名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2015年12月


***************** 名歌鑑賞 ***************

 
芦の葉に かくれて住みし 津の国の こやもあらはに
冬は来にけり      
                  源重之

(あしのはに かくれてすみし つのくにの こやも
 あらはに ふゆはきにけり)

意味・・芦の葉に隠れて、津の国の昆陽(こや)に
    小屋を建てて住んでいたのだが、芦が霜
    枯れになって、小屋もあらわになり、気
    配もはっきりと、冬がやって来たことだ。

 注・・芦=イネ科の多年草、沼や川の岸で群落を
     作る、高さ2~3mになる。
    こや=小屋と昆陽(こや)を掛ける。昆陽は
     兵庫県伊丹市の地。

 作者・・源重之=みなもとのしげゆき。~1000。
    地方官を歴任。

 出典・・拾遺和歌集・223。


**************** 名歌鑑賞 ****************


形見こそ 今はあたなれ これ無くは 忘るる時も
あらましものを           
                  詠人知らず
                   
(かたみこそ いまはあたなれ これなくは わするる
 ときも あらましものを)

意味・・あの人の形見こそ今は私を苦しめる敵になって
    しまった。これが無かったら忘れる時もあろう
    ものを。

 注・・形見=過去の思い出となるもの。死んだ人や別
     れた人の思い出になるもの。
    あた=敵、自分を苦しめるもの。
 
出典・・古今集・746。
 


*************** 名歌鑑賞 ***************


わがまたぬ 年は来ぬれど 冬草の かれにし人は
おとづれもせず 
                 凡河内躬恒

(わがまたぬ としはきぬれど ふゆくさの かれにし
 ひとは おとずれもせず)

意味・・私が待ってもいない新年はもはや目の先
    まで来てしまったが、今時の枯葉同様に
    離(か)れてしまったお方は、訪問はおろ
    か手紙も下さらない。

    年をとると知友を懐かしむ気持ちになり、
    また、新年になるとまた年をとってしま
    うのか、という気持ちです。

 注・・冬草の=「かれ」に掛かる枕詞。
    かれ=「枯れ」と「離れ」を掛ける。
    おとづれ=便りをする。訪問をする。

作者・・凡河内躬恒=おうしこうちのみつね。
    生没年未詳、900年前後に活躍した人。
    古今集の撰者の一人。

出典・・古今和歌集・338。


*************** 名歌鑑賞 ****************


紫の ひともとゆえに 武蔵野の 草はみながら 
あはれとぞ見る
                詠み人知らず

(むらさきの ひともとゆえに むさしのの くさは
 みながら あわれとぞみる)

意味・・ただ一本の紫草があるために、広い武蔵野じゅう
    に生えているすべての草が懐かしいものに見えて
    くる。

    愛する一人の人がいるのでその関係者すべてに親
    しみを感じると解釈されています。

 注・・紫=紫草。むらさき科の多年草で高さ30センチ
     ほど。根が紫色で染料や皮膚薬にしていた。
    みながら=全部。
    あはれ=懐かしい、いとしい。
 
出典・・古今和歌集・867。


*************** 名歌鑑賞 ***************


滝の上の 三船の山に 居る雲の 常にあらむと 
我が思はなくに
                 弓削皇子
                
(たきのうえの みふねのやまに いるくもの つねに
 あらんと わがおもわなくに)

意味・・滝の上の三船山には、あのようにいつも雲が
    かかって見えるが、私達はいつまでもこの世
    にあろうとは思えない。それが悲しい。

    今の良き状態が長く続くとは思われない、と
    戒めた気持を詠んでいます。

 注・・三船の山=奈良県吉野の宮滝付近にある山。
    あらんと=生きているだろうと。
    なくに=・・ないのに、・・ないのだから。

作者・・弓削皇子=ゆげのみこ。699年没。30歳前
    後。天武天皇第六皇子。
 
出典・・万葉集・242。


*************** 名歌鑑賞 ***************


安積山 影さへ見ゆる 山の井の 浅き心を 
我が思はなくに
                詠人知らず
             
(あさかやま かげさえみゆる やまのいの あさき
 こころを わがおもわなくに)

意味・・安積山の姿までも映し出す清らかな山の井、
    浅いその井のような浅はかな心で、私がお
    慕いしているわけはありませんのに。

    この歌にはこんな伝えがあります。
    葛城王が陸奥の国に派遣された時に、国司
    の対応の仕方が甚だなおざりであった。
    それで、王はひどく不愉快に思って、怒り
    の表情がありありと見えた。接待の酒食を
    準備したにもかかわらず、どうしても打ち
    解けて宴に興じようとはしなかった。そこ
    にたまたま、前に采女(うねめ)であった女
    がいた。都風の教養を身につけた女であっ
    た。左手で盃を捧げ、右手に銚子を持ち、
    銚子で王の膝に拍子を打ちながら、この歌
    を吟(くちずさ)んだ。そこで、王の気持は
    すっかりほぐれて、一日中楽しく過ごした
    という。

 注・・安積山=福島県郡山市にある山。
    影さへ=「さへ」という助詞により、水が
     きれいな上に、さらに美しい山の影まで
     が映っている意を表す。
    山の井=山から湧き出る清水を貯めて置く
     所。
    葛城王=736年臣籍にあった橘諸兄(たちば
     なのもろえ)。
    陸奥=東北地方の旧国名。
    采女(うねめ)=女官として都へ遣わされた
     地方豪族の子女。容姿端麗な者が選ばれ
     た。
 
出典・・万葉集・3807。


**************** 名歌鑑賞 ****************


みやこにも 初雪ふれば をの山の まきの炭釜
たきまさるらん          
                 相模

(みやこにも はつゆきふれば おのやまの まきの
 すみがま たきまさるらん)

意味・・都でも初雪が降ったので、良質の小野山の
    木を焼く炭窯はいよいよ燃え盛っているだ
    ろうよ。

    一方で辛い事があれば他方では良い事があ
    るものです。

 注・・をの山=小野山。京都市左京区大原辺。
    まきの炭釜=真木の炭窯。大原の良い木の
     炭を焼く窯。

作者・・相模=さがみ。生没年未詳。995年頃の生
    れ。相模守大江公資(きんより)の妻となり
    相模と号した。
 
出典・・後拾遺和歌集・390。
  


**************** 名歌鑑賞 ****************


百草の 花の盛りは あるらめど したくだしゆく 
我ぞともしき
                良寛
                 
(ももくさの はなのさかりは あるらめど したく
 だしゆく われぞともしき)

意味・・沢山の草には、それぞれ花の盛りがある
    ようだが、次第に衰えていく私の身には
    まことに恨めしいことだ。

 注・・したくだし=次第に衰える。
    ともしき=うらめしい。

作者・・良寛=1758~1831。

出典・・ 良寛歌集・538 。


***************** 名歌鑑賞 ***************


あらそはぬ 風の柳の 糸にこそ 堪忍袋
ぬふべかりけれ    
                鹿都部真顔
             
(あらそわぬ かぜのやなぎの いとにこそ かんにん
 ぶくろ ぬうべかりけれ)

意味・・風に争うこともなく、吹くままになびいている
    柳の枝。あの柳の糸でこそ、めったに破っては
    ならない人間の堪忍袋を縫うべきだ。

    糸と袋の見立ての面白さをふまえた処世訓です。

 注・・柳の糸=細長い柳の枝を糸に見立てた語。
    堪忍袋=堪忍する心の広さを袋に例えた語。

作者・・鹿都部真顔=しかつべのまがお。1753~1829。
    北川嘉兵衛。狂歌四天王の一人。

出典・・狂歌才蔵集(小学館日本古典文学全集・狂歌)


***************** 名歌鑑賞 ****************


馬来田の 嶺ろの笹葉の 露霜の 濡れて我来なば
汝は恋ふばぞも
                上総の防人歌
              
(うまぐたの ねろのささばの つゆしもの ぬれてわきなば
 なはこうばぞも)

意味・・馬来田の嶺の笹葉に置く冷たい露に、濡れそぼちながら
    私がとぼとぼと行ってしまったなら、お前は一人せつな
    く恋焦がれることだろうな。

    防人として遠く旅立とうとする男の心の歌。

 注・・上総(かずさ)=千葉県の南部。
    防人(さきもり)=上代、東の国々から送られて九州の
     要地を守った兵士。
    馬来田(うまぐた)=千葉県木更津市馬来田(まくた)。
 
出典・・万葉集・3382。
 

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