名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年08月


**************** 名歌鑑賞 ***************


種まきし わがなでしこの 花ざかり いく朝露の
をきてみつらん      
                  藤原顕季

(たねまきし わがなでしこの はなざかり いくあさ
 つゆの おきてみつらん)

意味・・私が種をまいた撫子の花は今花盛りだ。
    朝露の置いた花をもう幾朝起きては見
    た事だろう。

    藤原長実(ながさね)大臣の家の歌合で
    詠んだ歌です。顕季(あけきえ)は長実
    の父親。わが子の「花盛り」を讃えて
    いる。

 注・・わがなでしこ=「我が撫でし児」を掛
     ける。
    をきて=「置き」に「起き」を掛ける。
 
作者・・藤原顕季=ふじわらあきすえ。1055~
    1123。詞花和歌集の撰者顕輔の父。諸
    国の守を歴任。
 
出典・・詞花和歌集・72。 


***************** 名歌鑑賞 ****************


露の身の 消えもはてなば 夏草の 母いかにして
あらんとすらん                         
                 詠人知らず

(つゆのみの きえもはてなば なつくさの はは
 いかにして あらんとすらん)

意味・・露のようにはかないわが身が命耐えて
    しまったならば、母はどのようにして
    生きて行くことだろうか。

    母に先立ち死にそうな娘の心を詠んだ
    歌です。
 
 注・・露の身=露のようにはかない身。
    夏草の=葉を導く枕詞。ここでは同音の
    「はは」を導いている。
    あらん=生きている、健在である。

 出典・・金葉和歌集・619。 


**************** 名歌鑑賞 ***************


下下も下下 下下の下国の 涼しさよ
                         一茶

(げげもげげ げげのげこくの すずしさよ)

前書・・奥信濃に湯浴みして。

意味・・今こうして自分は下々の下国にいるが、一人湯浴
    みをしていると、下国ながらも、何の煩わしさも
    なく、涼しく全く気持ちよいものだ。
 
 注・・下下=きわめて程度の低いこと、最下等、下の下。
    下国=つまらない国、故郷をさしていったもの。
     土地が痩せ、耕地も狭く、ろくな産物もでない
     国。

作者・・小林一茶=1763~1827。北信濃(長野県)の農民
    の子。3歳で生母に死別。継母と不和のため15歳
    で江戸に出て奉公生活に辛酸をなめた。
 
出典・・七番日記。


***************** 名歌鑑賞 ******************


ふかき夜の むら雨かかる 朝じめり まだ咲ききえぬ
花の色かな             
                  正徹
                
(ふかきよの むらさめかかる あさじめり まださき
 きえぬ 花のいろかな)

意味・・深夜に降ったにわか雨で、朝方湿りながら
    まだ咲いたまま朝露も消えていない、清々
    しい花の色だなあ。

    昨夜の雨に濡れてまだ玉の露が残り、花が
    一段と艶(あで)やかに見えて、朝の清々しさ
    を詠んでいます。

 注・・むら雨=にわか雨。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。字は清岩。
    室町中期の歌僧。

出典・・岩波書店「中世和歌集・室町篇」


***************** 名歌鑑賞 ***************


山里は ものの寂しき 事こそあれ 世の憂きよりは
住みよかりけり          
                                        詠人知らず

(やまざとは もののわびしき ことこそあれ よのうき
 よりは すみよかりけり)

意味・・山里の住まいは寂しい事ではあるが、雑事の
    煩わしい俗世間よりは住みよいことだ。

    山里では人との交流が少なく寂しいが、社会
    の中に入って行くと、自分の思い通りになら
    ず憂いを感じる。寂しさと憂いの比較で寂し
    さの方が良いといっている。

 注・・山里=山中の人里。ここでは隠遁生活者。
    寂(わび)しき=心細い、寂(さび)しい。
    世の憂きより=煩わしい世の中にいるよりも。
    「憂き」はつらい事。

出典・・古今和歌集・944。 


*************** 名歌鑑賞 ***************


今ぞ知る 民も願ひや 久方の 空にみづほの
国さかふなり     
               招月正徹

(いまぞしる たみもねがいや ひさかたの そらに
 みずほの くにさかふなり)

意味・・今こそ分かった、国民たちの願望も永久に
    満たされるように、日本の国の、いよいよ
    栄えていることが。

    国民の願望が叶えられるところに日本国の
    繁栄があることを詠んでいます。

    民が富むと年貢も増えて国も栄える。年貢
    を取りすぎたり、戦争が多いと民が貧しく
    なり国の繁栄にはならない。

 注・・久かた=「空」の枕詞。永久の願いの意を
     こめる。
    みづほの国=日本国の美称。「みつ」は空
     に「満つ」を掛ける。

作者・・招月正徹=しょうげつしょうてつ。1381~
    1459。招月は雅号。室町中期の歌僧。
 
出典・・正徹詠草(岩波書店「中世和歌集・室町編」) 


************** 名歌鑑賞 **************


夏山や 一足づつに 海見ゆる  
                    一茶

(なつやまや ひとあしずつに うみみゆる)

意味・・うっそうと茂る樹木を分けて、汗まみれ
    で山路を登りつめ、ようやく頂上近くに
    なると、視界が開け、一足ごとに明るい
    夏の海が姿を現してくる。その輝くよう
    な青さと広がりに、息を飲む思いである。

    海に近い小高い山に登った時に詠んだ歌
    です。

作者・・一茶=いっさ。小林一茶。1763~1827。
    長野県 柏原の農民の子。3歳で生母と死
    別、継母と不和のため15歳で奉公生活に
    辛酸をなめた。
 
出典・・笠間書院「俳句の解釈と鑑賞辞典」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


石見のや 高角山の 木の間より 我が振る袖を 
妹見つらむか 
                柿本人麻呂

(いわみのや たかつのやまの このまより わがふる
 そでを いもみつらんか)

意味・・石見の、高角山の木の間から名残を惜しんで
    私が振る袖を、妻は見てくれたであろうか。

    国司として石見にいた人麻呂が、結婚して間も
    ない現地の妻を残して上京する時の歌です。

 注・・石見=島根県西部地方。
    石見や=石見の。「や」は間投助詞で強調・呼
     びかけの意を表す。・・よ。・・だなあ。
    高角山=島根県都野津町付近の高い山。
 
作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。万葉を代表する歌人。

出典・・万葉集・132。

 


**************** 名歌鑑賞 ***************


武隈の 松は二木を みやこ人 いかがととはば
みきとこたへん        
               橘季通

(たけくまの まつはふたきを みやこびと いかがと
 とわば みきとこたえん)

意味・・武隈の松は二本あるのだが都の人がどうで
    したかと問うたなら「見て来ましたところ
    三本でしたよと」答えよう。

    有名な武隈の二本松を見て詠んだ歌です。
    「二木(ふたき)」だけれど、都人がどうで
    したと尋ねたら「三木(見き・見て来まし
    た)」と答えようという、洒落の歌です。

 注・・武隈=宮城県名取郡岩沼町武隈。
    松は二木=現在は八代目の松だが、歴代の
     松は根際から二股に分かれている巨木な
     ので二本の松のように見える。
    みきとこたへん=来て見てたら三本あった、
     と答えよう。「みき」は「三木」と「見
     き」の掛詞。
 
作者・・橘季通=たちばなすえみち。生没年未詳。
    清少納言の子。陸奥守。
 
出典・・後拾遺和歌集・1042。


***************** 名歌鑑賞 ***************


しづかなる 心だにこそ すずしきに わが住む里には
山風ぞ吹く
                  頓阿法師
            
(しずかなる こころだにこそ すずしきに わがすむ
 さとには やまかぜぞふく)

意味・・世塵を脱した平静な心だけでも十分なのに、私の
    住む山里にはさらに涼しく山風が吹いている。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。俗名・
    二階堂貞宗。和歌四天王の一人。
 
出典・・頓阿法師詠(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)

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