名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2016年11月


***************** 名歌鑑賞 ******************


僧朝顔幾死にかへる法の松
                    芭蕉

(そうあさがお いくしにかえる のりのまつ)

詞書・・奈良の当麻寺に参詣すると、庭に植えられている松は
    およそ千年もたっているように見える。大きさは、荘
    子がいう「牛を隠す」というほどの大きさである。寺
    の庭に植えられた松という仏縁で、斧で切り倒される
    ことがなかったのは幸運なことである。

意味・・この寺の僧も朝顔も、今まで幾代となく死に代ったこ
    とだろう。それなのに、この松は寺の庭に植えられて
    いたという仏縁で千年の長寿を保ったのはまことに尊
    いものだ。

    荘子のいう「牛を隠す」は「櫟社(れきしゃ)の樹を見
    る。その大きさ牛を隠す」ということで、櫟(くぬぎ)
    の木は材木にならず役に立たないので人間に伐られな
    い。それで牛を隠すほどの大きな木になり寿命を全う
    することが出来る、という意味です。

    この櫟や老松のように、天から頂いた寿命を病気など
    せずに全うしたいものです。

 注・・法の松=寺の庭に生えているという仏縁の松。そのため
     千年の老松になるまで寿命が全う出来た。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1694。

出典・・野ざらし紀行。


******************** 名歌鑑賞 ********************


あの頃に 戻ってみたし 公園の ベンチに笑う 
乙女らの声
                槿
                      
(あのころに もどってみたし こうえんの ベンチに
 わらう おとめらのこえ)
 
意味・・気持ちの良い晴れた青空の公園には、ベンチで
    数人の乙女らが笑いながらおしゃべりをしてい
  る。明るく無邪気な乙女らの姿である。
    私も昔はそのような若い時代があったものだ。
    今の自分は、年々、いや日に日に年老いている。
    若かったあの頃の時代に戻りたい、若かった時
  代を思い出して見たい。
 
    若い頃に戻れば、それはどんな時代だったのだ
    ろうか。何の憂いも無く、はつらつとして遊ん
    だ時代もあった。また、受験に就職に努力する
    時代でもあった。
    志という程の意識は無いが、尊敬する人のよう
    な生き方をしたい、母ちゃんを喜ばせたい、い
    や悲しませたくない、という気持ちで生きてい
    たものです。
 
    参考はヨイトマケの唄です。(歌詞は下記参照)
                       
            https://youtu.be/6e6-R_cx1rw
      
    学校でいじめられたので、母ちゃんに慰めても
    らおうと思って帰る途中で、男混じりの土方の
    仕事をしている母ちゃんの働く姿を見て、涙を
   飲み込んだ、という唄です。
 
作者・・槿=むくげ。ヤフーブログのハンドルネーム。
 
出典・・インターネット。
 
参考です。
 
「ヨイトマケの唄」  作詞・作曲 三輪明宏
 

父ちゃんのためなら エンヤコラ
母ちゃんのためなら エンヤコラ
もひとつおもけに エンヤコラ

今も聞こえる ヨイトマケの唄
今も聞こえる あの子守唄
工事現場の  ひるやすみ
たばこふかして 目を閉じりゃ
聞こえてくるよ あの唄が
働く土方の あの唄が
貧しい土方の あの唄が
 
子供の頃に 小学校で
ヨイトマケの子供 きたない子供と
いじめぬかれて はやされて
くやし涙に くれながら
泣いて帰った 道すがら
母ちゃんの働く とこを見た
母ちゃんの働く とこを見た
 
姉さんかむりで 泥にもみれて
日に灼けながら 汗を流して
男にまじって 綱を引き
天に向かって 声をあげて
力の限り うたってた
母ちゃんの働く とこを見た
母ちゃんの働く とこを見た
 
あれから何年 たった事だろ
高校も出たし 大学も出た
今じや機械の 世の中で
おまけに僕は エンジニア
苦労苦労で死んでった
母ちゃん見てくれ この姿
母ちゃん見てくれ この姿


*************** 名歌鑑賞 *****************

 
よそながら かげだに見むと 幾度か 君が門をば
過ぎてけるかな
                 樋口一葉

(よそながら かげだにみんと いくたびか きみが
 かどをば すぎてけるかな)

意味・・私の好きな人の姿をほんの少しだけでも見たいと
    思って、気づかれないように、あなたの家の門の
    前を何度も通り過ぎたのです。

    明治時代に生まれた一葉は色々と制約があり自由
    に生きる事が出来なかった。戸主制度もその一つ
    で戸主になれば家族を養わなければならず、好き
    な人が出来ても嫁いで行けなかった。
    一葉も戸主であり好きな相手も戸主であったので、
    結婚したくても出来ない。せめて相手の姿を遠く
    から見て心を慰めたい、という気持ちを詠んでい
    ます。

 注・・よそながら=それとなく、間接的に。
    戸主=旧民法で、一家の長で戸主権を持ち家族を
     養う義務があるもの。

作者・・樋口一葉=ひぐちいちよう。1872~1896。24歳。
    結核を患い亡くなる。

出典・・樋口一葉和歌集(林和清著「日本の悲しい歌」)



***************** 名歌鑑賞 ***************


吹く風の 色こそ見えね 高砂の 尾の上の松に
秋は来にけり
                藤原秀能
           
(ふくかぜの いろこそみえね たかさごの おのえの
 まつに あきはきにけり)

意味・・吹く風の色は秋とは見えないが、高砂の峰の松に、
    秋は来たことだ。

    常緑の松を見たり、風だけの感触ではまだ秋が来
    たとは感じられないが、松の枝を強い風が揺らし
    ている所を見ると、やはり秋が来たのだなあ。

 注・・高砂=兵庫県加古川市尾上町。松の名所。

作者・・藤原秀能=ふじわらひでよし1284~1240。正五
    位・出羽守。承久の乱に破れて出家。

出典・・新古今和歌集・290。


*************** 名歌鑑賞 ***************


あたたかな 日ざしと青い 青い空 みんな仲良く
飛ぶ小鳥たち
                 西村由佳里

(あたたかな ひざしとあおい あおいそら みんな
 なかよく とぶことりたち)

意味・・ここは小川が流れる静かな公園です。柔かな
    秋の日差しが暖かくさしている。空を見上げ
    ると、小鳥たちが仲良く群れを作って飛んで
    いる。その大空は青々として見ていて気持ち
    いい。幸せに思うひと時です。

    今日はこんなのどかな一日で、とびきり素敵
    な事は無かった代わりに、つらい事もなく、
    おだやかに過ごす事が出来ました。
    明日も、こんな一日だったらいいなあ。

作者・・西村由佳里=にしむらゆかり。1976~ 。
    立命館大学大学院卒。

出典・・インターネット・ヤフーブログ「ymotkm」。


***************** 名歌鑑賞 ***************


秋風の 音をも更に 吹きかへて 又おどろかす
冬は来にけり
                後水尾院

(あきかぜの おとをもさらに ふきかえて また
 おどろかす ふゆはきにけり)

意味・・秋の到来を感じさせた秋風の吹き方をもう一度
    改めて、秋に続いて再びはっとさせる冬がやっ
    て来たことだ。

    「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音に
    ぞおどろかれぬる」(古今集・藤原敏行)で秋風
    によって秋の到来を気づかされたことを受け、
    その秋風が更に冬の風に変じて冬の到来を「又」
    感じさせられたというのである。

作者・・後水尾院=ごみずのおいん。1596~1680。
           108代天皇。

出典・・小学館「近世和歌集」。


*************** 名歌鑑賞 **************


山を見よ山に日は照る 海を見よ海に日は照る
いざ唇を君
                 若山牧水

(やまをみよ やまにひはてる、うみをみよ うみに
 ひはてる、いざくちびるをきみ)

意味・・山々の木々は美しく輝いている。海も美しく
    凪いで青々と日に輝いている。私は幸福に満
    ち満ちている。さあ、唇を寄せたまえ君。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
        早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛
    す。

出典・・歌集「別離」(大悟法利雄著「若山牧水の秀歌」)


**************** 名歌鑑賞 ***************

ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれないに 
水くくるとは
                 在原業平

(ちはやぶる かみよもきず たったがわ からくれないに
 みずくくるとは)

意味・・さまざまな不思議なことが起きていたという
    神代でも聞いたことがない。滝田川の水を韓
    紅(からくれない)に絞り染めにするとは。

    真っ赤な紅葉が点々として浮かぶ滝田川を、
    真紅の絞り模様のついた反物を晒(さら)した
    ところに見立てたもので、華麗な歌です。

 注・・ちはやぶる=凶暴な、猛々しい、転じて「神」
     の枕詞。
    神代=不思議なことが起こった神々の時代。
    滝田川=奈良県生駒郡に流れる川。
    からくれない=鮮やかな紅色。韓紅。
    水くくる=水を反物にみたてて、水に浮かんだ
     紅葉の葉をくくり染め(絞り染め)に見立てた
     もの。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。
    美濃権守。六歌仙の一人。゜伊勢物語」が有名。

出典・・古今和歌集・294、百人一首・17。


**************** 名歌鑑賞 **************


紫の 葡萄を搬ぶ 舟にして 夜を風説の
ごとく発ちゆく
              安永蕗子

(むらさきの ぶどうをはこぶ ふねにして よるを
 ふうせつの ごとくたちゆく)

意味・・一艘の舟が夜の岸を静かに離れてゆく。積み
    荷は紫の葡萄という。香り高く熟した葡萄を
    積んだ舟の出立。夜の水辺をゆく舟のシルエ
    ットが美しい。舟はどこに行くのだろう。風
    のうわさのように・・確かめられないが、静
    かに発って行く。

 注・・搬ぶ=手で移し動かす。持ち運ぶ。

作者・・安永蕗子=やすながふきこ。1920~ 。熊本
    県女子師範卒。書家。

出典・・歌集「魚愁」(実業之日本社「現代秀歌百人
    一首」)


***************** 名歌鑑賞 **************


秋の野に なまめき立てる 女郎花 あなかしがまし
花もひと時
                 僧正遍照 

(あきののに なまめきたてる おみなえし あな
 かしがまし はなもひととき)

意味・・秋の野原に、あでやかな姿を競っている女郎花
    は、まあなんとうるさいことであろうか。美し
    い花も、ほんの一時だけの事なのに。

    女郎花を女性にたとえた歌です。

 注・・なまめき立てる=あでやかな姿を競っている。
    女郎花=花の名前から若い女性をほのめかす。
    あなかしがまし=ああ、やかましい。

作者・・僧正遍照=そうじょうへんじょう。~890年没。
     元慶寺を創設して座主となった。

出典・・古今和歌集・1016。

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