名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年03月


**************** 名歌鑑賞 ***************


かうしては いられぬと思ひ そんならば 如何にすべきか
苦しみて病む
                    小名木綱夫

(こうしては いられぬとおもい そんならば いかに
 すべきか くるしみてやむ)

詞書・・病気で寝ながらの歌。

意味・・自分には、生活のためにも、その他いろいろな
    仕事のためにもしなければならない事が沢山あ
    る。じっと寝てなどはいられないのだが、病状
    が重く、寝ているしかない。

    必死に生きようとする気持ちがあるのだが、そ
    れが出来ないもどかしさを歌っています。

作者・・小名木綱夫=おなぎつなお。1911~1948。小
      学校を卒業後印刷工となったが、健康を害して
    仕事を転々とした。

出典・・歌集「太鼓」(桜楓社「現代名歌鑑賞事典」)


*************** 名歌鑑賞 **************


過ぎ去れば 昨日の遠し 今日もまた 夢の話と
なりぬべきかな
                  与謝野晶子
 
(すぎされば きのうのとおし きょうもまた ゆめの
 はなしと なりぬべきかな)

意味・・過ぎ去ってしまうと昨日も遠い事のようです。
    そのように今日という日もまた夢の話のよう
    に遠くなってしまうのでしょう。

    かく過ぎ去って、昭和は遠くなる。

    参考です。
    村田英雄の唄った「明治は遠くなりにけり」
    です。
               丘 灯到夫 作詞
               船村徹   作曲
    想い悲しく 東海の
    磯に涙の啄木や
    熱き血潮に 柔肌の
    歌人晶子 いまは亡く
    ああ明治は 遠くなりにけり

    汽笛一声 新橋の
    屋根におぼろの 七日月
    月の光は 変らねど
    人生あはれ五十年
    ああ明治は 遠くなりにけり

    水の流れと 人の身の
    行方定めぬ 世の姿
    晴れの維新の 大業も
    足音絶えて 幾星霜
    ああ明治は 遠くなりにけり 
  
啄木の東海の歌
   「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて
   蟹とたはむる」
晶子の柔肌の歌
   「やは肌のあつき血汐にふれも見で さびし
   からずや道をとく君」
人生あはれ五十年の歌
   「人間五十年下天の内を比ぶれば 夢幻の
   如くなり」
    
作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~1942。
    堺女学校卒。与謝野鉄幹と結婚。
     
出典・・歌集「心の遠景」(大塚虎彦著「名歌即約・
    与謝野晶子」)


**************** 名歌鑑賞 ***************


雲のうへの 春こそさらに わすられぬ 花は数にも
思ひ出でじを
                   藤原俊成

(くものうえの はるこそさらに わすられぬ はなは
 かずにも おもいいでじを)

意味・・雲の上、宮中での春は決して忘られないことです。
    しかし、花の方は私など物の数にも思わないでし
    ょう。

    例えてみると、
    地方に転勤になった時、自分は元の職場を懐かし
    く思って忘れられないのだが、元の職場の人達は
    私の事を忘れてしまうだろうなあ、という寂しい
    気持ちです。

 注・・雲のうへ=宮中。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
    正三位・皇太后宮大夫。千載和歌集の撰者。

出典・・千載和歌集・1056。


*************** 名歌鑑賞 ***************


山もとの 鳥の声より あけそめて 花もむらむら
色ぞみえゆく
                 永福門院

(やまもとの とりのこえより あけそめて はなも
 むらむら いろぞみえゆく)

意味・・山の麓で鳥の鳴き声がして夜があけはじめ、
    あそこに、こことに群がって咲いている桜
    の花が見え始めたてきた。

    麓で鳥が鳴き、次第に明るくなってゆくと
    山に群がり咲く桜の花も浮かびあがってく
    る、その美しさを歌っています。

 注・・むらむら=あちこちと群がっている状態。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。
     伏見天皇の中宮。

出典・・玉葉和歌集・196。


**************** 名歌鑑賞 ***************


靴のあと みなことごとく 大空を うつすと勇み
泥濘をゆく
                 石川啄木

(くつのあと みなことごとく おおぞらを うつすと
 いさみ どろぬまをゆく)

意味・・靴の足跡の一つ一つに水が溜まって、どれもが
    大空を映す、そう思うと心が勇みたち、苦労し
    ながらも泥濘を歩いて行く。

      泥濘の靴跡でさえ青空を美しく映している、私
    の今の努力も必ず力となっていくことだろう。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
     26歳。盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻に師事
    するために上京。

出典・・歌集「石破集」。


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かかる夜も はなやかにして 人あらむ 戸の面の草生
雨しづかなり
                   百田宗治 

(かかるよも はなやかにして ひとあらん とのもの
 くさふ あめしずかなり)

意味・・こんな夜も、匂うような華やかさをもって、誇ら
    かに立ち振る舞っていることだろう。その様子が
    目に浮かばれて来る。ふと、我にかえり、一人居
    の部屋から、窓外に目を移すと、灯のわずかに届
    く庭前の若草に、雨がしとしとと音もなく降りか
    かって静かである。

    片思いながら、好きな人を思い浮かべて詠んだ歌
    です。

 注・・かかる夜も=このような夜も。いつもそうである
     が、殊に、自分が一人ぽっちでいる、こんな暗
     い淋しい静かな夜でも。
    はなやかに=作者の目に浮かぶ美しさであり、頭
     の中に描かれた幻影。

作者・・百田宗治=ももたそうじ。1893~1955。詩人、作詞
    家。童謡「どこかで春が」有名。

出典・・歌集「愛の鳥」。


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花やいかに 春日うららうに 世はなりて 山のかすみに
鳥の声
                   伏見院

(はなやいかに はるひうららに よはなりて やまの
 かすみに とりのこえ)

意味・・世はなべて春の日がうららに照らす春景色と
    なり、山の霞の間からは鳥のさえずりの声が
    のどかに聞こえて来る。ああ、今年の花、梅
    や桜の花はどうであろうか、美しい花を賞で
    たいものだ。

作者・・伏見院=ふしみいん。1265~1317。第92代
      天皇。

出典・・金玉歌合(岩波書店「中世和歌集「鎌倉篇」)


*************** 名歌鑑賞 ***************


春の日に 萌れる柳を 取り持ちて 見れば都の
大路し思ほゆ
                 大伴家持

(はるのひに はれるやなぎを とりもちて みれば
 みやこの おおじしおもおゆ)

意味・・春の日盛りの中に芽吹いている柳、この柳
    の枝を折り取って、しげしげ見ると、あの
    奈良の都大路が偲ばれてならない。

    越前(福井・石川)にいる時に詠んだ歌です。
    奈良の都の街路樹は柳が植えられていた。

作者・・大伴家持=大伴家持。718~785。大伴旅人
    の長男。越中(富山)守。万葉集の編纂を行う。

出典・・万葉集・4142。


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宿もやど 花もむかしに 匂へども 主なき色は
さびしかりけり
                 僧正尋範 

(やどもやど はなもむかしに におえども ぬしなき
 いろは さびしかりけり)

意味・・宿も昔のままの宿だし、花も昔のまま咲き華や
    いでいるけれども、主人のいない家の桜の色は
    寂しいことだ。

    花を愛でていた作者の師が亡くなり、師の家の
    桜の盛りに寄せて詠んだ懐旧の歌です。

 注・・宿=家屋、住居。
    むかしに=宿の主の生きていた昔のままに。

作者・・僧正尋範=そうじようじんはん。1101~1174。
    興福寺の僧正。

出典・・千載和歌集・1054。


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もろこしの 青海ばらや てらすらむ 今も三笠の
山のはの月
                  伴蒿蹊

(もろこしの あおうなばらや てらすらん いまも
 みかさの やまのはのつき)

意味・・唐土の青海原を照らしているのであろうか、
    今も仲麻呂の頃と同じく見る事の出来る三笠
    山の稜線から出る月は。

    安倍仲麻呂の「天の原ふりさけ見れば春日な
    る三笠の山にいでし月かも」(古今集)を踏ま
    えて詠んいます。

    遠い昔に遠い唐土で見た月と、今三笠の山に
    出ている月とを、時間的・空間的距離を飛び
    越えて重ねています。

 注・・もろこし=唐土。昔、日本から中国を指して
     呼んだ称。
    三笠の山=奈良の町の東にある山。「三笠」
     に「見る」を掛ける。

作者・・伴蒿蹊=ばんこうけい。1733~1806。商人の
    子。36歳で隠居し文人生活を送る。

出典・・家集「閑田詠草」(小学館「近世和歌集」)

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