名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年05月


***************** 名歌鑑賞 ****************


我のみぞ ありしにもあらず なりにけり 花は見し世に
変わらざりけり    
                    白河院

(われのみぞ ありしにもあらず なりにけり はなは
 みしよに かわらざりけり)

意味・・私だけが以前と違う境涯となってしまった。
    が、花は帝位にあって見た昔と変わらぬ美
    しさだ。

    「加茂川の水、双六の賽、三蔵法師、これぞ
    我が心にかなわぬもの」と嘆き、その権威を
    誇った白河院であるが、今はこのような実力
    が無くなり、また体力の衰えの寂しさも詠ん
    でいます。

 注・・ありし=以前の(姿)、昔の(境遇)。

作者・・白河院=しらかわいん。1053~1129。72代
    の天皇。「後拾遺和歌集」「金葉和歌集」の
    撰集を命ずる。

出典・・風葉和歌集・74。 


************** 名歌鑑賞 ***************


読売は 一本箸で めしを食い
                    作者不明

(よみうりは いっぽんばしで めしをくい)

意味・・飯を食べるのに二本の箸を使うが、瓦版なら筆
    一本で飯が食える。

    瓦版は火事や殺人、演芸の類を記事にした。幕府
    を批判した記事を出すと、手が後に回るのでちょ
    うちん持ちの記事も書いた。当時はこういう瓦版
    がよく売れた。

 注・・読売=瓦版(江戸時代の新聞)のこと。一人が読み、
     一人が三味線を弾いて売り歩いたのでこの名に
     なった。


**************** 名歌鑑賞 ****************


水の面に 生ふる五月の 浮き草の 憂きことあれや
ねを絶えて来ぬ 
                 凡河内躬恒

(みずのおもに おうるさつきの うきぐさの うきこと
 あれや ねをたえてこぬ)

意味・・水面に生えている五月の浮草の「うき」では
    ないが、あなたは「憂き」事があるのか。
    根なしの浮草のごとくとんと音信も絶え訪れ
    もないことです。

      詞書は長い間訪ねて来なかった友達のもとに
    詠んで贈った歌、です。

 注・・憂き=いやなこと、不満(作者に対して)なこと。
    ねを絶えて=音信が絶えて、「ね」は根と音の
     掛詞。

作者・・凡河内躬恒=おうしこうちのみつね。生没年未詳。
    894頃活躍した人。古今和歌集の撰者の一人。

出典・・古今和歌集・976。 


**************** 名歌鑑賞 ****************


勅なれば 思ひな捨てそ 敷島の 道にものうき
心ありとも
                二条良基
          
(ちょくなれば おもいなすてそ しきしまの みちに
 ものうき こころありとも)

意味・・勅命であるので和歌の道を思い捨ててはいけない。
    たとえ和歌の道につらいことがあったとしても。

          物事を進めるのに大事なのは自発的な心である。
    でも自発心は嫌になれば止めてしまうものである。
    が、命令となれば続けざるを得ない。志に折れる
    気持ちになった時は、命令だと思って続ける事で
    ある。

 注・・勅=天皇が下す命令。
    な・・そ=禁止の意を表す。
    敷島の道=和歌の道、歌道。

作者・・二条良基=にじょうのよしもと。1320~1388。
    関白右大臣。南北朝期の歌人。

出典・・新続古今和歌集(小学館「中世和歌集」)

 

***************** 名歌鑑賞 *****************

  
朝づく日 匂へる空の 月見れば 消えたる影も
ある世なりけり
                香川影樹

                
(あさずくひ におえるそらの つきみれば きえたる
 かげも あるよなりけり)

意味・・朝日が光り輝く空に残る月を見ると、すっかり
    光も消えている。そのように時めいて光輝く存
    在もあれば、不遇のまま消えてゆく人もあるの
    が、この世なのだなあ。

    現在は年金制度、生活保護制度、健康保険制度
    などの社会保障があり、不遇の人は少なくなり
    改善されて来ている。

 注・・朝づく日=朝日。
    匂へる空=光輝く空。

作者・・香川影樹=かがわかげき。1768~1843。号は
    桂園。桂園派の和歌は歌壇の一大勢力となり近
    世に影響を与えた。歌集「桂園一枝」。

出典・・歌集「桂園一枝」(小学館「近世和歌集」)


**************** 名歌鑑賞 *****************


五月雨に 干すひまなくて 藻塩草 煙も立てぬ
浦のあま人        
                 西行

(さみだれに ほすひまなくて もしおぐさ けぶりも
 たてぬ うらのあまびと)

意味・・降り続く五月雨のため、浦の海人は藻塩草を
    干す時がないので、焼く事も出来ず煙も立た
    ないことだ。

    五月雨によって特異な状態になった事を詠ん
    でいます。

 注・・藻塩草=海草に海水を含ませて乾かし、それ
     を焼いた灰を水にとかし、その上ずみを煮
     つめて塩を作るがその為の海草。
    あま人=海人。漁業に従事する人、漁夫。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義
    清(のりきよ)。歌集に「山家(さんか)集」。

出典・・歌集「山家集・215」。


***************** 名歌鑑賞 *****************


春の夜の 夢の浮橋 とだえして 峰に別るる 
横雲の空
                藤原定家
            
(はるのよの ゆめのうきはし とだえして みねに
 わかるる よこぐものそら)

意味・・春の夜のはかなく短い夢がふと途切れると、峰
    から別れた横雲が離れ去って行くのが見える。
    曙の空に。まるで男と女の別れの物語のように。

    壬生忠岑の次の本歌により「峰に別るる横雲」は
    つれない夢の内容を暗示しています。

    「風吹けば 峰に別るる 白雲の たえてつれなき
    君が心か」      (意味は下記参照)            

 注・・浮橋=筏や舟を浮かべてその上に板を渡して
       作った橋。たよりない感じがするので
       夢のたとえにされる。
    とだえして=途切れて。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241。
   「新古今和歌集」の撰者。

出典・・新古今和歌集・38。

本歌です。

風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 
君が心か   
                壬生忠岑
            
(かぜふけば みねにかかるしらくもの たえて
 つれなき きみがこころか)

意味・・風が吹くと峰から離れて行く白雲が吹きちぎられ
    て絶えてしまう、その「絶えて」のように、あな
    たとの関係がすっかり途絶えてしまった。なんと
    つれないあなたの心であることだ。

    切ない恋を詠んだもので、通じない我が思いを嘆
    き自分に無関心な相手の女性をくやしく思う気持
    を詠 んだ歌です。

 注・・たえて=「絶える」と「たえて(すっかりの意)」
     を掛ける。
    つれなき=無情だ。

作者・・壬生忠岑=みぶのただみね。生没年未詳。古今和
    歌集の撰者。

出典・・古今和歌集・601。


****************** 名歌鑑賞 *****************


なみならぬ 用事のたんと よせくれば 釣りにゆくまも
あらいそがしや     
                   加保茶元成

意味・・なみなみならぬ大事な用事が、波のようにあとから
    あとから沢山寄せて来るので、釣りに行く暇もない。
    まあなんと忙しい事なのだろう。

    忙しくて好きな釣りにも行けない、という事を詠んだ
    ものですが、「釣り」に「波」の縁語仕立てた面白さ
    がネライです。

 注・・なみならぬ=普通ではないと「波」を掛ける。
    あらいそがしや=波の縁語の「荒磯」を掛けている。

作者・・加保茶元成=かぼちゃもとなり。1754~1828。江戸
    時代の狂歌作者。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。


***************** 名歌鑑賞 *****************


暮れてゆく 春のみなとは 知らねども 霞に落つる
宇治の柴舟       
                   寂連法師

(くれてゆく はるのみなとは しらねども かすみに
 おつる うじのしばふね)

意味・・終わりになって去っていく春の行き着く所は
    知らないが、今、霞の中に落ちるように下っ
    ていく宇治川の柴舟とともに、春が去って行
    く感じがする。

    霞がかかり長閑な宇治川の柴舟に、去り行く
    春の寂しさを詠んでいます。

 注・・暮れてゆく=春がだんだん終わりに近づいて
     いく。
    春のみなと=春の行き着く所。
    宇治の柴舟=宇治川を下る、柴を積んだ舟。    

作者・・寂連法師=じゃくれんほうし。1139~1202。
    従五位上・中務小輔。33歳頃に出家する。
   「新古今集」の撰者。

出典・・新古今和歌集・169。


***************** 名歌鑑賞 ******************


五月雨は 美豆の御牧の 真菰草 刈り干すひまも
あらじと思ふ          
                相模

(さみだれは みずのみまきの まこもぐさ かりほす
 ひまも あらじとおもう)

意味・・五月雨の降る季節は、降り続く雨のために、
    美豆の御牧ではあの真菰草を刈って干す暇も
    ないと思われる。

    この歌の後から、五月雨のわずらわしさを述
    るだけでなく、労働の停滞や河川の増水など
    が詠まれるようになった。

 注・・美豆(みず)の御牧(みまき)=宇治川、木津川
     の合流点に近く京都府久世郡久世町のあた
     り。当時有名な牧場があった。
    真菰草(まこもぐさ)=イネ科の多年草。沼や
     川の水中に生える。ここでは家畜の餌。

作者・・相模=さがみ。生没年未詳。1035年頃活躍し
    た女性。夫の大江公資(きんより)が相模守に
    なったので相模と名のった。

このページのトップヘ