名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年08月


***************** 名歌鑑賞 ****************


静けくも 岸には波は 寄せけるか これの屋通し
聞きつつ居れば       
                 詠人知らず

(しずけくも きしにはなみは よせけるか これのや
 とおし ききつつおれば)

意味・・今日はなんと静かに波が岸にうち寄せている
    のだろう。この旅宿の壁越しにじっと耳を澄
    まして聞いていると。

 注・・これの屋=この家屋の意。この部屋。
 
 出典・・万葉集1237。


**************** 名歌鑑賞 **************


夏河を 越すうれしさよ 手に草履  
                    蕪村

(なつかわを こすうれしさよ てにぞうり)

意味・・流れも浅い夏の川を、手に草履を持って
    はだしで渡っている。底砂の冷たい感触
    も快く、このような水遊びが出来ること
    に嬉しくなってくる。

 作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。
    南宋画の大家。

 出典・・あうふう社「蕪村全句集」。 


*************** 名歌鑑賞 ***************


やがて死ぬけしきは見えず蝉の声
                     芭蕉
 
(やがてしぬ けしきはみえず せみのこえ)
 
意味・・蝉はもうすぐ秋になればはかなく死ぬに決まって
    いるのに、今は少しもその様子がなくやかましい
    ばかりに鳴きたてていることだ。
 
    たとえ短い命でも「今、ここ」を精一杯生きる生
    の充実感を詠んでいます。
 
作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1695。
 
出典・・猿蓑。


*************** 名歌鑑賞 ****************


いつも聞く 麓の里と 思へども 昨日に変る
山おろしの風     
                 藤原実定

(いつもきく ふもとのさとと おもえども きのうに
 かわる やまおろしのかぜ)

意味・・麓の里で聞く山おろしの風の音は、いつも
    聞くのと同じだと思うけれども、やはり夏
    だった昨日まで聞いていたのとは変わって
    いるよ。
 
 注・・昨日と変わる=夏の昨日から立秋の秋に変
     わる。立秋は八月八日頃。
    山おろしの風=山ら吹きおろす風。

作者・・藤原実定=ふじわらさねさだ。1241
    年没。80歳。正二位権中納言。
    「新古今集」撰者の一人。
 
出典・・新古今和歌集・288。 


************** 名歌鑑賞 *************


 石切の 鑿冷したる 清水かな   
                  蕪村

(いしきりの のみひやしたる しみずかな)

意味・・日盛りの石切り場で、石切人夫が
    石を切り出していたが、夏の暑さ
    にのみも熱くなったので、かたわ
    らの清水にのみをつけて冷やして
    いる。いかにも涼しげそうだ。

    一仕事をすると、のみも熱くなる
    し汗もかく。一息入れるためのみ
    を冷やすのである。
 
作者・・蕪村=ぶそん。1716~1783。南宗
    画の大家。
 
出典・・あうふ社「蕪村全句集」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


筑波嶺の このもかのもに 陰はあれど 君がみかげに
ますかげはなし            
                    詠人知らず

(つくばねの このもかのもに かげはあれど きみが
 みかげに ますかげはなし)

意味・・筑波山のあちらこちらにもきれいな木陰は
    いくらもありますが、あなたのかげ(姿)に
    まさるものはありません。
 
    筑波山のあちらこちらに陰は沢山あるが、
    君のおかげに勝るものはない。
    恋の歌とも、主君(世話になった人)をたた
    える歌とも取れます。

 注・・筑波嶺=茨城県の筑波山。
    このもかのもに=あっちこっちに。
    陰=木の陰。裏に有力者にかばってもらう
      意がある。
    みかげ=面影、姿。
 
出典・・古今和歌集・1095。


***************** 名歌鑑賞 *****************

  
故郷は 浅ぢが原と あれはてて よすがら虫の
ねをのみぞ聞く
                 道命法師
         
(ふるさとは あさじがはらと あれはてて よすがら
 むしの ねをのみぞきく)

詞書・・長恨歌の内容を描いた絵の中に、玄宗皇帝が、
    安禄山の変も治まって、もとの所に帰って来
    て、秋の虫が鳴き、あたり一面草が枯れはて
    て、それを見て帝が悲しんでいる絵の有り様
    を詠んだ歌。

意味・・古里の長安は浅茅が原となってすっかり荒れ
    果ててしまって、夜通し虫の鳴く声ばかりを
    耳にすることだ。
 
    戦火で長安の都が焼野原となった哀れさを詠
    んでいます。

 注・・長恨歌=唐の白楽天が作った長編叙事詩。唐
     の玄宗皇帝が、安禄山の変で、最愛の楊貴
     妃を亡くした悲愁の情を、七言、120句で
     綴ったもの。

作者・・道命法師=どうみょうほうし。974~?。中古
    三十六歌仙の一人。
 
出典・・後拾遺和歌集・270。


***************** 名歌鑑賞 *****************


この里も ゆふだちしけり 浅茅生に 露のすがらぬ
くさの葉もなし      
                  源俊頼

(このさとも ゆうだちしけり あさじうに つゆの
すがらぬ くさのはもなし)

意味・・この里でも夕立が降ったのだなあ。浅茅生
    には露がすがりついていない草の葉もない。

    旅の途中ですでに夕立に会い、草葉に置い
    た露でここも夕立が降ったことを知る。

 注・・浅茅生(あさぢう)=丈の低い茅が生えてい
     る野原。
 
作者・・源俊頼=みなもととしより。1055~1129。
    木工頭。金葉和歌集の撰者。
 
出典・・千載和歌集・150。


***************** 名歌鑑賞 ****************


すだきけん 昔の人は 影絶えて 宿もるものは 
有明の月       
                平忠盛

(すだきけん むかしのひとは かげたえて やどもる
 ものは ありあけのつき)

詞書・・遍照寺にて月を見て。

意味・・たくさん集まったであろう昔の人は、全く姿を
    とどめないで、荒れた寺から漏れて守っている
    のは有明の月ばかりであることだ。

    昔栄えた遍照寺が荒れて、今は人影もなく、有 
    明けの月が寺の中まで漏れている状況を詠んだ
    懐旧の歌です。

    今風では自動車工場の閉鎖で従業員がいなく、
    がらんとした工場のみが残っている状況です。

 注・・遍照寺=京都市右京区上嵯峨、広沢の池の近く
      にあった寺。
    すだき=集き。多く集まる。
    宿=ここでは寺のこと。
    もる=「守(も)る」と「漏る」を掛ける。「宿
     漏る」で寺の荒れていることを表す。

作者・・平忠盛=たいらのただもり。1095~1153。平
    清盛の父。平家全盛の基を築く。正四位上。

出典・・新古今和歌集・1552。


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古の 人に我れあれや ささなみの 古き都を
見ればかなしも    
                 高市黒人

(いにしえの ひとにわれあれや ささなみの ふるき
 みやこを みればななしも)

詞書・・近江の旧き都を感傷して作る歌。

意味・・私は昔の人であろうか。そうではないはず
    なのに、ささなみの大津の宮の廃墟を見る
    と、この都の栄えた頃の人であるかのよう
    に悲しいことだ。

    国土の荒廃を悲しんで詠んだ歌です。
    当今の普通の人ならば旧都の址(あと)を見
    てもこんなに悲しまぬであろうが、こんな
    に悲しいのは、古の人だからであろうかと、
    疑うが如くに感傷したものです。

 注・・近江の旧き都=天智天皇の近江の大津の宮
      の廃墟。壬申(じんしん)の乱(672)で
      戦火で焼かれ廃墟になった。
    ささなみ=琵琶湖中南部沿岸の古名。

作者・・高市黒人=生没不詳。柿本人麻呂と同時代 
      (700年頃)の人。

出典・・万葉集・32。

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