名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年02月


**************** 名歌鑑賞 ***************


老いてなほ 艶とよぶべき ものありや 花は始めも
終りもよろし

                   斉藤史

(おいてなお つやとよぶべ ものありや はなは

 はじめも おわりもよろし)

意味・・年老いた身にも艶やかさはあるのでしょうか。

    もちろん艶やかさはありますとも。桜の花だ
    って満開の時だけが素晴らしいのではありま
    せん。蕾の時もよいし、何と言っても散り際
    が一番美しいではありませんか。

    80歳台で詠んだ歌です。自身を桜吹雪の美し

    さに譬えています。

作者・・斉藤史=さいとうふみ。1909~2002。93歳。

    小倉西高校卒。歌集「ひたくれない」。

出典・・歌集「秋天瑠璃」(栗木
京子著「短歌を楽しむ」)


*************** 名歌鑑賞 ***************


笹の葉に 降りつむ雪の うれを重み 本くたちゆく
わがさかりはも

                  読人知らず

(ささのはに ふりつむゆきの うれをおもみ もと

 くたちゆく わがさかりはも)

意味・・葉に降り積もった雪のために、笹は先端が重く

    なり、根元の方が傾いてゆく。このように、私
    の盛りも下り坂になったとは悔しいことだ。

    雪が解ければ、笹の葉はまた元通りになるよう
    に、私もいつかきっと勢力を盛り返したいもの
    だ。

 注・・うれ=末。木の枝や草葉の先端。
    くたち=降ち。盛りを過ぎること。衰える、傾
     く。

    はも=上接する語を強く引き立てる語。

出典・・古今和歌集・891。


*************** 名歌鑑賞 ****************


月をこそ ながめなれしか 星の夜の 深きあはれを
こよひ知りぬる

                建礼門院右京大夫

(つきをこそ ながめなれしか ほしのよの ふかき

 あわれを こよいしりぬ)

意味・・いつも月ばかり眺め慣れていたのだが、星の

    夜の深い情趣を、今宵はじめて知ったことで
    ある。
   
    平清盛の娘建礼門院に仕えた作者は、平資盛
    (すけもり)と恋愛関係にあり、1185年に資盛
    は源平の戦いで戦死にあう。その翌年に詠んだ
    歌です。夜空を見上げると、薄青色に晴れて大
    きな星がきらきらと一面に輝いていた。まるで
    薄い藍色の紙に箔を散らしたように見え、こん
    な星空は初めて見たように思った、という詞書
    があります。月に比べれば、星の輝きは物の数
    ではない。満ち足りた月の美しさのような生活
    から転落した作者が、天空に広がって光り輝く

    星の美しさの世界を発見した歌です。

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうきょ

    うのだいぶ。生没年未詳。1157年頃の生まれ。
    平清盛の娘の建礼門院の女房。


出典・・玉葉和歌集・2159。


*************** 名歌鑑賞 ****************


梅が香に 昔をとへば 春の月 こたへぬ影ぞ 
袖に映れる

               藤原家隆

(うめがかに むかしをとえば はるのつき こたえぬかげぞ

 そでにうつれる)

意味・・梅の香りに誘われて懐かしさのあまり昔のことを

    春の月に尋ねると、答えない月の光が涙に濡れた
    私の袖の上に映った。
 
    伊勢物語四段が背景となっています。
    愛情が深くなっていた女性がいたが、突然身を隠
    した(知らせずに結婚した)。翌年探し訪ねてみる
    と、落ちぶれた姿になっていた。還らぬ昔を思う
    と懐旧の涙が出た。

 注・・梅が香に=梅の花盛りの頃を思い出して、以前付き
     合っていた女性が恋しくなったので、の意。
    影=月の光。

    袖=懐旧の涙で濡れた袖。

作者・・藤原家隆=ふじわらのいえたか。1158~1237。非

    参議従二位。「新古今集」撰者の一人。

出典・・新古今和歌集・45。 


*************** 名歌鑑賞 ****************


草枕 旅の宿りに 誰が夫か 国忘れたる
家待たまくに
              柿本人麻呂

(くさまくら たびのやどりに たがつまか くに
 わすれたる いえまたまくに)

詞書・・柿本朝臣人麻呂、香具山の屍を見て、悲しび
    て作る歌。

意味・・草を枕のこの旅先で、いったい誰の夫なので
    あろうか。故郷へ帰るのも忘れて臥せってい
    るのは。妻はさぞ帰りを待っていることであ
    ろうに。

    現在では野垂れ死にする人はいない。それに
    変って交通事故で亡くなる人が多い。夫の死
    を知らない間は、夕食のご馳走を作って待っ
    ているのだろうが。

 注・・草枕=「旅」の枕詞。ここでは、草を編んで
     作った枕で寝ることで、侘しい旅を暗示し
     ている。
    旅の宿り=旅先での仮寝。「宿り」は我が家
     以外で泊ること。
    待たまく=「まく」は推量の助動詞「む」に
     接尾後の「く」がついたもので、「待たむ」
     の未然形。待っていることだろう。

作者・・柿本人麻呂=かきのもとひとまろ。生没年未
    詳。710年頃亡くなった宮廷歌人。

出典・・万葉集・426。

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