名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年02月


**************** 名歌鑑賞 ***************


ラジオなる この絃の音や 人間の 千万年の
歴史にかかる
                 明石海人

(ラジオなる このいとのねや にんげんの せんまん
 ねんの れきしにかる)

意味・・ラジオが普及され、初めて音楽放送を聞いた。
    弦楽器の音楽を身近に聞けるようになり嬉し
    い。文明の利器を思わせるものだ。人類の千
    万年もの間の進化の賜物なのだ。

    ラジオは大正14年3月に放送開始された。作者
    が療養所の中で聞いたのは昭和10年です。そ
    の時に詠んだ歌です。

 注・・絃(いと)=弦楽器。

作者・・明石海人=1901~1939。ハンセン病を患い
    岡山県の愛生園で療養。手指の欠損、失明、
    喉に吸気管を付けた状態で歌集「白描を出
    版」。

出典・・荒木力著「よみがえる万葉歌人・明石海人」。


************** 名歌鑑賞 *************


霜やけの 手を吹いてやる 雪まろげ   
                    羽紅

(しもやけの てをふいてやる ゆきまろげ)

意味・・雪まろげに興じていた子供の手を見ると、
    霜やけで赤くはれているので、息を吹き
    かけ温めてやった。

    いかにも母親らしい、子を思う情愛に
    あふれた句です。

 注・・雪まろげ=雪を丸め転がして大きくする
       こと。
作者・・羽紅=うこう。生没年未詳。野沢凡兆(1
    714年没、金沢の医者)の妻。

出典・・猿蓑。


**************** 名歌鑑賞 **************


晴るる夜の あはれはいはじ 月かげの おぼろにうつる
須磨の浦波
                   藤原為相

(はるるよの あわれはいわじ つきかげの おぼろに
 うつる すまのうらなみ)

意味・・晴れている夜の趣き深さはいうまでもないで
    あろう。月の光がおぼろに映っている須磨の
    浦波の面白さも決して劣ることはあるまい。

    秋のさわやかに輝く月はもちろん良いが、お
    ぼろに霞んで見える春の月も良いものだ。

 注・・あはれ=しみじみとした趣、深い感慨。

作者・・藤原為相=ふじわらのためすけ。1263~1328。
    正二位権中納言。母は阿仏尼(十六夜日記が有
    名)。

出典・・為相百首(小学館「中世和歌集」)


**************** 名歌鑑賞 **************


時過ぎて かれゆく小野の 浅茅には 今は思ひぞ
たえず燃えける
                 小町が姉
 
(ときすぎて かれゆくおのの あさじには いまは
 おもいぞ たえずもえける)

意味・・盛りの時が過ぎて、枯れてゆく野の浅茅には、
    今は野火の火が絶えず燃えている。
    恋の盛りの幸せな時が過ぎて、あなたから疎
    まれていても、私には恋しく思う胸の火が熱
    く燃えています。

 注・・小野=野。「小」は接頭語。小野氏を詠み込
     み、「浅茅」のあわれな姿に自分自身をなぞ
     らえている。
    浅茅(あさじ)=低い茅(かや)。

作者・・小町が姉=こまちがあね。生没年未詳。平安
     時代の人。小野小町の姉。

出典・・古今和歌集・790。


**************** 名歌鑑賞 ***************


冬がれに 里のわら屋の あらはれて むらどりすだく
梢さぶしも
                  賀茂真淵

(ふゆがれに さとのわらやの あらわれて むらどり
 すだく こずえさぶしも)

意味・・冬枯れのために葉がなくなって、これまで木々に
    隠れていた里の藁(わら)屋があらわに見えるよう
    になり、多くの鳥が梢に集まり群がる様子は寂し
    い。

 注・・すだく=集く。群がり集まる。

作者・・賀茂真淵=かものまぶち。1697~1769。田安宗
      武に仕える。本居宣長ら多くの門人を育てる。

出典・・小学館「近世和歌集」。



**************** 名歌鑑賞 ***************


おもうどち 寒き雨夜も 忘れけれ 宇治栂尾の
品定めして
                 井上文雄

(おもうどち さむきあめよも わすれけれ うじ
 とがのおの しなさだめして)

意味・・茶を好む者同士が、気か付けば、寒い雨夜さえ
    忘れさっているのだ。宇治がおいしいか栂尾が
    おいしいか、茶の味の品評をしあって。

 注・・栂尾=京都市右京区。明恵上人が栂尾にお茶を  
     植栽した。
    宇治=京都の南部に位置する。栂尾のお茶が移
     植され、やがて宇治は茶所になった。

作者・・井上文雄=いのうえふみお。1800~1871。江
      戸の人で田安藩の待医。

出典・・歌集「調鶴集」(松本章男著「京都百人一首」)


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春の夜は 軒ばの梅を もる月の 光もかおる
心地こそすれ
                藤原俊成

(はるのよは のきばのうめを もるつきの ひかりも
 かおる ここちこそすれ)

意味・・春の夜は、軒端に芳香を放っている梅の、その間
    から漏れて来る月の光までもが薫るような心地が
    することだ。

    優雅な雰囲気を歌っています。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
    正三位・皇太后宮大夫。千載和歌集を撰進。

出典・・千載和歌集・24。


*************** 名歌鑑賞 **************


梅の花 また来ん春は 咲くらめど 下降ちゆく
我ぞわびしき
                 良寛

(うめのはな またこんはるは さくらめど した
 くだちゆく われぞさびしき)

意味・・梅の花は、またやって来る春には咲くであろ
    うが、盛りが過ぎ心も衰えてゆく私の身は、
    まことにわびしいことだ。

    体力の衰えを感じた老人の嘆きです。嘆くだ
    けでなく、出来る事を精一杯して生きていき
    たいものです。

 注・・下=心、心の中。
    降(くだ)ち=盛りが過ぎる、衰える。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川俊朗著「良寛全歌集」。


*************** 名歌鑑賞 *************


燈火の 明石大門に 入らむ日や 漕ぎ別れなむ
家のあたり見ず    
                柿本人麻呂

(ともしびの あかしおおとに いらんひや こぎ
   わかれなん いえのあたりみず)

意味・・明石の広い海峡に船がさしかかる日には、
    はるか彼方の故郷に別れを告げることに
    なるであろうか。もう家族の住む大和の
    山々を見ることもなく。

    当時、防人たちを初めとする国を追われ
    た人達は、明石海峡を越えてそれぞれの
    地に送られて行った。それで明石は別離
    を象徴する場所となった。

    作者も大和から九州へ下る時の心細さ、
    長い間家族ともう会えない寂しさを詠ん
    でいます。

 注・・燈火=明石の枕詞。
    大門(おおと)=大きな海峡。

 作者・・柿本人麻呂=かきのもとひとまろ。生没未
    詳。奈良遷都(710)頃の人。舎人(とねり・
    官の名称)として草壁皇子、高市皇子に仕え
    た。

出典・・万葉集・254。


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今日に明けて 昨日に似ぬは みな人の 心に春の
立ちにけらしも
                   紀貫之

(きようにあけて きのうににぬは みなひとの こころに
 はるの たちけらしも)

詞書・・春立つ日詠める。

意味・・今日このように夜が明けて、昨日と違っているよう
    に見えるのは、すべての人の心に春が来たからであ
    るらしいなあ。

    季節の移り変りも、結局は節目節目の気構えによる
    ものだ、という心を大切にした歌となっています。
   
作者・・紀貫之=きのつらゆき。780~945。土佐守。古今集
    仮名序の作者。三十六歌仙の一人。

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