名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年06月


**************** 名歌鑑賞 ***************


やまぶきの みのひとつだに 無き宿は かさも二つは
もたぬなりけり       
                   橘曙覧

(やまぶきの みのひとつだに なきやどは かさも
 ふたつは もたぬなりけり)

詞書・・笠を貸したのだがなかなか返してくれない
    ので、子供に取りに行かせる為に詠んだ歌。

意味・・山吹は花が咲いても実の一つもないように、
    我が家にも蓑は一つも無く笠も二つとは無
    いのですよ、どうか、お貸しした笠をお返
    し下さい。

    催促が柔らかく感じられます。

    本歌は「ななへやへ花はさけども 山吹の
    みのひとつだになきぞかなしき」です。
             (意味は下記)   

 注・・みのひとつ=山吹の実一つと雨具の蓑一つ
      を掛ける。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。
    国文学者。家業を異母弟に譲り25歳頃隠棲。
    「独楽吟」等の歌集がある

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。

本歌です。
ななへやへ 花はさけども 山吹の みのひとつ
だに なきぞかなしき 
                 兼明親王

詞書・・雨の降った日、蓑を借りに来た人がいまし
    たので、山吹の枝を折って与えました。そ
    の人が帰りました翌日、山吹の意味が分ら
    ないといいよこした返事に詠みました歌。

意味・・七重八重に花は咲いているけれど、山吹が
    実の一つさえもないように、蓑一つさえ無
    いのは悲しいことです。

作者・・兼明親王=かねあきらしんのう。914~
    987。従二位・左大臣。

出典・・後拾遺和歌集・1155。


**************** 名歌鑑賞 ****************


思ひ出でて 人に語るは まれなれど よなよな常に
見ゆる夢かな
                   藤原為相
            
(おもいいでて ひとにかたるは まれなれど よなよな
 つねに みゆるゆめかな)

意味・・思い出して人に語ることはめったにないが、毎夜
    毎夜いつも見る夢である。

    昔、辛い経験したことをあえて他人に話すことは
    しないが、自分一人は夢の中でそれを繰り返し見
    ているのだ、という心情です。

作者・・藤原為相=ふじわらのためすけ。1263~1328。
    鎌倉幕府の北条貞時と親交。正二位権中納言。

出典・・為相百首・96(小学館「中世和歌集「)


***************** 名歌鑑賞 ****************


かくばかり 経がたく見ゆる 世の中に うらやましくも
澄める月かな        
                   藤原高光

(かくばかり へがたくみゆる よのなかに うらやま
 しくも すめるつきかな)

意味・・このように過ごしにくく思える世の中に、
    まことにうらやましくも、何の悩みもない
    ように澄んでいる月である。

    澄んだ月の光を見て、その清澄な光に対し
    現実生活の悩み多いことを痛切に感じ、月
    が羨ましいと言ったものです。

    昇進が遅れ悩んでいた頃に詠んだ歌です。

作者・・藤原高光=ふじわらたかみつ。940~994。
    右近衛少将。三十六歌仙の一人。

出典・・拾遺和歌集・435。


************** 名歌鑑賞 ***************


訪ひ行くに 好かぬとぬかす 憎い人 
                   島村桂一

(トヒイクニ スカヌトヌカス ニクイヒト)

意味・・私が知人の所に訪ねて行くと、お世辞にも
    遠いところを良く訪ねてくれた、とは言わ
    ずにあからさまに嫌な顔をする。憎たらし
    い人だ。

    回文になっています。

    訪ねる私はこんな人です。

    かにかくに疎くぞ人の成りにける貧しき
    ばかりは 悲しきはなし   
              (意味は下記参照)

作者・・島村桂一=しまむらけいいち。回文作家。

出典・・東京堂出版「島村桂一著回文川柳辞典」。

参考歌です。

かにかくに 疎くぞ人の 成りにける 貧しきばかり
悲しきはなし      
                  木下幸文 

(かにかくに うとくぞひとの なりにける まずしき
 ばかり かなしきはなし)

意味・・何のかんのといっても、友は貧しい私と疎遠に
    なってしまった。なぜか、それは自分が貧窮の
    境涯にあるからである。貧しいほど人間は悲し
    いことはない。友人達さえも遠ざかってしまう
    のだから。
    
 注・・かにかくに=とにかく。

作者・・木下幸文=きのしたたかふみ。1779~1821。
     香川景樹に師事。

出典・・家集「亮々(さやさや)遺稿」(笠間書院「和歌
    の解釈と鑑賞辞典)


*************** 名歌鑑賞 *****************


むらさきも あけもみどりも うれしきは 春のはじめに
 きたるなりけり     
                     藤原輔尹

(むらさきも あけもみどりも うれしきは はるの
 はじめに きたるなりけり)

詞書・・御堂殿の大餮(だいきょう)に招待されて詠む。

意味・・紫衣(しえ)の人も、朱衣(すえ)の人も、緑衣
    (ろくえ)の人も、一様に心が浮き立つのは、
    春の初めに着飾って御堂殿の大饗に招かれて
    参上して来たことです。

    地位が上がり、それをお祝いとして最高の権
    威者より宴会に招待された。これほど嬉しい
    ことはない、と詠んだ歌です。    

 注・・御堂殿(みどうどの)=藤原道長をさす。
    大饗(だいきょう)=宮中で催される大宴会。
    むらさきもあけもみどりも=公卿・殿上人の
     袍(ほう・上着のこと)の色をいう。「紫」
     は四位の参議以上、「朱」は五位、「緑」
     は六位の蔵人の袍(ほう)の色。
    きたる=「来たる」と「着たる」を掛ける。

作者・・藤原輔尹=ふじわらのすけただ。生没年未詳。
    大和守・従四位。1000年頃活躍した人。

出典・・後拾遺和歌集・16。

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