名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2016年04月


****************** 名歌鑑賞 ******************

 
うらうらに 照れる春日に ひばりあがり 心悲しも
ひとりし思へば
                    大伴家持
             
(うらうらに てれるはるひに ひばりあがり こころ
 かなしも ひとりしおもえば)

意味・・うららかに陽射しは輝き、ひばりが空高く舞い上がって
    いる。そんな陽気な春のただ中にあっても、私の心はひ
    たすらに悲しい。たった一人で物思いにふけっていると。

    心地よい春になったのに憂鬱な気持ちが去らない事を詠
    んでいます。その憂鬱は、古来からの権門である大伴氏
    に生まれながら、藤原氏の台頭により朝廷での地位が振
    るわない事に起因している、と解釈されています。

 注・・うらうらに=のどやかに。
    ひとりし=「し」は上接する語を強調する副助詞。

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。少納言。
    大伴旅人の長男。「万葉集」の編纂に携わる。
 
出典・・万葉集・4292。


**************** 名歌鑑賞 ***************

 
山吹の 立ちよそひたる 山清水 汲みに行かめど
道の知らなくに
                高市皇子

(やまぶきの たちよそいたる やましみず くみに
 ゆかめど みちのしらなくに)

詞書・・十市皇女(とおちのひめみこ)の亡くなれた時、
    高市皇子の詠まれた挽歌。

意味・・山吹の花がまわりを飾っている山清水を、汲み
    に行きたいと思うけれど、そこまでの道が分ら
    ないことである。

    亡き人のいく所を黄泉と書き、そのまま、こう
    せんとも読み、よみとも読む。山吹の色の黄と、
    山清水の泉で、この黄泉を暗示している。
    高市の皇子はイメージに描く。十市の皇女の魂
    は、今頃どこをさまよっているのか。山吹咲く
    泉のほとり。それは、うら若い女性の行き場所
    としてふさわしい。自分もあとを訪ねて、そこ
    まで行きたい。山吹に照り映えて、そこにたた
    ずむ皇女の姿ははっきり見えるが、泉にたどり
    つく道は、深い霧につつまれたように見えない。

 注・・十市皇女=とおちのひめみこ。大友皇子の妃。
     壬申(じんしん)の乱で父方と夫方が戦い、夫
     の敗北、死に終わる。678年急病で没。30歳
     位。

作者・・高市皇子=たけちのみこ。696年没。天武天皇
    の長男。壬申の乱で活躍し太政大臣になる。
 
出典・・万葉集・158。


***************** 名歌鑑賞 **************** 


煙ぐさ 賎が伏せ屋に くゆらせて 君のめぐみに 
咽ぶあさゆふ           
                 橘曙覧

(けぶりぐさ しずがふせやに くゆらせて きみの
 めぐみに むせぶあさゆう)

意味・・粗末な我が家だが、落ち着いて煙草を一服してい
    ると、煙を見る度に仁徳天皇の善政が思い出され
    て涙が出るほど咽(むせ)ぶものだ。

    福井藩の藩主・松平春嶽に煙草をもらった。その
    時、仁徳天皇の「竈の煙」の歌が添えてあった、
    この時詠んだ歌です。
 
    仁徳天皇の竈(かまど)の煙の歌です。
 
    高き屋に 登りて見れば 煙立つ 民のかまどは
    にぎわいにけり     (新古今・707)        
   
    高殿に登って遠望すると、炊煙が立ち上がってい
    る。民の竈は煮炊きの物が豊になり、暮らしも楽
    になったことだ。

    仁徳天皇は民の貧困を心配して三年間、年貢を免
    除したので、民の生活が立ち直ったという。

 注・・賎が伏せ屋=みすぼらしい小屋。
    君がめぐみ=仁徳天皇が行った慈悲のある政治。
    咽(むせ)ぶ=感涙することと煙草に咽ぶを掛ける。
    あさゆふ=朝晩。日常。
    仁徳天皇=16代天皇。人家の竈(かまど)から炊煙
     が立ち上っていないことに気づいて3年間租税を免
     除し、その間は倹約のために宮殿の屋根の茅さえ葺
     き替えなかったという逸話があるように仁徳天皇の
     治世は仁政と言われている。

 注・・煙=炊飯の煙。豊な生活を象徴している。
 
作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。本居宣長
    の高弟田中大秀に師事。福井藩の重臣と親交。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


くれないの 二尺伸びたる 薔薇の芽の 針やはらかに
春雨のふる
                     正岡子規
             
(くれないの にしゃくのびたる ばらのめの はり
 やわらかに はるさめのふる)

意味・・くれない色の二尺ばかり伸びた薔薇の新芽、
    その柔らかな棘に、細かに静かにいま春雨
    が降り注いでいる。

作者・・正岡子規=まさおかしき。1867~1902。
    35歳。東大国文科に入るが中退。

出典・・竹乃里歌。
 


**************** 名歌鑑賞 **************

 
花鳥の 色にも音にも とばかりに 世はうちかすむ
春のあけぼの
                 心敬
           
(はなとりの いろにもねにも とばかりに よは
 うちかすむ はるのあけぼの)

意味・・春の曙の、あたり一面かすんだやさしい
    美しさは、花の色にも鳥の声にもたとえ
    ようがない程の風情があるものだ。

 注・・とばかりに=花の色も鳥の声も及ばない
     ほどに。「と」の受ける内容を限定す
     る意を表す、・・とだけ。

作者・・心敬=しんけい。1406~1475。権大僧都。
 
出典・・寛正百首(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)

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