名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年01月

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
是も又 都のつとと 小原女が 薪のゆきを 
はらはでやこし
               伴蒿蹊
              
(これもまた みやこのつとと おはらめが たきぎの
 ゆきを はらわでやこし)

意味・・これもまた都への土産だとして、大原女が薪の
    上に積もった雪を払わないで来たのだなあ。

 注・・つと=みやげ。
    小原女=大原女と同じ。京都市左京区大原付近
     から薪を頭に乗せて売りに来る女性。

作者・・伴蒿蹊=ばんこうけい。1733~1806。近江八幡
    の豪商の生まれ。文学家として有名。著作に
    「近世奇人伝」歌集に「閑田詠草」がある。

出典・・歌集「閑田詠草」。

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
時雨まで 曇りて深く 見し山の  雪に奥なき
木々の下折れ
                 正徹

(しぐれまで くもりてふかく みしやまの ゆきに
 おくなき きぎのしたおれ)

意味・・時雨の降っている頃までは曇っていて奥深い
    感じだった山が、今雪が降って枝の折れた木
    々を埋めつくし、一面白一色に見渡せる景色
    となった。

    時雨は晩秋から冬に掛けて降る雨で、山の中
    で降った後は深い霧が発生して幻想的で奥深
    い景色となります。一方、雪が木々に降り積
    もった真っ白な風景は美しいものです。霧の
    かかった幻想的な山の中の景色と、雪が積も
    った美しい風景の二枚の絵を並べて見ている
    ような歌です。

        参考歌です。

    「村雨の露もまだ干ぬ槙の葉に霧立ちのぼる
    秋の夕暮」   (意味は下記参照) 

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。京都東福
    寺の僧。室町時代の歌人。
  

出典・・歌集「草根集」(藤平春男篇「和歌鑑賞辞典」)

参考歌です。

村雨の 露もまだ干ぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる
秋の夕暮れ      
                寂蓮法師

(むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きり
 たちのぼる あきのゆうぐれ)

意味・・ひとしきり降った村雨が通り過ぎ、その雨
    の露もまだ乾かない杉や檜の葉に、早くも
    霧が立ちのぼって、白く湧き上がってくる
    秋の夕暮れよ。

    深山の夕暮れの風景。通り過ぎた村雨の露
    がまだ槙の葉に光っている。それを隠すよ
    うに夕霧が湧いて来て幽寂になった景観を
    詠んでいます。

 注・・村雨=にわか雨。
    露=雨のしずく。
    まだ干ぬ=まだ乾かない。
    槙(まき)=杉、檜、槙などの常緑樹の総称。

作者・・寂蓮法師=じゃくれんほうし。1139~1202。
    俗名は藤原定長。新古今集の撰者の一人。

出典・・新古今集・491、百人一首・87。

 
***************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
都だに 消えあへず降る 白雪に 高野の奥を
思ひこそやれ          
                                     詠み人知らず

(みやこだに きえあえずふる しらゆきに たかのの
 おくを おもいこそやれ)

意味・・都でさえ、十分消えないうちに白雪が
    降っているので、あなたの住む高野の
    奥はどんなにきびしい毎日かと思いや
    っています。

    都から高野山に移り住んだ人に贈った
    歌です。

 注・・高野=和歌山県高野山。

出典・・風葉和歌集・430。 

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
たたかれて音のひびきし薺かな
                   土方歳三

(たたかれて おとのひびきし なずなかな)

意味・・身構えている所を叩かれた。「何をするん
    だ」と、声をひびかせて叫んだナズナであ
    る。

    自分はナズナのような野草である。どんな
    に敗れ敗れの転戦の小勢力になっても、雑   
    草のような強い生命力で最後まで戦う。誠
    を旗印に一人になっても戦い抜くのだ。

    土方歳三といえば、新撰組。近藤勇・沖田
    総司らを中核とする武力集団が、幕末の京
    に粛清の嵐を巻き起こし、血の雨を降らせ
    た。ドラマでおなじみの物語である。明治
    維新となり戊辰戦争の最後の函館の五稜郭
    で明治新政府との激戦で土方歳三は戦死し
    た。この頃この世の別れとして遺(のこ)し
    た辞世の句です。詠んだ時はどんな思いで
    あったのだろうか。

    「錦の御旗の前に過去の全てが旧悪であり、
    今の流れがすべて正しいとするのは、おこ
    がましいにも程がある。時勢に崩れ去る旧
    体制の世の中にも、誇るべき、残すべき長
    所は山とある。勝てば官軍、負ければ賊軍
    そんな馬鹿なことがあってたまるか・・」。

 注・・音のひびきし=「音のするなり」と比較す
     ると、叩かれて音がするというのは、待
     ちの姿勢、消極的という感じになる。反
     対に「ひびきし」は積極的な感じになる。
     加えて、たたかれるのをただ単に待って
     いたというイメージから、油断なく待ち
     構えていたというイメージとなる。
    薺=春の七草のひとつ。風に揺られた時の
     音からぺんぺん草ともいわれる。この句
     では強い生命力を持った野草・雑草とし
     て詠まれている。

作者・・土方歳三=ひじかたとしぞう。1835~1869。
    34歳。新撰組副長。明治新政府との戦いの
    戊辰戦争に破れ函館の五稜郭で戦死。

出典・・半田青涯著「歴史を駆け抜けた群雄の一句」。
  

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
夕されば 衣手寒し 高松の 山の木ごとに 
雪ぞ降りたる        
              読人知らず

(ゆうされば ころもてさむし たかまつの やまの
 きごとに ゆきぞふりたる)

意味・・夕方になると、着物の袖がうすら寒い。
    ふと見上げると、あれあのように高松山
    の木という木全部に雪が降り積もってい
    る。ああ寒いはずだ。

 注・・衣手=着物の袖。
    高松の山=奈良市の東部にある山。

出典・・万葉集・2319。

 
*************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝覚めぬ
須磨の関守      
                源兼昌

(あわじしま かようちどりの なくこえに いくよ
 ねざめぬ すまのせきもり)

意味・・淡路島から通って来る千鳥の悲しそうに鳴く
    声に、いったい幾夜眠りを覚ましてしまった
    ことだろうか、ここ須磨の関の関守は。

    冬の夜、荒涼とした須磨の地を通り過ぎる旅
    人は、向いの淡路島から飛び通って来る千鳥
    の鳴き声を聞き、旅人の旅愁が関守のわびし
    い心を思いやった歌です。千鳥の鳴き声は、
    もの寂しさを誘うものとされていました。

    本歌です。
   「友千鳥もろ声に鳴く暁は一人寝覚めの床も頼
    もし」です。(意味は下記参照)

 注・・淡路島=兵庫県須磨の西南に位置する島。
    須磨=神戸市須磨区。古くは関所があった。
    関守=関所の番人。

作者・・源兼昌=みなもとのかねまさ。生没年未詳
    12世紀初めの人。

出典・・金葉和歌集・270、百人一首・78。

本歌です。

友千鳥 もろ声に鳴く 暁は 一人寝覚めの
床も頼もし         
              源氏物語・須磨

(ともちどり もろこえになく あかつきは ひとり
 めざめの とこもたのもし)

意味・・多くの千鳥が声をそろえて鳴く暁は、一人で
    目を覚まして床の中で泣いていても、泣く仲
    間がいるので頼もしい。

    泣くのは好きな人との別れです。

 
**************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
人皆に 見捨てられたる 床の上に わがおさな児が
眼をひらきいる
                 木下利玄

(ひとみなに みすてられたる とこのうえに わが
 おさなごが めをひらきいる)

意味・・医者にも手の打ち様が無く、もう助からないと
    言われている我が幼児は目を開いて私をじっと
    みつめている。

 注・・見捨てられ=病気が治らないと言われている。
    床の上=病床に臥して。

作者・・木下利玄=きのしたりげん。1886~1925。39
    歳。東大国文科卒。佐々木信綱に師事。

出典・・歌集「銀」(武川忠一編「短歌の鑑賞」)

 
*************** 名歌鑑賞 **************
 
 
あさぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に
降れる白雪      
                  坂上是則
         
(あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしのの
 さとに ふれるしらゆき)

意味・・夜がほのぼのと明け始める頃に見渡すと、夜明け
    の月がほんのりと照っているかのように、吉野の
    里には雪が淡く積っている。

    薄明の時の雪景色を詠んだ歌です。

 注・・あさぼらけ=夜がほのぼのと明ける頃。
    有明の月=夜が明けてもまだ空にある月。

作者・・坂上是則=さかのうえのこれのり。生没年未詳。
    924年従五位下。三十六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・332、百人一首・31。

 
*************** 名歌鑑賞 **************
 
 
埋火もきゆやなみだの烹る音  
                                                   芭蕉

(うずみびも きゆやなみだの にゆるおと)

詞書・・少年を失へる人の心を思ひやりて。

意味・・終日火桶に寄りながら、亡き人を思っている
    お宅では、葬(ほうむ)り落ちるあなたの涙の
    ために、埋火もさぞかし消えがちなことであ
    りましょう。いま私に、その涙がこぼれて、
    埋火に煮える切ない音まで、聞えてくるよう
    に思われます。

    埋火という言葉に、終日なすこともなく火鉢
    をかかえ、悲しみに沈んでいる人の面影が見
    えてきます。

 注・・埋火(うずみび)=炉や火鉢の灰に埋めた炭火。

作者・・芭蕉=1644~1694。奥の細道、笈の小文など。

出典・・松尾芭蕉集「小学館・日本古典文学全集」。

 
**************** 名歌鑑賞 **************
 
 
としどしの としはかたちに ゆづりやりて 心にとしは 
とらせずもがな
                    大屋裏住
               
(としどしの としはかたちに ゆずりやりて こころに
 としは とらせずもがな)

意味・・年毎に加える齢(よわい)は、外見の形の方にゆずり
    やって、心には年をとらせたくないものだ。

    肉体の老衰はまぬがれないものとしても、精神年齢
    はいつまでも若く、みずみずしくありたいと誰しも
    の願いを歌っています。
    「とし」と「と」の重複も快いひびきをだしている。

 注・・かたち=姿形。外貌。
    もがな=希望の助詞。

作者・・大屋裏住=おおやのうらすみ。1734~1810。日本
    橋の裏長屋に住み大屋をしていた。

出典・・万代狂歌集(小学館「日本古典文学全集・狂歌」)

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