名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2016年01月


***************** 名歌鑑賞 *****************


身代は まはりかねたる 車引き つらきうき世を
おし渡れども
                紀定丸
               
(しんだいは まわりかねたる くるまひき つらき
 うきよを おしわたれども)

意味・・つらいこの浮世を、難儀な道に車を押すように、
    何とかして渡っていこうとするのだが、車引き
    の仕事では、車は回っても身代は回りかねて、
    とかく思うようにならない。

    横に車を押すことも出来ないような下層労働者
    の生活の嘆声を詠んでいます。今では派遣社員
    や非正規社員の立場。

 注・・身代=生計、暮し向き。
    車引き=荷車などを引いて生活する人。
    まはりかねたる=思うようにいかない。
    おし渡れども=困難を排して渡る。

作者・・紀定丸=きのさだまる。1760~1841。四方赤
     良の甥。御勘定組頭。著書「狂月望」「黄表
     紙」。

出典・・徳和歌後万載集(小学館「日本古典文学全集・
    狂歌」)


************** 名歌鑑賞 ***************


よしや君 昔の玉の 床とても かからんのちは
何にかはせん          
               西行

(よしやきみ むかしのたまの ゆかとても かからん
 のちは いかにかはせん)

詞書・・白峰と申す所に御墓の侍りけるに参りて。

意味・・以前立派な金殿玉楼におられたとしても、
    上皇様、あなた様がお亡くなりになられ
    ました後は何になりましょうか。何にも
    なりません。ただ成仏(じょうぶつ)を祈
    るだけです。

 注・・白峰=讃岐国(香川県)綾歌郡松山村白峰。
    御墓=崇徳院の墓。保元の乱(1156年・
     地位をめぐり後白河天皇と崇徳上皇の
     争い)に敗れて讃岐に流され、その地で
     崩御した。
    よしや=たとえ・・(でも)。
    玉の床=金枝玉葉(皇族の意味)の座。
    かからん後=このように崩御された後。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。
    
出典・・山家集・1355。


***************** 名歌鑑賞 ***************


白川の 知らずともいはじ 底清み 流れて世々に 
すむと思へば           
                 平貞文

(しらかわの しらずともいわじ そこきよみ ながれて
 よよに すむとおもえば)
 
意味・・白川という立派な川があることを「知らない」と
    言いません。底まで清らかに澄み渡り、これから
    も永年流れ続けると思うと。

      白川という川があるが、白川のように清らかで立
    派なあなたが居ることを「知らない」とは言いま
    せん。私の心も白川の底のように清らかなので、
    その流れと同様に幾久しく契りを交わしたいと思
    うからです。

    恋を告白する歌です。

 注・・白川=次の句の「知ら」に同音で続く枕詞。
       滋賀県の山から賀茂川に合流する川。
    底清み=心の底が清いので。
    流れて世々に=いつまでも月日を重ねて。
    すむ=「住む」と「澄む」を掛ける。

作者・・平貞文=たいらのさだぶん。871~923。
    三河権介・従五位。

出典・・古今和歌集・666。


***************** 名歌鑑賞 ***************


おぼつかな 都に住まぬ 都鳥 言問ふ人に
いかが答へし
               宜秋門院丹後 
          
(おぼつかな みやこにすまぬ みやこどり こととう
 ひとに いかがこたえし)

意味・・気にかかることだ。都に住んでいない都鳥よ。
    都の人の安否を尋ねた男にどのように答えた
    のか。都の事情に疎いはずなのに。

   「名にしおはばいざ言問はん都鳥わが思ふ人は
    ありやなしや」の歌を踏まえた作です。
            (意味は下記参照)

 注・・おぼつかな=心もとない、気に掛かる。
    都鳥=水鳥のかもめの一種。身体が白色、口
     ばしと足が赤い。
    言問ふ人=都にいる人を尋ねる人。

作者・・宜秋門院丹後=ぎしゅうもんいんのたんご。
     生没年未詳。1180年頃の人。後鳥羽帝の中
     宮・宜秋門院の女房(女官)。
 
出典・・新古今和歌集・977。

参考歌です。

名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は 
ありやなしやと
                 在原業平
             
(なにしおわば いざこととはむ みやこどり わがおもふ
 ひとは ありやなしやと)

意味・・都という名を持っているのならば、さあ尋ねよう、
    都鳥よ。私の思い慕っている人は元気でいるのか、
    いないのかと。

    流浪の旅をする業平らが隅田川に着いて、舟の渡
    し守から見知らぬ鳥の名を聞いて詠んだ歌です。

    都鳥という名に触発され、都にいる妻への思いが
    急激に高まったものです。

 注・・あり=生きている、健在である。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。~825。六歌仙
    の一人。伊勢物語の主人公。
 
出典・・古今集412、伊勢物語・9段。 


***************** 名歌鑑賞 ****************


君ならで 誰にか見せむ 梅の花 色をも香をも 
知る人ぞ知る
                紀友則

(きみならで たれにかみせん うめのはな いろをも
 かをも しるひとぞしる)

意味・・あなたではなくて、誰に見せようか。この梅の
    花を。この素晴しい色も香も、物の美しさをよ
    く理解できるあなただけが、そのすばらしさを
    本当に分かってくれるのです。

    一枝の梅の花を折って人に贈った時の歌です。
    あなただけが本当の物の情趣を理解してくれる
    人だ、の意です。
    また、友則の知人は高い地位に就いていたが、
    自分はまだ低い地位で不遇の時を過ごしていた
    ので、そのような不遇感の背景に我が真価は知
    る人ぞ知るの思いを梅の花に託してもいます。

 注・・誰にか=「か」は反語で、誰にも見せたくない
        の意になる。

作者・・紀友則=きのとものり。生没年未詳。古今和歌
    集の撰者の一人。

出典・・古今和歌集・38。 
 

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