名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2016年10月


*************** 名歌鑑賞 ****************


きりぎりす いたくななきそ 秋の夜の 長き思ひは
我ぞまされる
                   藤原忠房
           
(きりぎりす いたくななきそ あきのよの ながき
 おもいは われぞまされる)

詞書・・人のもとにまかれりける夜、きりぎりすのなき
    けるをよめる。

意味・・こおろぎよ、そんなに悲しそうに鳴いてくれるな。
    秋の夜は長いけれど、それと同じように長くつき
    ない思いは、この私のほうがよほどまさっている
    のであるから。

    この家の主人の嘆き悲しむのを見て、私のほうが
    もっとつらいのですと、我が心の寂しさを詠んだ
    ものです。

 注・・まかれりける=訪ねて行った。
    きりぎりす=今のこおろぎ。
    な・・そ=禁止の意味の助詞。

作者・・藤原忠房=ふじわらのただふさ。928年没。遣唐使。
    山城守・正五位下。

出典・・古今和歌集・196。


*************** 名歌鑑賞 ***************

 
斯くつねに 胸の騒がば ひろめ屋の 太鼓うちにも 
ならましものを
                  若山牧水

(かくつねに むねのさわがば ひろめやの たいこ
 うちにも ならましものを)

意味・・どうしてまあ自分の胸はこうもしよっちゅう
    騒ぎ波打ってばかりいるのだろうか。こんな
    ことならいっそのことチンドン屋の太鼓打ち
    にでもなってしまいたい、そしてドンドンと
    太鼓を叩いていたら、それに紛れて何もかも
    忘れてしまい、こんな胸の騒ぐこともあるま
    いに。

    恋愛にも仕事にも失敗した頃詠んだ歌です。
    心がひどく傷つき、胸に痛みを感じている時
    です。
    太鼓を力いっぱい叩いたなら気が紛れるだろ
    う。

 注・・さわがば=騒ぐならば、乱れるならば。
    ひろめ屋=広告屋、宣伝屋、チンドン屋。
    
作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
        早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛
            す。

出典・・大悟法利夫著「鑑賞・若山牧水の秀歌」。


**************** 名歌鑑賞 ***************

 
詠めこし 幾代の秋の うさならむ 我とはなしの
夕暮れの空
                 後水尾院

(ながめこし いくよのあきの うさならん われとは
 なしの ゆうぐれのそら)

意味・・どれほどの秋を繰り返し、物思いにふけって
    来た人々のつらさなのだろう。私と同じ身の
    上ではないその人々の思いのこもる夕暮れの
    空である。

    毎年繰り返す人々(民衆)の辛さとはどんな物
    なのだったのだろうか。水害や飢饉、疫病や
    思い年貢、物不足や物価の高騰・・、なのだ
    ろうか。

 注・・詠(なが)め=口ずさむ。眺め(もの思いに沈
     みながらぼんやり見やる)を掛ける。
    うさ=憂さ。つらいこと。
    我とはなし=我にして我でなきさま、自分自
     身を忘れているさま、私と同じ身の上ては
     ないさま。

作者・・後水尾院=ごみずおのいん。1596~1680。
    第108代天皇。

出典・・御着到百首(小学館「近世和歌集」)


**************** 名歌鑑賞 ****************

 
金色の 翅あるわらは 躑躅くはえ 小舟こぎくる
うつくしき川
                 与謝野晶子

(こんじきの はねのあるわらわ つつじくわえ おふね
 こぎくる うつくしきかわ)

意味・・金色の翅をつけた可愛い童子(どうじ)、すなわち
    愛の天使(エンジェル)・キューピットが紅い躑躅
    の花を口にくわえ、小さな舟を漕ぎつつこちらに
    近づいてきます。その川のなんと美しいことか。

    嬉しい恋愛成就の予感を詠んでいます。

 注・・金色の翅のあるわらは(童)=愛の天使、キューピ
     ット。

作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~1942。堺女学校
    卒。与謝野鉄幹と結婚。「明星」の花形となる。

出典・歌集「みだれ髪」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


月はやし梢は雨を持ちながら
                    芭蕉

(つきはやし こずえはあめを もちながら)

意味・・雨はやんだが、雲は飛ぶように早い。梢のあたり
    には、まだ先ほどの雨のしずくがそのまま残り、
    それに月の光があたって、美しくまたさわやかな
    ことだ。

    雲のことは一語も言っていないが、雲が去来する
    さまをみずみずしく思わせてくれる。

 注・・月はやし=月の面を雲が去来するのが早いので、
     月が早く走るように見える趣をいったもの。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1694。

出典・・鹿島紀行。

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