名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年09月


*************** 名歌鑑賞 ***************


高松の この嶺も狭に 笠立てて 満ち盛りたる 
秋の香のよさ
                詠人知らず
                 
(たかまつの このみねもせに かさたてて みち
 さかりたる あきのかのよさ)

意味・・高松のこの峰も狭しとばかりに、ぎっしりと
    傘を突き立てて、いっぱいに満ち溢(あふ)れ
    ているきのこの、秋の香りの何とかぐわしい
    ことか。

    峰一面に生えている松茸の香りの良さを讃え
    た歌です。

 注・・高松の嶺=奈良市東部、春日山の南の山。
    笠立てて=松茸の生えている姿を、傘を地に
     突き立てたと見た表現。
    秋の香=ここでは秋の香りの代表として松茸
     の香り。

出典・・万葉集・2233。


*************** 名歌鑑賞 ****************


世をあげし 思想の中に まもり来て 今こそ戦争を
憎む心よ
                  近藤芳美
              
(よをあげし しそうのなかに まもりきて いまこそ
 せんそうを にくむこころよ)

意味・・世間の全てが軍国主義に駆り立てられていった
    状況の中で、ひそかに守ってきた思想がある。
    今こそ戦争を憎む心を高らかに表明し、その立
    場を貫きとおして行きたい。

 注・・思想=ここでは軍国主義思想の意。

作者・・近藤芳美=こんどうよしみ。1913~2006。
    神奈川大学教授。中村健吉・土屋文明に師事。
    社会派の歌人。歌集に「早春歌」「埃(ほこり)
    吹く街」など。
 
出典・・歌集「埃吹く街」(笠間書院「和歌の解釈と鑑賞
    辞典」)


**************** 名歌鑑賞 ****************


思ひきや 鄙の別れに 衰へて 海人の縄たき 
漁りせむとは     
                     小野篁

(おもいきや ひなのわかれに おとろえて あまの
 なわたき いさりせんとは)

詞書・・隠岐(おき)の国に流されていた時に詠んだ歌。

意味・・考えてもみなかったことだ。親しい人たちと
    別れて遠い田舎で心身ともに弱り果てたあげ
    く、漁師の使う網を引っ張って、魚を取ろう
    とは。

 注・・海人の縄たき=漁師が用いる網の縄や釣り
     縄をたぐって。「たき」は長く延びたものをあ
     やつること。
    隠岐国=島根県隠岐島。
    流される=流罪になること。遣唐使として唐
     に行かなかったため。

作者・・小野篁=おののたかむら。802~852。834
    年遣唐副使として任ぜられたが進発しなか
    ったので隠岐国に流罪、7年後に召還。参議・
    従三位。
 
出典・・古今和歌集・961。


***************** 名歌鑑賞 ****************


今はとて そむき果ててし 世の中に なにと語らふ
山ほとどぎす        
                  後鳥羽院

(いまはとて そむきはててし よのなかに なにと
 かたらう やまほとどぎす)

意味・・今はもうこれまでというので、すっかり
    捨ててしまった世の中であるのに、どう
    いうわけで山ほとどぎすは鳴いて話かけ  
    るのだろうか。

    承久の乱に破れて島流しされ、再起不能
    になり、生きる夢を無くした後鳥羽院は
    くやしさ・無念さを詠んだものです。
    ほととぎすは「諦めるな、諦めるのはまだ
    早い」と話しかけてくれるのだが。

 注・・今は=今となっては、もはや。
    そむき果て=背き果て。すっかり俗世を
     捨ててしまう、出家する。

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。
    第82代天皇。承久の乱(1221)によって
    隠岐に配流された。
 
出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。


*************** 名歌鑑賞 ***************


風をいたみ 岩うつ波の をのれのみ くだけてものを
おもふころかな     
                  源重之

(かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけて
 ものを おもうころかな)

意味・・風が激しいので、岩を打つ波が砕けるように、
    自分だけが心を千々にくだいて物思いをする
    この頃だ。

    岩をつれなき女に、波をわが身にたとえてい
    ます。

 注・・いたみ=痛み。痛みを感じる、(風が)激しい
     ので。

作者・・源重之=みなもとのしげゆき。1000年頃没。
    陸奥守、36歌仙。
 
出典・・詞歌和歌集・211、百人一首・48

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