名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2016年07月


*************** 名歌鑑賞 *************

 
すぎふかき かた山陰の 下すずみ よそにぞすぐる
ゆふだちの空    
                 藤原良経

(すぎふかき かたやまかげの したすずみ よそにぞ
 すぐる ゆうだちのそら)

意味・・杉の木立の深い片山陰の下で涼んでいると、
    よその場所に夕立を降らせた雲が空に広が
    って涼気が感じられる。    

 注・・かた山陰=片山陰、「片山」は一方が険し
     く他方がなだらかな山、その山かげ。
    よそにぞすぐる=他の場所に降り過ぎた。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1169~
    1206。摂政太政大臣、新古今仮名序の作者。

出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。


*************** 名歌鑑賞 *************** 


相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後に 
額づくがごと
               笠女郎

(あいおもわぬ ひとをおもうは おおでらの がきの
 しりえに ぬかずくがごと)

詞書・・笠女郎、大伴家持に贈る歌。

意味・・互いに思わない人を一方的に思うのは、大寺
    の餓鬼を後から額をこすりつけて拝んでいる
    ようなものだ。

    片思いは仏ならぬ餓鬼に、しかも後から拝む
    ようなもの。何のかいもないことだと、我が
    恋を自嘲したものです。

 注・・相思はぬ=片思いのこと。
    後(しりえ)に=後から。

作者・・笠女郎=かさのいらつめ。生没年未詳。万葉
    集に28首、大伴家持に贈った歌を残している。

出典・・万葉集・608。



**************** 名歌鑑賞 **************** 


起き上がり 小法師を見ても 世渡りは 転びては起き
転びては起き
                   作者不明

(おきあがり こぼしをみても よわたりは ころびては
 おき ころびてはおき)

意味・・世の中を渡る時は、起き上がり小法師のように、
    転んでは起き、また転んでは起きる。
    どんな事があつても、くじけず歩んで行く事だ。

    七転び八起き。何事にも失敗はつきもの。どん
    なに失敗しても七転び八起き。浮き沈みが激し
    くても、何度倒れても起き上がればいいのである。
 
出典・・斎藤亜加里著「道歌から知る美しい生き方」。


************** 名歌鑑賞 ***************

 
心知らぬ 人はなんとも 言わば言え 身をも惜しまじ
名をも惜しまじ
                  明智光秀

(こころしらぬ ひとはなんとも いわばいえ みをも
 おしまじ なおもおしまじ)

意味・・自分の心の中を知らない人は、どんな事でも
    言うがいい。私は信念のためには自分の身も
    名誉も惜しくはない。

    この歌は辞世の歌で「本能寺の変」以降に詠
    まれたものです。

作者・・明智光秀=あけちみつひで。1528~1582。
    本能寺の変で有名。


************** 名歌鑑賞 **************

 
世の憂さを 昔語りに なしはてて 花たちばなに
思ひ出でめや          
                 西行

(よのうさを むかしかたりに なしはてて はな
 たちばなに おもいいでめや)
 
意味・・この世の憂さはすべて昔語りにしてしまって
    花橘の香に誘われて懐旧の念にひたろうよ。

    今のつらさを将来から見て、昔あった事の思
    い出話にしたいという気持ちを詠んでいます。

 注・・昔語り=昔あったことの話。
    花たちばな=「五月まつ花橘の香をかげば昔
      の人の袖の香ぞする」(意味は下記参照)
      の歌以来、「花橘」は懐旧の情を誘うも
      のとされた。
    や=詠嘆を表す。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義
    清(のりきよ)。鳥羽上皇の北面武士であった
    が23歳で出家。「新古今集」では最も入選
    歌が多い。

出典・・山家集・722。

参照歌です

五月まつ 花橘の 香をかげば 昔の人の 
袖の香ぞする         
               詠人知らず 

意味・・五月を待って咲く橘が早くも咲いて、その香り
    が匂ってくる。それは昔親しかったあの人の袖
    の香りが思いだされる。

    香りを通じて思い出されてくる懐かしさを詠じ
    たものです。

出典・・古今和歌集・139。


**************** 名歌鑑賞 ***************

 
富士のねを 木の間木の間に かへりみて 松のかげふむ
浮き島が原                 
                    香川景樹

(ふじのねを このまこのまに かえりみて まつの
 かげふむ うきしまがはら)

意味・・富士の峰を松並木の木の間ごとに振返って
    眺めながら、木陰の道を踏んでゆくここ
    浮島が原よ。

    美しい風景の中を旅行く楽しさを感じさせる
    一首です。

 注・・浮島が原=静岡県愛鷹(あしたか)山に広がる
     東海道の名所。北に富士山を仰ぎ見ることが
     でき、南は海を見渡すという眺望のすぐれた
     所です。

作者・・香川景樹=かがわかげき。1768~ 1843。鳥取
    藩士の子。

出典・・家集「桂園一枝」(小学館「近世和歌集」)


*************** 名歌鑑賞 ***************


親しからぬ 父と子にして 過ぎて来ぬ 白き胸毛を
今日は手ふれぬ      
                   土屋文明

(したしからぬ ちちとこにして すぎてきぬ しろき
 むなげを きょうはたふれぬ)

意味・・あまり親しくない父と子として、我々親子は
    今日まで過ごして来た。その父も今は重い病
    で臥床(がしょう)している。そのような父の
    白くなった胸毛に今日は手を触れた。思えば
    こんなこともしたことのない私だった。親子
    の縁(えにし)などというものは不思議なもの
    だ。

    「父なむ病む」の題で詠んだ歌です。
    父は農民であったが多くの事業に手を出して
    失敗ばかりした。あげくの果て家を売り村を
    捨てた。そのような父であったのでやさしく
    してもらえず親しみを持てなかった。

作者・・土屋文明=つちやぶんめい。1890~1990。
    東大哲学科卒。明治大学教授。

出典・・学灯社「現代短歌評釈」。


************** 名歌鑑賞 **************

 
みじか夜や 伏見の戸ぼそ 淀の窓    
                     蕪村

(みじかよや ふしみのとぼそ よどのまど)

意味・・夏の夜も明けきらぬうちに、伏見から淀川
    下りの一番船に乗る。伏見の町はまだ固く
    戸を閉ざして静まりかえっていたが、淀堤
    にさしかかる頃には夜も明け、両岸の商家
    は窓を開け放ち、忙しそうに往来する人の
    姿も見られる。

    京都伏見の京橋は大阪の八軒屋との間を往
    複する三十石船の発着点であった。伏見か
    ら淀の小橋まで5.5キロの下りで、淀の
    両岸には商家が軒を連ねていた。
    
 注・・戸ぼそ=家の雨戸。

作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。
    南宗画も池大雅とともに大家。

出典・・おうふう「蕪村全句集」。



*************** 名歌鑑賞 ****************


うろじより むろじへ帰る 一休み 雨降らば降れ
風吹かば吹け
                 一休宗純

(うろじより むろじへかえる ひとやすみ あめふらば
 ふれ かぜふかばふけ)

意味・・人生というのは、この世からあの世へと向かう、
    ほんの一休み。雨が降ろうが風が吹こうが、気に
    しない気にしない。
  
    人生というのは、一休みするほどの短さだ。雨が
    降り風が吹く事もあろうが、それも一時の時間。
    心のこだわりを捨てて、からりとした気持ちで生
    きることだ。
  
    「一休」の名の由来の歌です。

 注・・うろじ=有漏路。煩悩(ぼんのう・悩ます迷いの
     心)を持ち悟れない人、この世、現世。
    むろじ=無漏路。煩悩のない悟りの境地、あの世。
  
作者・・一休宗純=いっきゅうそうじゅん。1394~1481。
    頓知でお馴染みの一休さんです。


*************** 名歌鑑賞 ***************

 
妹として 二人作りし わが山斎は 木高く繁く
なりにけるかも
                 大伴旅人

(いもとして ふたりつくりし わがしまは こだかく
 しげく なりにけるかも)

意味・・妻と二人で作ったわが庭園は、木立も高く
    枝葉も立派に生い茂っている。
    亡き妻にも見せてやりたいものだ。

    妻と協力して建てた家、見事に出来上がっ
    た庭園も、今では一緒に見る妻がいない。

 注・・山斎(しま)=池や築山のある庭園。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。
    太宰帥の後に従二位・大納言に昇進。

出典・・万葉集・452。

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