名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2016年03月


***************** 名歌鑑賞 ****************** 


くさまくら まことの華見 してもこよ
                     芭蕉
                     
(くさまくら まことのはなみ してもこよ)

詞書・・路通がみちのくにおもむくに。

意味・・これから奥州への旅に出て旅寝を重ねるとの事だが、
    憂いつらい旅寝をしてこそ本当に花の美しさが分る
    ものだ。旅を遊びと考えないで、真の花の美しさを
    発見して帰っておいで。

 注・・くさまくら=旅の枕詞、旅寝の意味だが、ここでは
     旅寝を重ねる生活、すなわち旅それ自体の意に用
     いている。
    まこと=真実、真理。
    華見(はなみ)=花見、花の美しさを見る。
    路通=1685年に琵琶湖で乞食の生活をしているのを
     芭蕉に見出され、蕉門俳人となった。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1695。「奥の細道」。
 
出典・・茶のさうし(小学館「松尾芭蕉集」)


**************** 名歌鑑賞 ***************

 
苦しくも 降り来る雨が 三輪の崎 狭野の渡りに
家もあらなくに         
                 長意吉麻呂

(くるしくも ふりくるあめか みわのさき さのの
 わたりに いえもあらなくに)

意味・・困ったことにひどく降ってくる雨だ。三輪の
    崎の狭野の渡し場には雨宿りする家もないの
    に。

    旅の途中で雨に降られて困った気持を詠んで
    います。

 注・・三輪の崎=和歌山県新宮市の三輪崎。
    狭野=三輪崎の南の地。
    渡り=川を横切って渡るところ。

作者・・長意吉麻呂=ながのおきまろ。生没年未詳。

出典・・万葉集・265。


*************** 名歌鑑賞 ***************

 
たづねつる 宿は霞に うづもれて 谷の鶯
一声ぞする
                 藤原範永 
(たずねつる やどはかすみに うずもれて たにの
 うぐいす ひとこえぞする)

意味・・霞に埋もれた家を訪ねあてると、折から谷の
    鶯の一声が聞こえて来る。

       霞のかかった春の風景。そこに鶯の鳴き声が
    聞こえる。風雅な景色を詠んでいます。

作者・・藤原範永=ふじわらののりなが。生没年未詳。
     正四位摂津守。
 
出典・・後拾遺和歌集・23。


**************** 名歌鑑賞 ***************


萌え出づる 木の芽を見ても 音をぞ泣く かれにし枝の
春を知らねば
                    兼覧王女

(もえいずる このめをみても ねをぞなく かれにし
 えだの はるをしらねば)

詞書・・かれにける男のもとに,住みける方の庭の木
    の枯れたりける枝を折りてつかはしける。

意味・・春になって萌え出る木の芽が見られるように
    なりましたが、私は声を上げて泣いておりま
    す。枯れた枝は春になっても萌え出ることが
    ないのと同様に、あなたに離(か)れられた私
    に春は関係ありませんので。

 注・・かれ=「枯れ」と「離れ」を掛ける。

作者・・兼覧王女=かねみのおおきみのむすめ。伝未
    詳。

出典・・後撰和歌集・14。 
 


**************** 名歌鑑賞 ****************

 
谷川の うち出づる波も 声たてつ うぐひすさそへ
春の山風
                 藤原家隆

(たにがわの うちいずるなみも こえたてつ うぐいす
 さそえ はるのやまかぜ)

意味・・谷川の氷を破って勢いよく流れ出る白波も声を
    たてている。さあ、お前も鳴けよと、うぐいすを
    誘い出しておくれ。梅の香を運ぶ春の山風よ。

    選びぬかれた言葉で技巧を凝らして詠んだ歌です。
    波の白は視覚、波の音、期待するうぐいすの声
    は聴覚、そして、春風は頬にさわる触覚であり、
    梅の香をもたらす臭覚である。

 注・・うち出づる波=解けた氷の間をほとばしり出る
     波。
    春の山風=花の香を運ぶという春の山風。花は
     早春の香りの高い花で梅の花。

作者・・藤原家隆=ふしわらのいえたか。1158~1237。
    新古今和歌集選者の一人。

出典・・新古今和歌集・17。


*************** 名歌鑑賞 ***************

 
荒栲の 布衣をだに 着せかてに かくや嘆かむ
為むすべをなみ   
                 山上憶良

(あらたえの ぬのきぬをだに きせかてに かくや
 なげかん せんすべをなみ)

意味・・お粗末な布製の着物でさえも子供に着せる
    ことが出来ないで、他にどうしょうもない
    ので、ただこのように嘆いてばかりいる事
    だろうか。(金持ちはどっさり不要の着物を
    しまっているのになあ)

    この歌は貧乏人の立場に立って詠んだ歌で
    次の歌は金持ちの側に立って詠んだ歌です。
   「富人の家の子どもの着る身なみ腐し捨つらむ
    絹綿らはも」  (意味は下記参照)

 注・・荒栲(あらたえ)=楮(こうぞ)の繊維による
     目の粗い布。
    着せかてに=着せかねて。可能の意の「かつ」
     に打ち消しの助動詞「ぬ」が接した形。
    すべをなみ=術を無み。頼るべき手段が無い。

作者・・山上憶良=やまのうえのおくら。660~733。
    遣唐使として唐に渡り、帰朝後、筑前守となる。
 
出典・・万葉集・901。

参考歌です。
富人の 家の子どもの 着る身なみ 腐し捨つらむ 
絹綿らはも           
                 山上憶良

(とみひとの いえのこどもの きるみなみ くさし
 すつらん きぬわたらはも)

意味・・物持ちの家の子供が着あまして、持ち腐れに
    しては捨てている、その絹や綿の着物は、ああ。
    (もったいない。粗末な布の着物すら着せら
    れなくて嘆いている人もいるというのに)

 注・・なみ=無み、無いために。
    着る身なみ=着物の数に対して、着る人が
       少ない状態。
    はも=深い感動の意を表す、・・よ、ああ。
 
出典・・万葉集・900。 


*************** 名歌鑑賞 ***************

 
わが宿の 梢ばかりと 見しほどに よもの山辺に
春はきにけり
                  源顕基

(わがやどの こずえばかりと みしほどに よもの
 やまべに はるはきにけり)

意味・・わが家の梢だけに花が咲いて、春が来ている
    と思っているうちに、あちこちの山のあたり
    に山桜が咲き春が来たことだ。

 注・・梢ばかりと=(桜の)木の枝先に(花が咲いて春
     が来た)と。
    よもの山辺=四方の山辺。あちらこちらの山の
     あたり。

作者・・源顕基=みなもとのあきもと。1000~1047。
    従三位権中納言。

出典・・後拾遺和歌集・106。


*************** 名歌鑑賞 **************

 
干し柿の 暖簾を見れば 思い出す ひとつひとつに
祖母の思いを
                 今井まみ

(ほしがきの のれんをみれば おもいだす ひとつ
 ひとつに そぼのおもいを)

意味・・干し柿の暖簾、なつかしい風景である。柿を
    一つ一つ丹念にむいて下げていた祖母。干し
    柿を作りながら、私に色々と話をしてくれた。
    私も手伝いながら、祖母の話を聞きながら干
    し柿の暖簾を作った。今、干し柿が暖簾のよ
    うに下がっているのを見ると、あの頃がなつ
    かしく思いだされて来る。

作者・・今井まみ=今井まみ。‘00当時、岐阜県益田南
    高校二年、17才。

出典・・大滝貞一著「短歌青春」(東洋大学・現代学生
    百人一首)。


**************** 名歌鑑賞 ****************

天つ空 ひとつに見ゆる 越の海の 波をわけても
帰るかりがね
                 源頼政

(あまつそら ひとつにみゆる こしのうみの なみを
 わけても かえるかりがね)

意味・・空と海がひとつになって見分けがつかない、は
    るか彼方の越の海の、荒い波路を乗り越えてで
    も帰って行く雁だなあ。
 
    昔のよき時代に帰りたい作者の想いを帰雁に思
    い入れている。

 注・・越の海=北陸の海。「来し」を掛ける。
    波をわけても=帰るべき季節になったので、北
     国の荒い波路を乗り越えてでも。

作者・・源頼政=みなもとのよりまさ。1104~1180。
    平氏と対立し宇治川の合戦に負けて自害した。

出典・・千載和歌集・38。


**************** 名歌鑑賞 *************** 


春なれば 花の馬酔木も 咲きにけり 母とはなりし
そのかみの子よ
                  濱田盛秀
 
(はるなれば はなのあしびも さきにけり ははとは
 なりし そのかみのこよ)

意味・・今は春なので、馬酔木の木も、枝々に壺状の白
    い花をいっぱい咲かせている。嫁いで行って、
    もう幸せな母になっている、あの頃の娘(こ)よ。

    嫁いで行き人妻となり、子供を生み、今は幸せ
    な母となっている昔の恋人のことを、長い冬籠
    りを過ぎて春を告げる、真っ白な馬酔木の花の
    盛りを見るにつけて、その幸せを心中深く祈り
    つつ、淋しくもなつかしく連想した歌です。

 注・・馬酔木(あしび)=つつじ科の常緑低木。早春に
     白色でつぼ状の小さな花が咲く。葉は有毒。
    そのかみの子=あの頃の娘。昔の恋人あるいは
     自分の方で恋しく思っていた人。

作者・・濱田盛秀=はまだもりひで。詳細未詳。
 
出典・・新万葉集・巻六。

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