名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年03月


*************** 名歌鑑賞 **************


のどかにも やがてなり行く けしきかな 昨日の日影
今日の春雨
                    伏見院

(のどかにも やがてなりゆく けしきかな きのうの
 ひかげ きょうのはるさめ)

意味・・春になり、早くものどかになってゆく様子
    だなあ。昨日のうららかな日差し、今日の
    この静かに降る春雨。

作者・・伏見院=ふしみいん。1265~1317。第92
    代天皇。玉葉和歌集を撰進させた。

出典・・玉葉和歌集。


**************** 名歌鑑賞 ***************


昨日今日 花のもとにて くらすこそ 我が世の春の
日数なりけれ
                  香川景樹

(きのうきょう はなのもとにて くらすこそ わがよの
 はるの ひかずなりけれ)

意味・・昨日今日と花のもとで一日を過ごすのは、自分の
    生涯における春ともいうべき佳き日々である。

    何の物思いもせずに風流に生きられることは素晴
    らしいことである。

 注・・わが世の春=自分の生涯の最盛期。
    日数=ひにちの数、にっすう、日々。

作者・・香川景樹=かがわかげき。1768~1843。鳥取藩
    士の子。号は桂園。桂園派としての和歌は一大勢
    力となった。

出典・・家集「桂園一枝」(小学館「近世和歌集」)


**************** 名歌鑑賞 ***************


葛飾や ままのつぎはし ままならぬ うき世の事は
かけておもわじ
                  萩原宗固

(かつしかや ままのつぎはし ままならぬ うきよの
 ことは かけておもわじ)

意味・・葛飾の真間の継橋ではないが、その名の通り、
    ままならない憂世の事は、決して思い悩むまい。

 注・・葛飾=千葉県市川市真間町。
    ままのつぎはし=下総国葛飾の歌枕真間の継橋。
    ままならぬ=思い通りにならない。
    かけて=下に打消しの語を伴って、決しての意。
     「掛けて」を掛ける。

作者・・萩原宗固=はぎわらそうこ。1703~1784。幕府
    の与力。冷泉為村に師事。

出典・・家集「志野之葉草」(小学館「近世和歌集」)


***************** 名歌鑑賞 ****************


いづくにて 世をばつくさむ すがはらや ふしみのさとも 
あれぬといふものを
                    源実朝

(いずくにか よをばつくさん すがはらや ふしみの
 さとも あれぬというものを)

意味・・どこで私は生涯を過ごそうか。菅原の伏見の里も
    荒れ果ててしまったというのに。

    現代の高齢化社会の一端を思わせます。空き家が
    目立ち、スーパーが撤退するしバスも通らなくな
    った。車も乗れない身の私には不便な土地になっ
    てしまったものだ。

 注・・世=生涯、一生、人生。
    つくさむ=尽くさむ。終わりにする、極める。
    すがはらやふしみのさと=菅原や伏見の里。奈良
     県生駒郡伏見町菅原。今は奈良市菅原町。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。28才。
    12歳で征夷大将軍になる。甥の公暁に鶴岡八幡宮
    で暗殺された。

出典・・金槐和歌集・600。


**************** 名歌鑑賞 ***************


鳥の音も のどけき山の 朝あけに 霞の色は
春めきにけり
                 藤原為兼

(とりのねも のどけきやまの あさあけに かすみの
 いろは はるめきにけり)

意味・・鳥の鳴き声ものどかに聞こえて来る山の明け
    方に、たちこめる霞の色はすっかり春らしく
    なったことだ。

作者・・藤原為兼=ふじわらのためかね。1254~1332。
    伏見天皇の東宮大夫。政治的に活躍するが失
    脚し佐渡に配流。その後帰洛。玉葉和歌集を
    撰進。

出典・・玉葉和歌集。
 


**************** 名歌鑑賞 ****************


いにしへの 人の植えけむ 杉が枝に 霞たなびく
春は来ぬらし
                  作者未詳

(いにしえの ひとのうえけん すぎのえに かすみ
 たなびく はるはきぬらし)

意味・・昔の人が植えて育てたという、この杉の木立の
    枝に霞がたなびいている。たしかに春はもう到
    来したらしい。

    見事な杉木立を古人の植林の結果とみて、それ
    に霞がかかり、いよいよ春になった事の喜びを
    詠んでいます。

出典・・万葉集・・1814。


**************** 名歌鑑賞 ***************


岸遠き 川瀬の霞 末晴れて 柳に見ゆる
春風の色
              藤原為相

(きしとおき かわせのかすみ すえはれて やなぎに
 みゆる はるかぜのいろ)

意味・・岸から遠い川瀬には霞がかかっているが、その
    末の方は晴れていて、なびいている緑の柳によ
    って春の風の色が見えてくることだ。

作者・・藤原為相=ふじわらのためすけ。1263~1328。
    正二位権中納言。母は阿仏尼(十六夜日記の作者)。

出典・・為相百首(小学館「中世和歌集」)


**************** 名歌鑑賞 ****************


さのみとは おもふ心の たのみにて はかなく過ぎし
仲のとし月
                  白河雅喬

(さのみとは おもうこころの たのみにて はかなく
 すぎし なかのとしつき)

意味・・そんな辛い事ばかりではない、いずれはきっと
    好転すると思う心の期待によって、はかなく過
    ぎてしまった私達の仲の年月よ。

    親の反対や身分の違いから中々結婚にたどり着
    けない状態を詠んでいます。

 注・・さのみとは=そんなにつらい事ばかりではない。
     いずれはきっと好転する、といった意味合い
     で使われる。

作者・・白河雅喬=しらかわまさたか。1620~1688。
      神祇。正二位。

出典・・万治御点(小学館「近世和歌集」)



*************** 名歌鑑賞 ***************


朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に
降れる白雪
                 坂上是則
       
(あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしのの
 さとに ふれるしらゆき)

意味・・白々と夜が明ける頃に見ると、有明の月の光と
    思うほどに明るく、吉野の里には雪が降り積も
    っている。

 注・・朝ぼらけ=夜が明けて、ほのかに明るくなって
     来る時分。
    有明の月=夜明けの空にまだ残っていて、白々
     と光っている月。

作者・・坂上是則=さかのうえのこれのり。生没年未詳。
    古今集時代の代表的歌人。

出典・・古今和歌集・332、百人一首・31。


**************** 名歌鑑賞 ***************


虫明の 瀬戸のあけぼの 見るをりぞ 都のことも 
忘られにける       
                  平忠盛
               
(むしあけの せとのあけぼの みるおりぞ みやこの
 ことも わすられにける)

意味・・この虫明の瀬戸の曙の美しい景色を見る時こそ、
    都を離れ悲しいと思い続けて来たことも、自然
    に忘れてしまうことだ。

    備前守として任地に下った時の都を恋しく思う
    気持ちを詠んだ歌です。

 注・・虫明=岡山県邑久郡虫明町の瀬戸内の要港。
     備前国の歌枕。

作者・・平忠盛=たいらのただもり。1096~1153。平
    清盛の父。正四位上。平家全盛の基礎を築く。

出典・・玉葉和歌集

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