名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年11月


************** 名歌鑑賞 ***************


竹敷の 浦みの黄葉 我れ行きて 帰り来るまで
散りこすなゆめ 
                壬生宇太麻呂
              
(たけしきの うらみのもみじ われゆきて かえりく
 るまで ちりこすなゆめ)

詞書・・遣新羅の途中で竹敷の浦に船泊りした時に
    各々の思いを詠んだ歌。

意味・・竹敷の浦のあたりの紅葉よ、私が新羅へ行
    って再びここに帰ってくるまで、散らない
    でいてくれ、けっして。
 
    紅葉を惜しむ心に、新羅の往復が短期間で
    すむように願った歌です。

    無事に仕事が終え、この紅葉が散らない内
    に帰って来たいものだ。

 注・・竹敷の浦=対馬の浅茅(あそう)の南部の湾。
    新羅(しらぎ)=朝鮮半島の古代王国。
    ゆめ=禁止表現を伴って、決して。

作者・・壬生宇太麻呂=みぶのうだまろ。746年頃の
    人。大判官(副使の次の官)として遣新羅に行
    く。従五位下。

出典・・万葉集・3702。


*************** 名歌鑑賞 ***************


水鳥の 立ちの急ぎに 父母に 物言ず来にて
今ぞ悔しき      
               有度部牛麻呂
             
(みずとりの たちのいそぎに ちちははに ものはず
 きにて いまぞくやしき)

意味・・水鳥が飛び立つ時のような、旅立ちの慌(あわ
    ただ)しさにまぎれ、父母にろくに物を言わず
    に来てしまって、今となって何とも悔しくて
    ならない。

    慌しく防人として連れ出された心残りを詠んだ
    歌です。

 注・・水鳥=「立ち」の枕詞。
    物言(ものは)ず来て=「物言(ものい)はず来て」
     の訛り。言い残したことが多い。
    防人=上代、東国から送られて九州の要地を守っ
     た兵士。
    
作者・・有度部牛麻呂=うとべのうしまろ。生没年未詳。
    防人。

出典・・万葉集・4337。 


************ 名歌鑑賞 *************


枯野かな茅花の時の女櫛
               西鶴
 
(かれのかな つばなのときの おんなぐし)
 
意味・・枯野の中に華やかな女櫛が落ちている
    のが目についた。これは過ぎし春の野
    遊びでつばなを摘みに来た若い女性が
    落としたものだろうか。
 
 注・・茅花(つばな)=茅萱。初夏、白い毛を
     密生した花を咲かせる。若い花穂を
     茅花と呼ぶ。甘味があり食べられる。
 
作者・・西鶴=さいかく。井原西鶴。1641~
    1693。
 
出典・・元禄百人一句(岩波書店「元禄俳諧集」)


*************** 名歌鑑賞 *************


はれずのみ 物ぞ悲しき 秋霧は こころのうちに
立つにやあるらん      
                和泉式部

(はれずのみ ものぞかなしき あきぎりは こころの
 うちに たつにやあらん)

意味・・ただもう心がうっとうしくて物事を悲しく
    思うばかり。秋霧は外ばかりでなく私の心
    の中にも立つゆえであろうか。
 
    何をしてもポカばかりして、事が運ばない。
    こんな気分の時の歌です。

 注・・はれずのみ=晴れずのみ。心の晴れる事なく。
    物ぞかなしき=物事を悲しく思う。

作者・・和泉式部=いずみしきぶ。生没年未詳、980
    年頃の生まれ。「和泉式部日記」など。
 
出典・・後拾遺和歌集・293。
 


**************** 名歌鑑賞 ***************


心には 下ゆく水の わきかへり 言はで思ふぞ 
言ふにまされる
                詠人知らず
 
(こころには したゆくみずの わきかえり いわで
 おもうぞ いうにまされる)
 
意味・・私の心の中には、表面からは見えない地下水が
    わき返っているように、口に出さないけれど、
    あなたのことを思っています。その思いは口に
    出して言うよりずっと思いは深いのですよ。
 
出典・・古今六帖。


**************** 名歌鑑賞 **************


いかばかり しづのわが身を 思はねど 人よりも知る
秋の悲しさ              
                   散逸物語

(いかばかり しずのわがみを おもわねど ひとより
 もしる あきのかなしさ)

詞書・・秋の悲哀は、華やかに時めいている貴人の
    心には届かない、という心を。

意味・・わが身の卑しさをそれほども思わないけれ
    ども、人よりも秋の悲哀をいっそう感じて
    います。

    冬が近づいて寒さの準備もしなければなら
    ない。出来る人はいいのだが、出来ずに困
    り憂え苦しんでいる人がいる事を知って欲
    しい、という気持ちです。

     白楽天の詩、

    城柳(せいりゅう)宮槐(きゅうかい)漫(みだ)り
    がはしく揺落(ようらく)すれども 秋の悲しみ
    は貴人の心に至らず

    (都の町筋の柳、宮中の槐(えんじゅ)の木の葉
    たちは、秋風に吹き乱されて散り果ててしまっ
    たけれども、季節の愁い悲しみというものは、
    華やかに時めく貴人の心には感じないでありま
    しょう・・人々の愁い哀しみは感じないであり
    ましよう)

    この詩の心を詠んだ歌です。

 注・・しづ=賤。卑しい者。身分の低い者。
    がはしく=騒がしく、やかましく。

出典・・風葉和歌集・337。


*************** 名歌鑑賞 **************


逢ひみても あかぬ信太の 森の露 すえをや千枝に 
ちぎりをかまし       
                 招月正徹

(あいみても あかぬしのだの もりのつゆ すえおや
 ちえに ちぎりおかまし)

意味・・あの人といくら逢っても飽きることがない。
    信太の森の露が千枝の端々に置くように、
    将来を幾重にも約束して置きたいものだ。

    将来の約束を確実にしたい、という気持を
    詠んでいます。

 注・・信太の森=和泉国(大阪)の歌枕。
    すえ=枝の先端と将来の意を掛ける。
    千枝=千重を掛ける。
 
作者・・招月正徹=しょうげつせいてつ。1381~
    1459。室町中期の歌僧。
 
出典・・正徹詠草(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)


**************** 名歌鑑賞 ***************


慰むる 心はなしに 雲隠り 鳴き行く鳥の 
音のみし泣かゆ       
              山上憶良

(なぐさむる こころはなしに くもがくり なきゆく
 とりの ねのみしなかゆ)

意味・・あれこれと思い悩んで気が晴れることもなく、
    雲に隠れて飛んで行く鳥が声高く鳴くように
    私も声をあげて泣きたくなって来る。

    「年老いた身に病気を加え、長年苦しみながら
    子供を思う歌」という題で詠まれたものです。

    この歌の前に状況を説明した長歌があります。
    この世に生きてある限りは無事平穏でありたい
    し、障害も不幸もなく過ごしたいのに、世の中
    の憂鬱で辛い事は、ひどい傷に塩を振り掛ける
    というように、ひどく重い馬荷に上荷をどっさ
    り重ね載せるように、老いたわが身の上に病魔
    まで背負わされている有様なので、昼は昼で嘆
    き暮らし、夜は夜でため息をついて明かし、年
    久しく病み続けたので、幾月も愚痴ったりうめ
    いたりして、いっそうのこと死んでしまいたい
    と思うけれど、真夏の蝿のように騒ぎ廻る子供
    たちを放ったらかして死ぬことも出来ず、じっ
    と子供を見つめていると、逆に生の思いが燃え
    立って来る。こうして、あれやこれやと思い悩
    んで、泣けて泣けて仕方がない。

作者・・山上憶良=やまのうえおくら。660~733。
    遣唐使として渡唐。

出典・・万葉集・898。


*************** 名歌鑑賞 ****************


いかばかり しづのわが身を 思はねど 人よりも知る
秋の悲しさ              
                   散逸物語・
                   道心すすむる君

(いかばかり しずのわがみを おもわねど ひとより
 もしる 秋のかなしさ)

詞書・・秋の悲哀は、華やかに時めいている貴人の
    心には届かない、という心を。

意味・・わが身の卑しさをそれほども思わないけれ
    ども、人よりも秋の悲哀をいっそう感じて
    います。
 
    白楽天の詩、
    城柳(せいりゅう)宮槐(きゅうかい)漫(みだ)り
    がはしく揺落(ようらく)すれども 秋の悲しみ
    は貴人の心に至らず
    (都の町筋の柳、宮中の槐(えんじゅ)の木の葉
    たちは、秋風に吹き乱されて散り果ててしまっ
    たけれども、季節の愁い悲しみというものは、
    華やかに時めく貴人の心には感じないでありま
    しょう・・人々の愁い哀しみは感じないであり
    ましよう)
    この詩の心を詠んだ歌です。

 注・・しづ=賤。卑しい者。身分の低い者。

作者・・道心すすむる君=散逸物語に出て来る主人公。

出典・・風葉和歌集・337。


*************** 名歌鑑賞 ***************


身に近く 来にけるものを 色変る 秋をばよそに
思ひしかども 
                 六条右大臣室

(みにちかく きにけるものを いろかわる あきをば
 よそに おもいしかども)

意味・・私の身辺に来ていたのに。草木の色変る
    秋を、かかわりのないものと思っていた
    けれども。

    男の飽き心に気づいて嘆き心を詠んでい
    ます。

    本歌は「身に近く秋や来ぬらむ見るまま
    に青葉の山もうつろひにけり」です。
         (意味は下記参照)

 注・・色変る=草木の色の変る秋。男の心変わ
     りを暗示。
    よそに=関係の無いものと。

作者・・六条右大臣室=ろくじょううだいじんの
    しつ。生没年未詳。源顕房(従一位右大臣)
    の妻。

出典・・新古今和歌集・1352。

本歌です。
身に近く 秋や来ぬらむ 見るままに 青葉の山も
うつろひにけり         
                  紫の上

意味・・身に近く秋が来たのでしょうか(私も飽かれ
    る時になったのかしら)。見ているうちに、
    青葉の山も紅葉に色変わりしてしまった。

    紫の上が光源氏の飽き心を嘆いた歌です。

出典・・源氏物語。 

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