気持を詠
    んでいます。
    なお、二条院讃岐は平家との戦いで父と兄・弟
    を亡くしています。

 注・・世に経る=この世に生きながらえる。
    槙の屋=槙の板で葺(ふ)いた家。
    やすく過ぐる=なんの苦しみもなくさらさらと
       降り過ぎる。

作者・・二条院讃岐=にじょういんのさぬき。1141~
    1217。後鳥羽院の中宮に仕える。

出典・・新古今和歌集・590。
 

 
*************** 名歌鑑賞 **************
 
 
老いぬとて などかわが身を せめきけむ 老いずは今日に
あはましものか       
                    藤原敏行

(おいぬとて などかわがみを せめきけむ おいずは
 けふに あわましものか)

意味・・私は年老いて役に立たなくなったといって、
    どうしてわが身を責め恨んだのだろうか。
    もし年をとり生きながらえることが無かっ
    たら、今日の喜びに逢えたでしょうか、逢
    えなかったのです。

    年を取って生きながらえることがなかった
            ら、栄えある今日を迎えただろうかという
    感慨を詠んでいます。

 注・・せめき=責めき、とがめる。恨む。

作者・・藤原敏行=ふじわらのとしゆき。 ~901。
    従四位上・蔵人頭。

出典・・古今和歌集・903。

 
**************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
我がやどの 君松の木に 降る雪の 行きには行かじ
待ちにし待たむ          
                 読人知らず

(わがやどの きみまつのきに ふるゆきの ゆきには
 ゆかじ まちにしまたん)

意味・・私の家の、君を待つという松の木に降る雪
    のように、行きはしないでおきましょう。
    ただひたすらお越しをお待ちしておりまし
    ょう。

    744年安部虫麻呂朝臣の家での宴で詠まれた
    即興歌です。掛詞と同音の多用で面白さを
    出しています。
    心に思っている人が、我が家の素晴らしい
    松の木を見に来て欲しいという気持ちを詠
    んでいます。

 注・・安部虫麻呂(あべのむしまろ)=~752。播磨守。
     従四位下。

出典・・万葉集・1041。 

 
**************** 名歌鑑賞 **************
 
 
このくれは いつのとしより うかりける ふる借銭の
山おろしして    
                    唐衣橘洲

(このくれは いつのとしより うかりける 
 ふるしゃくせんの やまおろしして)

意味・・この暮れは、いつの年よりも情けなくつらい
    思いをした。古い借銭の催促がまるで山おろ
    しの風のように、はげしくやってきたので。

    本歌の「はげしかれとは祈らぬものを」の気
    持を含めています。本歌を参照して下さい。

 注・・としより=「年より」と「俊頼」を掛ける。
    うかりける=憂かりける。つらい、情けない。
     俊頼の「憂かりける人を初瀬の山おろしは
     げしかれとはいのらぬものを」を利かいて
     いる。
    山おろしして=山から吹きおろす風のように、
      はげしく責め立てる。

作者・・唐衣橘洲=からころもきっしゅう。1743~1802。
    江戸時代の狂歌の創始者。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。

本歌です。

憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは
祈らぬものを          
                  源俊頼

(うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげし
 けれとは いのらぬものを)

意味・・つれなかった人をどうか私になびかせてくださいと
    初瀬の観音に祈ったのだが。初瀬山から吹き降ろす
    山風が激しく吹きすさぶように、ますます薄情にな
    れとはいのらなかったのに。

    片想いのあの人のことを、長谷の観音さまにお祈り
    をした。そよ風のように私にほほえんでくれるよう
    にと。それなのに、なぜ・・そよ風吹かぬ心の荒野
    を淋しい風が吹き抜けている。

    ままならぬ恋を詠んだ歌です。
    つれない相手の心がなびくように初瀬の観音に祈った。
    しかし、その思いは通じるどころか、相手はいよいよ
    冷たくあたるようになったというのです。

 注・・憂し=まわりの状況が思うにまかせず、気持ちがふさ
     いでいやになること。
    初瀬=奈良県にある地名。長谷寺の11面観音がある。
    やまおろし=山から吹きおろす冷たく激しい風。

作者・・源俊頼=みなもとのとしより。1055~1129。金葉和
    歌集の撰者。
 
出典・・千載和歌集め708、百人一首・74。

 
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いつまでか 何嘆くらむ 嘆けども かひなきものを
心づくしに            
                 良寛

(いつまでか なになげくらん なげけども かいなき
 ものを こころずくしに)

意味・・いつまでも何を嘆いているのであろうか。
    物思いの限りを尽くして、亡くなった子供を
    嘆いても、生きて返るわけでないのに。可哀
    そうだけど。

    ただ一人の子供に先立たたれ、身は魂の抜け
    がらのようになっている人に、励まして詠ん
    歌です。

 注・・心づくし=物思いの限りを尽くす。

作者・・良寛=1758~1872。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集・598」。 

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