名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年12月


***************** 名歌鑑賞 *****************


紅葉ばの 過ぎにし子らが こと思へば 欲りするものは
世の中になし             
                   良寛

(もみじばの すぎしこらが こともえば ほりする
 ものは よのなかになし)

意味・・亡くなってしまった愛(いと)しい子供のことを
    思うと、その悲しみのために、欲しいと思うも
    のはこの世の中に何ひとつとして、ないことだ。

    本歌は、
    「紅葉ばの過ぎにし子らとたづさわり遊びし磯を
     見れば悲しも」です。  (万葉集・1796) 

    (死んでしまった子供と、手を取り合って遊んだ
     磯を見ると悲しいことだ。)

 注・・紅葉ば=「過ぎ」の枕詞。
    過ぎ=時がたつ、終わる、死ぬ。
 
作者・・良寛=1758~1831。
 
出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


白波の 浜松が枝の 手向けぐさ 幾代までにか
年の経ぬらむ    
                川島皇子

(しらなみの はままつがえの たむけぐさ いくよ
 までにか としのへぬらん)

意味・・白波の寄せる浜辺の松の枝に結ばれた
    この手向けのものは、結ばれてからも
    うどのくらい年月がたったのだろう。

    自分達と同じくここで旅の安全を祈っ
    た昔の人の手向けぐさを見て、その古
    人に年月を越えて共感した心を詠んだ
    歌です。

    参考歌です。

   「岩代の浜松が枝を引き結びま幸くあらば
    また帰り見む」   (意味は下記参照)

 注・・手向けぐさ=「手向け」は旅の無事を
     祈って神に幣を捧げること。「くさ」
     はその料、布、木綿、紙など。

作者・・川島皇子=かわしまのみこ。656~691。
    天智天皇の第二皇子。

出典・・新古今和歌集・1586。

参考歌です。

盤代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば 
また還り見む        
               有間皇子

(いわしろの はままつがえを ひきむすび まさきく
 あらば またかえりみむ)
 
意味・・盤代の浜松の枝を結んで「幸い」を祈って行
    くが、もし無事であった時には、再びこれを
    見よう。

    有間の皇子は反逆の罪で捕えられ、紀伊の地
    に連行され尋問のうえ処刑された。
    松の枝を引き結ぶのは、旅路などの無事を祈
    るまじないです。

注・・盤代=和歌山県日高郡岩代の海岸の地名。
   真幸(まさき)く=無事であったなら。

作者・・有間皇子=ありまのみこ。658年謀略にかか
    って反乱を企てたため捕えられて殺された。

出典・・万葉集・141。 


**************** 名歌鑑賞 ***************


夕されば 潮風越して 陸奥の 野田の玉川
千鳥鳴くなり
               能因法師
           
(ゆうされば しおかぜこして みちのくの のだの
 たまがわ ちどりなくなり)

意味・・夕方になると、海の潮風が吹いてきて、陸奥の
    野田の玉川に、千鳥の鳴く声が哀調を帯びて聞
    えてくる。
  
    陸奥に旅をした時に詠んだ歌で、都から遠く離
    れた旅路の寂しさを詠んでいます。

 注・・夕されば=夕方になると。
    潮風越して=海の潮風が吹いてきて。
    陸奥(みちのく)=岩手県・宮城県の地域。
    野田の玉川=岩手県九戸郡野田村玉川。岩石が
     多く、断崖もそそり立ち、北は三崎の岬、南
     は黒崎の岬があって絶景の地。
    千鳥=すずめより少し大きな水辺の鳥。哀調を
     おびた鳴き方をする。

作者・・能因法師=のういんほうし。988~?。中古三
    十六歌仙の一人。
 
出典・・新古今和歌集・643。


**************** 名歌鑑賞 **************


山高み 白木綿花に 落ちたぎつ 滝の河内は
見れど飽かぬかも    
                笠金村

(やまたかみ しらゆうばなに おちたぎつ たきの
 こうちは みれどあかぬかも)

意味・・山が高いので、白い木綿(ゆう)で作った花
    のように、激した水がドーッと落ちている
    この滝の河内の絶景は見ても見ても見飽き
    る事がない。
    なんとまあ美しいことだろう。

    養老七年(723)に吉野離宮で詠んだ歌です。
    白波を白木綿(しらゆう)に見立てて離宮の
    滝を讃(たた)えています。

 注・・白木綿(しらゆう)=斎串(いくし)としての
     榊(さかき)の枝などにつけた白い木綿。
     木綿は楮(こうぞ)の皮で作った。
    たぎつ=激つ。水が激しく流れる。
    河内=川を中心とした小生活圏。
    離宮=奈良県吉野の宮滝付近にあった離宮。

作者・・笠金村=かさのかなむら。生没年未詳。宮
    廷歌人。
 
出典・・万葉集・909。


***************** 名歌鑑賞 **************


人いゆき日 ゆき月ゆく 門庭の 山茶花の花も
ちりつくしたり
                佐々木信綱
 
(ひといゆきひ ゆきつきゆく かどにわの さざんかの
 はなも ちりつくしたり)
 
意味・・亡き人を偲(しの)んでいるうちに、いつしか
    月日も過ぎ去ってしまった。そして、今わが
    心の慰めであった庭の山茶花の花もすっかり
    散ってしまったことだ。
 
    半世紀を共に過ごした妻を偲んでの歌です。
    門庭の山茶花も散り、老境の寂寥感の中で、
    一切が無に帰しても悲哀に堪えて再起しよう
    という作者の気持ちです。
 
作者・・佐々木信綱=ささきのぶつな。1872~1963。
    東大古典科卒。国文学者。
 
出典・・歌集「山と水と」(笠間書院「和歌の解釈と
    鑑賞事典」)

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