名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年04月


**************** 名歌鑑賞 ****************


見ても知れ いづれこの世は 常ならむ 後れ先だつ
花も残らず           
                                            良寛

(みてもしれ いずれこのよは つねならん おくれ
 さきだつ はなものこらず)

意味・・見て理解しなさい。どのみちこの世という
    ものは、はかなく変わりやすいものだ。後
    に残る花も、やがては皆残らずに散ってし
    まうものである。

    人間も遅かれ早かれ死んでしまうものであ
    る。生きている間は自分の納得のいく生き
    方をしたいものだ。

 注・・いづれ=どのみち。
    常ならむ=常ではない、変わりやすい。

作者・・良寛=りょうかん。1758~ 1831。

出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


盛りなる 花のよはひを おもふには 老いをや春の
友と見ざらん      
                  清岩正徹

(さかりなる はなのよわいを おもうには おいおや
 はるの ともとみざらん)

意味・・今を盛りに咲いている花の若々しい年齢を
    思うと、花は年老いた私を、春の友とはみ
    ないだろうなあ。

    躍動感のある春は、華麗な花を友とするが
    気力も希望も野心もなく、肉体的にも衰え
    ている私を友とみなさないだろうなあ、寂
    しいなあ。
    
 注・・花のよはひ=花の年齢、花の青春期。 

作者・・清岩正徹=きよいわしょうてつ。1381~
    1459。歌僧。

出典・・永享五年正徹詠草 (岩波書店「中世和歌集・
    室町篇」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


色も香も おなじ昔に さくらめど 年ふる人ぞ 
あらたまりける           
                 紀友則

(いろもかも おなじむかしに さくらめど としふる
 ひとぞ あらたまりける)

意味・・色も香りも昔と同じように咲いているのだろうが、
    年を経てここにやって来た我々の方は、姿がこの
    ように変っている。

    桜の下で年を取ったことを嘆いて詠んだ歌です。

    中国の詩句 「年々歳々花は相似たり、歳々年々
    人は同じからず」と似ています。

 注・・らめ=直接に経験していない現在の事実について
       推量すること。作者は必ずしも毎年見に来
       ているものではない。
    年ふる=年を経る。
    あらたまり=姿が変ること。ここでは老人らしく
     なること。

作者・・紀友則=生没年未詳。904年大内記になる。古今集
    の撰者の一人。紀貫之は従兄弟。

出典・・古今和歌集・57。


**************** 名歌鑑賞 *****************


ながむとて 花にもいたく 馴れぬれば ちる別れこそ
かなしかりけれ            
                   西行

(ながむとて はなにもいたく なれぬれば ちるわかれ
 こそ かなしかりけれ)

意味・・心をこめ眺めていると、すっかり桜の花に
    親しんできたので、いざ花が散る頃となっ
    て別れねばならないことはまことに悲しい
    ことだ。

    人も同じことで馴れ親しんでくると別れる
    のがつらくなる。

 注・・ながむ=眺む、感情を込めてじっと見つめ
        る。
    馴れ=恋人のようになじんだ状態。

作者・・西行=1118~1190。

出典・・古今和歌集・126。


**************** 名歌鑑賞 *****************

初瀬山 尾上の鐘の 声のうちに 木末の花の
色ぞ明けゆく          
                頓阿法師

(はつせやま おのえのかねの こえのうちに こずえの
 はなの いろぞあけゆく)

意味・・初瀬山の峰に響く鐘の音とともに、春の夜は、
    梢の花の色から明け初めているよ。

    峰の鐘の音と梢の桜に曙を聞き見る優雅な気分
    を詠んでいます。

 注・・初瀬山=奈良県桜井市、長谷寺の鐘や桜で有名。
    尾上=山の山頂。
    鐘=長谷寺の暁の鐘。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。和歌
    四天王の一人。兼好法師と親交があった。

出典・・頓阿法師詠(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)


****************** 名歌鑑賞 *****************


1 さそはれぬ 心のほどは つらけれど ひとり見るべき
  花のいろかは              
                    小侍従

2 風をいとふ 花のあたりは いかがとて よそながらこそ
  思ひやりつれ             
                    建礼門院右京大夫

1 (さそわれぬ こころのほどは つらけれど ひとり
   みるべき はなのいろかわ)
2 (かぜをいとう はなのあたりは いかがとて よそ
  ながらこそ おもいやりつれ)

1 詞書・・公卿、殿上人達が連れ立って花見をする時に
      身体の具合が悪いと同行しなかったので、桜
      の枝に、書いて結んでお届けしました。
2 詞書・・風邪気味で行かれなかったので、お返事を次
      のように書きました。

1 意味・・私たちの誘いに乗らない、あなたのお気持ち
       は残念でしたけれども、私たちだけで見るに
       は惜しいほどの花の美しさなので、このよう
       にお目にかけます。

2 意味・・満開の桜には花を散らす風は禁物ですから、
      風邪気味の私が花のあたりに近寄るのもいか
      がと思いまして、よそながら美しい花を思い
      やっていました。

  注・・かは=反語の意味を表す。・・であろうか、
       いや・・ではない。
     公卿=関白・大臣・大、中納言・参議をいう。
      位は三位以上。
     殿上人=昇殿を許された人。四位・五位の人。

 作者・・小侍従=生没年未詳。1121年頃の生まれ。高倉
             天皇に仕える。
     建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうきょ
       のだいぶ。1157頃~1227頃。高倉天皇の中宮
       平徳子(建礼門院)に仕える。

 出典・・風雅和歌集。


**************** 名歌鑑賞 *****************


窓ちかく 吾友とみる くれ竹に 色そへてなく
鶯のこえ
                後西天皇
           
(まどちかく わがともとみる くれたけに いろそえて
 なく うぐいすのこえ)

意味・・窓近くに生えて、我が友として見ている呉竹の
    その色に、音色という色を添えて鶯が鳴いてい
    る。

    清々しく思っている竹園、しかも鶯が来て鳴い
    ている心地よさを詠んでいます。

 注・・くれ竹=呉竹。はちくの異名。直径3~10cm、
     高さ10~15m。

作者・・後西天皇=ごさいてんのう。1637~1685。

出典・・万治御点・まんじおてん(小学館「近世和歌集」)


****************** 名歌鑑賞 ******************


ももという 名もあるものを 時のまに 散る桜にも
思ひおとさじ        
                                            紫式部

(ももという なもあるものを ときのまに ちるさくら
 にも おもいおとさじ)

意味・・桃は百(もも)、百年にも通じる名を持っている
    ではないか。すぐに散る桜に劣るものか。

    桜ばかりがもてはやされるのはなぜだろうか。
    他に美しい花はいくらでもあるのに、他の花を
    歌人はめったに詠もうとしない。なぜ私たちは
    梅と桜ばかり褒めるのだろう。

      目立たなくて浮かばれない友人に、人にない良
    いところを持っているのにと、励まして詠んだ
    歌です。    

 注・・もも=「桃」と「百(もも)」を掛ける。
    時のま=時の間、少しの間。
    おとさじ=落とさじ、劣った扱いをしない。

作者・・紫式部=970~1016。「源氏物語」。

出典・・紫式部集。 


**************** 名歌鑑賞 ****************


物皆は 新たしきよし ただしくも 人は古りにし 
よろしかるべし      
                 柿本人麻呂

(ものみなは あらたしきよし ただしくも ひとは
 ふりにし よろしかるべし)

意味・・もちろん物はみんな新しい方が良いに決まって
    いる。とは言うものの、人には古びれば古びた
    なりのよさがあるように思われる。

    空威張りをしているが老いを嘆いた歌です。
    とはいうものの、年老いて良いこともあります。
    怖さが少なくなる・責任が小さくなる・自由の
    時間が多くなる・大らかになる・孫の可愛さが
    分る・分ってもらえなくても認められなくても
    そんな事は取るに足りないと考える事が出来る
    ・・・。

 注・・ただしくも=但し。

作者・・柿本人麻呂=かきのもとのひとまろ。生没年未詳。
    710頃没。万葉集を代表する歌人。

出典・・万葉集・1885。


***************** 名歌鑑賞 ****************


思へただ 花の散りなん 木のもとに 何をかげにて
わが身住みなん           
                  西行

(おもえただ はなのちりなん このもとに なにを
 かげにて わがみすみなん)

意味・・桜の花よ、お前が散ってしまったら、その木の
    下で今後何を頼りに自分は住もうか、もはや陰
    とたのむべき何物もないことを思ってどうか散
    らないで欲しい。


    花が散ってしまった後では自分はどんな木陰に
    住んでも心が休まることがない。すなわち時代
    が変わってしまって、昔の美意識や価値観のま
    ま取り残されてしまった、という自分の悲哀を
    詠んでいます。

    花の散る前の木陰は心地よい。その半面花が散
    った後は寂しい。この「花」は恩恵という花で
    す。年金、社会保障制度、親・家族の愛、文化、
    人々とのつながりという恩恵です。
 
 注・・花=「今まで被っている恩恵」を花にたとえて
      います。

作者・・西行=さいぎょう。1118~ 1190。

出典・・山家集・119。

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