名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年05月


**************** 名歌鑑賞 *****************


五月雨に 干すひまなくて 藻塩草 煙も立てぬ
浦のあま人        
                 西行

(さみだれに ほすひまなくて もしおぐさ けぶりも
 たてぬ うらのあまびと)

意味・・降り続く五月雨のため、浦の海人は藻塩草を
    干す時がないので、焼く事も出来ず煙も立た
    ないことだ。

    五月雨によって特異な状態になった事を詠ん
    でいます。

 注・・藻塩草=海草に海水を含ませて乾かし、それ
     を焼いた灰を水にとかし、その上ずみを煮
     つめて塩を作るがその為の海草。
    あま人=海人。漁業に従事する人、漁夫。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義
    清(のりきよ)。歌集に「山家(さんか)集」。

出典・・歌集「山家集・215」。


***************** 名歌鑑賞 *****************


春の夜の 夢の浮橋 とだえして 峰に別るる 
横雲の空
                藤原定家
            
(はるのよの ゆめのうきはし とだえして みねに
 わかるる よこぐものそら)

意味・・春の夜のはかなく短い夢がふと途切れると、峰
    から別れた横雲が離れ去って行くのが見える。
    曙の空に。まるで男と女の別れの物語のように。

    壬生忠岑の次の本歌により「峰に別るる横雲」は
    つれない夢の内容を暗示しています。

    「風吹けば 峰に別るる 白雲の たえてつれなき
    君が心か」      (意味は下記参照)            

 注・・浮橋=筏や舟を浮かべてその上に板を渡して
       作った橋。たよりない感じがするので
       夢のたとえにされる。
    とだえして=途切れて。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241。
   「新古今和歌集」の撰者。

出典・・新古今和歌集・38。

本歌です。

風吹けば 峰にわかるる 白雲の 絶えてつれなき 
君が心か   
                壬生忠岑
            
(かぜふけば みねにかかるしらくもの たえて
 つれなき きみがこころか)

意味・・風が吹くと峰から離れて行く白雲が吹きちぎられ
    て絶えてしまう、その「絶えて」のように、あな
    たとの関係がすっかり途絶えてしまった。なんと
    つれないあなたの心であることだ。

    切ない恋を詠んだもので、通じない我が思いを嘆
    き自分に無関心な相手の女性をくやしく思う気持
    を詠 んだ歌です。

 注・・たえて=「絶える」と「たえて(すっかりの意)」
     を掛ける。
    つれなき=無情だ。

作者・・壬生忠岑=みぶのただみね。生没年未詳。古今和
    歌集の撰者。

出典・・古今和歌集・601。


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なみならぬ 用事のたんと よせくれば 釣りにゆくまも
あらいそがしや     
                   加保茶元成

意味・・なみなみならぬ大事な用事が、波のようにあとから
    あとから沢山寄せて来るので、釣りに行く暇もない。
    まあなんと忙しい事なのだろう。

    忙しくて好きな釣りにも行けない、という事を詠んだ
    ものですが、「釣り」に「波」の縁語仕立てた面白さ
    がネライです。

 注・・なみならぬ=普通ではないと「波」を掛ける。
    あらいそがしや=波の縁語の「荒磯」を掛けている。

作者・・加保茶元成=かぼちゃもとなり。1754~1828。江戸
    時代の狂歌作者。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。


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暮れてゆく 春のみなとは 知らねども 霞に落つる
宇治の柴舟       
                   寂連法師

(くれてゆく はるのみなとは しらねども かすみに
 おつる うじのしばふね)

意味・・終わりになって去っていく春の行き着く所は
    知らないが、今、霞の中に落ちるように下っ
    ていく宇治川の柴舟とともに、春が去って行
    く感じがする。

    霞がかかり長閑な宇治川の柴舟に、去り行く
    春の寂しさを詠んでいます。

 注・・暮れてゆく=春がだんだん終わりに近づいて
     いく。
    春のみなと=春の行き着く所。
    宇治の柴舟=宇治川を下る、柴を積んだ舟。    

作者・・寂連法師=じゃくれんほうし。1139~1202。
    従五位上・中務小輔。33歳頃に出家する。
   「新古今集」の撰者。

出典・・新古今和歌集・169。


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五月雨は 美豆の御牧の 真菰草 刈り干すひまも
あらじと思ふ          
                相模

(さみだれは みずのみまきの まこもぐさ かりほす
 ひまも あらじとおもう)

意味・・五月雨の降る季節は、降り続く雨のために、
    美豆の御牧ではあの真菰草を刈って干す暇も
    ないと思われる。

    この歌の後から、五月雨のわずらわしさを述
    るだけでなく、労働の停滞や河川の増水など
    が詠まれるようになった。

 注・・美豆(みず)の御牧(みまき)=宇治川、木津川
     の合流点に近く京都府久世郡久世町のあた
     り。当時有名な牧場があった。
    真菰草(まこもぐさ)=イネ科の多年草。沼や
     川の水中に生える。ここでは家畜の餌。

作者・・相模=さがみ。生没年未詳。1035年頃活躍し
    た女性。夫の大江公資(きんより)が相模守に
    なったので相模と名のった。

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