名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年02月


**************** 名歌鑑賞 ***************


真木の屋に つもれる雪や 解けぬらん 雨に知られぬ
軒の玉水        
                   宗尊親王

(まきのやに つもれるゆきや とけぬらん あめに
 しられぬ のきのたまみず)

意味・・真木の屋に積もった雪が解けたのだろうか、
    雨では見られない玉のような雫が軒から落ち
    ている。

    参考歌です。
   「山深み春とも知らぬ松の戸にたえだえかかる
    雪の玉水」    (意味は下記参照)

 注・・真木の屋=杉や檜の皮で屋根を葺(ふ)いた家。

作者・・宗尊親王=むねたかしんのう。1242~1275。
    33歳。後嵯峨天皇の第二皇子。鎌倉幕府の第
    六代将軍。

出典・・文応三百首(岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」)

参考歌です。

山深み 春とも知らぬ 松の戸に たえだえかかる 
雪の玉水     
                式子内親王

(やまふかみ はるともしらぬ まつのとに たえだえ
 かかる ゆきのたまみず)

意味・・山が深いので、春になったとも知らない山家
    (やまが)の松で作った戸に、とぎれとぎれに
    雪どけの玉のように美しい滴(したた)りが落
    ちかかっている。

    しんと静まった風景の中で滴りの音だけがする。
    このことより、深山の雪に埋もれた山荘にも、
    かすかな春の訪れが来た事を詠んでいます。

 注・・松の戸=松の枝や板でを編んで作った粗末な戸。
    たえだえに=とぎれとぎれに。

作者・・式子内親王=しょくしないしんのう。1149  ~
    1201。後白河院の皇女。

出典・・新古今和歌集・3。


**************** 名歌鑑賞 ***************


たのしみは 昼寝目ざむる 枕べに ことことと湯の
煮えてある時
                 橘曙覧

(たのしみは ひるねめざむる まくらべに ことことと
 ゆの にえてあるとき)

意味・・私の楽しみは、昼寝から目がさめると、枕の
    そばの火鉢にかけた鉄瓶が、ことこと、こと
    ことと煮え立った音を立てている時だ。夢の
    中の恍惚感を、この湯の音が呟(つぶや)いて
    いるよに感じせれる。

    「盧生一炊の夢」を念頭に詠んだ歌です。
    中国の唐の盧生という青年が立身を志して、
    旅先の邯鄲(かんたん)という町で仙人に枕を
    借りて一眠りする間に一生の富貴栄華の夢を
    見るが、目覚めると宿の主人が炊(かし)いで
    いた黄粱(こうりょう・粟飯)はまだ煮えてい
    なかったという故事。人間の一生は短く、栄
    枯盛衰のはかないことのたとえである。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。紙
    商の長男に生れるが、家業は異母弟に譲り隠
    棲。福井藩主に厚遇された。

出典・・岡本信弘著「独楽吟」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


降る雪は かつぞ消ぬらし あしひきの 山のたぎつ瀬
音まさるなり             
                                            読人知らず

(ふるゆきは かつぞけぬらし あしひきの やまの
 たぎつせ おとまさるなり)

意味・・雪は降っているが、それは片っ端から解けて
    いるに違いない。解けた水が流れ込み、山の
    急流の音がよけいに大きく聞えてくる。

 注・・あしひきの=山の枕詞。
    たぎつ瀬=滝つ瀬。激つ瀬。激流。

出典・・古今和歌集・319。


*************** 名歌鑑賞 ***************


大君の 和魂あへや 豊国の 鏡の山を
宮と定むる
              手持女王

(おおきみの にきたまあえや とよくにの かがみの
 やまを みやとさだむる)

意味・・都から遠く離れたこの地が、我が君・河内王の
    御心に叶ったのであろうか。そんなことはない
    はずなのに、こんな寂しい豊国の鏡の山を永久
    のお宮にお定めになるとは。

    694年太宰帥(だざいのそち)の河内王(かわちの
    おおきみ)は筑紫で死去し、大宰府の遥か東方の
    鏡山に葬られた。その葬送の地で妻手持女王が
    詠んだ歌です。王の身でありながらなぜ都から
    遠く離れた地で葬られたのかと痛恨した歌です。

 注・・大君=河内王(かわちのおおきみ)。694年太宰帥
     であった。
    和魂(にきたま)=「荒魂」の対で、霊魂の温順な
     面。
    あへ=敢へ。こらえる。叶う、気に入る。
    豊国の鏡の山=福岡県田川郡香春町の鏡山。盆地
     に横たわる小山。

作者・・手持女王=たもちのおおきみ。伝未詳。

出典・・万葉集・417。


**************** 名歌鑑賞***************


もののふの 矢並つくろふ 籠手の上に 霰たばしる 
那須の篠原 
                   源実朝 

(もののうの やなみつくろう こてのうえに あられ
 たばしる なすのしのはら)

意味・・武士が箙(えびら)の中の矢並を整えていると、その
    籠手の上に霰が音をたてて飛び散っている。勇壮な
    那須の篠原の活気みなぎる狩場であることだ。

    狩場の凛(りん)と張り詰めた勇壮な雰囲気と、霰の
    もつ激しさが溶け合っています。

 注・・矢並つくろふ=矢の並びの乱れを整える。
    籠手(こて)=手の甲を保護する武具。
    那須の篠原=栃木県那須野の篠竹(しのたけ)の群生
     する原。鎌倉時代は狩場であった。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。28歳。
    鎌倉幕府三代将軍。鶴岡八幡宮で甥に暗殺された。

出典・・金槐和歌集・348。


**************** 名歌鑑賞 ***************


たらちねの 母が形見と 朝夕に 佐渡の島べを
うち見つるかも
                良寛

(たらちねの ははがかたみと あさゆうに さどの
 しまべを うちみつるかも)

詞書・・このごろ出雲崎にて。

意味・・この頃、母の生れた島を形見として朝夕見て、
    優しかった母を思い出す。そして教えてくれ
    た事を心に思い浮かべるのである。

 注・・出雲崎=新潟県出雲崎町。良寛誕生の地。
    たらちねの=「母」の枕詞。
    佐渡の島べ=佐渡。母の出生地。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。18歳で曹
    洞宗光照寺に入山。諸国を行脚。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集・1238」。


*************** 名歌鑑賞 ***************


梅の花 それとも見えず 久方の 天霧る雪の 
なべて降れれば     
                柿本人麻呂

(うめのはな それともみえず ひさかたの あまぎる
 ゆきの なべてふれれば)

意味・・これではどれが梅の花だか区別がつかない。
    空を霧のようにかき曇らせる雪が一面に降っ
    ているので。

    寒さの中の厳しさにも耐えて美しい花を咲か
    せている白梅。だが枝に雪が積もり花がどれ
    だか分らない。     

 注・・それとも見えず=どれであるのか区別がつか
     ない。
    久方=天・日・月・雨などの枕詞。
    天霧る=天が一面に霧りわたる。
    なべて降れれば=一面に降り積もってている
    ので。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。710年頃没。
    万葉集を代表する歌人。

出典・・古今和歌集・334。


*************** 名歌鑑賞 ***************


駒とめて 袖うちはらふ 陰もなし 佐野のわたりの
雪の夕暮れ       
                 藤原定家

(こまとめて そでうちはらう かげもなし さのの
  わたりの ゆきのゆうぐれ)

意味・・馬を止めて、雪の降りかかった袖を払う物陰も
    ない。佐野のあたりの雪の夕暮れは。    

    馬を配し、時を夕暮れとし、一帯を白一色にして
    降る雪の中を、旅人が悩んでいる情景を詠んだ歌
    です。

    本歌は、
   「苦しくも降りくる雨か三輪が崎狭野の渡りに家
    もあらなくに」です。  (意味は下記参照)

注・・佐野=和歌山県新宮市内。
    わたり=辺り、あたり。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241
   「新古今和歌集」の撰者の一人。

出典・・新古今和歌集・671。

本歌です。

苦しくも 降り来る雨か 三輪の崎 狭野の渡りに
家もあらなくに         
                 長忌寸意吉麻呂

   
(くるしくも ふりくるあめか みわのさき さのの
 わたりに いえもあらなくに)

意味・・困ったことに降ってくる雨だ。三輪の崎の狭野
    の渡し場には雨宿りする家もないのに。

    旅の途中で雨に降られて困った気持を詠んでい
    ます。

注・・三輪の崎=和歌山県新宮市の三輪崎。
    狭野=三輪崎の南の地。
    渡り=川を横切って渡るところ。

作者・・長忌寸意吉麻呂=ながのいみきおきまろ。生没
    年未詳。700年前後の人。

出典・・万葉集・265。


*************** 名歌鑑賞 ***************


楼の上も はにふの小屋も 住む人の 心にこそは
たかきいやしき
                  島津忠良

(ろのうえも はにゅうのこやも すむひとの こころに
 こそは たかきいやしき)

意味・・立派な家に住んでいても、みすぼらしい草葺(くさ
    ぶき)の家に住んでいても、人間の価値には関係が
    ないのである。心掛けが立派であれば、その人は尊
    敬されるのである。

    参考歌です。
   「世の中は とてもかくても 同じこと宮も 藁屋も
    果てしなければ」  (意味は下記参照)

注・・楼(ろ)=楼(ろう)。二階建て以上の高い建物。
    はにふの小屋=埴生の小屋。みすぼらしい小屋。草
     葺の家。

作者・・島津忠良=しまづただよし。1492~1568。薩摩の
    戦国武将。

出典・・島津日新公いろは歌。
  
参考歌です。

世の中は とてもかくても 同じこと 宮も藁屋も 
果てしなければ 
                  蝉丸

(よのなかは とてもかくても おなじこと みやも
 わらやも はてしなければ)

意味・・この世の中ではどういう生活をしていても、
    結局は同じことだ。宮殿に住んでも藁屋に
    住んでも、人の欲望には際限がないのだから。

    蝉丸が粗末な藁屋に住んでいたのを嘲笑(ち
    ようしょう)されて詠んだ歌です。

注・・とてもかくても=とありてもかくありても。
     結局どのように暮らしても。
    果てしなければ=限りがない。人間の欲望
     には際限がないから。「し」は強調の助
     詞。

作者・・蝉丸=せみまる。平安時代(9世紀)の人。目
    が不自由で琵琶の名手。

出典・・新古今和歌集・1851。


*************** 名歌鑑賞 ***************


小夜ふくる ままに汀や凍るらむ 遠ざかりゆく
滋賀の浦波
                快覚法師

(さよふくる ままにみぎわや こおるらん とおざ
 かりゆく しがのうらなみ)

意味・・夜が更けるにつれて波打ち際が凍って行くの
    だろうか。滋賀の浦の波の音がしだいに遠ざ
    かって聞こえて来るのは。

注・・ままに=・・につれて。
    滋賀の浦=琵琶湖の西岸。

作者・・快覚法師=かいかくほうし。生没年未詳。

出典・・後拾遺和歌集 ・419。

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