名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年05月


**************** 名歌鑑賞 ****************


起きもせず 寝もせで夜を 明かしては 春のものとて
ながめ暮らしつ
                   在原業平

(おきもせず ねもせでよるを あかしては はるの
 ものとて ながめくらしつ)

意味・・あなたの事を思い続けて、起き上がりもせず、
    眠りもしないで一晩悩み明かしては、昼は昼
    でまた、春の季節のつきものとして長雨をじ
    っと眺めて、一日中物思いをして暮らしてし
    まった。

 注・・春のもの=春の景物としての長雨。
    ながめ=「長雨」と「眺め(物思い)」を掛け
     る。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。
    六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・616、伊勢物語。


*************** 名歌鑑賞 ****************


樗咲く 外面の木陰 露落ちて 五月雨晴るる 
風渡なり
               藤原忠良

(おうちさく そとものこかげ つゆおちて さみだれ
 はるる かぜわたるなり)

意味・・樗の花が咲いている。戸外のその木の下陰には、
    露がこぼれ落ち、五月雨が晴れようとするのを
    思わせる風が吹き渡っている。

    雨があがると感じた時の歌です。薄紫の栴檀の
    花と葉が雨に濡れており、風のためにこぼれ落
    ちる露のさわやかさを詠んでいます。

 注・・樗=栴檀の古名。柔らかい緑色の葉が細かく茂
     り、夏に薄紫の小さな花を沢山咲かす。

作者・・藤原忠良=ふじわらのただよし。1164~1225。
    正二位大納言。

出典・・新古今和歌集・234。


*************** 名歌鑑賞 ****************


  高きより飛び降りるごとき心もて
  この一生を
  終わるすべなきか
                   石川啄木

(たかきより とびおりるごとき こころもて この
 いっしようを おわるすべなきか)

意味・・高い所から一思いに飛び降りるような気持ち、
    そんな決断と勇気とを常に持ち続けてこの一生
    を終わる方法はないものか。

 注・・一生を終わる=終生。
    一生を終わるすべなきか=「か」は疑問の助詞
     だが、それによって希望を表現している。「
     ・・ないものだろうか」すなわち「終生そん
     な気持ちを持ちつづけたい」の意になる。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
            26歳。盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻に師事
    するために上京。


**************** 名歌鑑賞 ****************


隅田川 堤に立ちて 船待てば 水上遠く 
鳴くほととぎす
               橘千蔭

(すみだがわ つつみにたちて ふねまてば みなかみ
 とおく なくほととぎす)

意味・・隅田川の土手に立って渡し舟の来るのを待って
    いたら、上流の遠くの方でほととぎすが鳴いて
    いる。

    舟を待つ手待ち時間に鳥の鳴き声を聞きながら
    ゆったりしている情景です。

作者・・橘千蔭=たちばなちかげ。1735~1808。江戸
      町奉行の与力。賀茂真淵に和歌を学ぶ。

出典・・家集「うけらが花」(東京堂出版「和歌鑑賞事典
    」)



**************** 名歌鑑賞 **************


神風の 伊勢の浜荻 折り伏せて 旅寝やすらむ
荒き浜辺に
                碁檀越妻

(かみかぜの いせのはまおぎ おりふせて たびねや
 すらん あらきはまべに)

意味・・伊勢の国の海辺に生い茂っている荻を折り伏せ
    て寝床とし、わが夫は旅寝をしていることだろ
    うか、その荒々しい海辺で。

    夫が伊勢国に行った時、京に留まった妻が詠ん
    だ歌です。

    当時の旅は野宿も多く旅は大変であった。その
    旅が無事に終えて欲しいと、妻が祈っている歌
    です。

 注・・神風の=「伊勢」の枕詞。
    荻=イネ科の多年草。水辺や原野に生える。薄
     に似ている。

作者・・碁檀越妻=ごのだにおちのめ。生没年未詳。碁
    は氏。檀越は寺の施主の意で称号。

出典・・万葉集・500。 


***************** 名歌鑑賞 ***************


ほととぎす 雲居のよそに 過ぎぬなり 晴れぬ思ひの
五月雨のころ
                   後鳥羽院

(ほととぎす くもいのよそに すぎぬなり はれぬ
 おもいの さみだれのころ)

意味・・ほととぎすが、雲の彼方に鳴いて過ぎて行くのが
    聞こえる。晴れ晴れしない思いに閉ざされている
    五月雨の頃に。

    重苦しい五月雨の頃、政治上の悩みを抱いていた
    作者に、雲の彼方に鳴き過ぎるほととぎすの声は
    悩みをさらに掻き立てるものであった。
    この歌が詠まれたのは、1221年の承久の乱の13年
    前ですが、鎌倉幕府の武家政治から朝廷側に取戻
    そうという重大事が政治上の悩みです。

 注・・雲居=雲の彼方。
    過ぎぬなり=鳴き過ぎるのが聞こえる。
    晴れぬ思ひ=五月雨が降り続くのでうっとうしい
     気持ち。

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。第82代天皇。
    1221年の承久の乱で北条氏に敗れ隠岐に配流され
    た。新古今集を勅撰させた。


**************** 名歌鑑賞 ***************


ぬばたまの 夜霧のたちて おほほしく 照れる月夜の
見れば悲しさ
                   大伴坂上郎女

(ぬばたまの よぎりのたちて おほほしく てれる
 つくよの みればかなしさ)

意味・・夜霧がたちこめておぼろに照っている月夜の光景
    を見ると、何ともうら悲しくてならない。

    心の晴れない状態を詠んでいますが、それがどん
    状態なのかは分からないが、次の歌が参考になり
    ます。
   「今は我は 死なむよ我が背 生けりとも 我による
    べしと 言うといはなくに」
             (万葉集・684 大伴坂上郎女)
   (もう私は死にます。あなた。このうえ生きていても、
    あなたの愛情は、今と同じように、私の方にはけっ
    して戻らないでしようから)

 注・・ぬばたまの=「夜」の枕詞。
    おほほし=「凡ぼ(おぼ)」を重ねた「おぼおほし」
            の約。ぼんやりしている、心が晴れない。

作者・・大伴坂上郎女=おおとものさかのうえのいらつめ。
    大伴旅人の異母妹。

出典・・万葉集・982。


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今や夢 昔や夢と まよはれて いかに思へど 
うつつとぞなき
               建礼門院右京大夫

(いまやゆめ むかしやゆめと まよわれて いかに
 おもえど うつつとぞなき)

意味・・さびしい今の事が夢なのだろうか、それとも
    記憶に残っているあの華やかな昔の事が夢な
    のだろうか、と思わず迷う気持ちになって、
    どう思ってみても今のこの有様は現実とは感
    じられない。
 
    平家一門が滅び、右京大夫が都落ち以前に仕
    えていた建礼門院だけが壇ノ浦で身を投げた
    が助けられた。その後出家して今は大原の寂
    光院にいる。右京大夫は山道を分け入って寂
    光院を訪ね、瘦せ衰え変わり果てた建礼門院
    に対面した。昔は華やかな衣装を着けていた
    のだが今は粗末な尼の姿であった。この時に
    詠んだ歌です。

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうき
    ょうのだいぶ。1157頃~1227頃。高倉天皇の
    中宮平徳子(建礼門院)に仕える。

出典・・右京大夫集。


***************** 名歌鑑賞 ****************


棕梠の葉の 菜の花の麦の ゆれ光り 揺れひかり 永き
ひと日なりけり
                  若山牧水

(しゅろのはの なのはなのむぎの ゆれひかり ゆれひかり
 ながき ひとひなりけり)

意味・・作者は家にこもって、一人で静かに原稿書きか何か
    をしている。もう春もかなり深い。すぐ窓の先には
    いかにも南国的な感じの棕梠の木が立っていて、そ
    の向こうは菜の花畑、そしてその向こうには青麦畑
    が続いている。風というほどの風もないけれど、そ
    れでもその棕梠の葉が明るい日差しの中に時おり揺
    らいできらりきらりと光り、そうかと思えば今度は
    黄金色に輝く菜の花畑が静かに揺れて光り、もうか
    なり伸びた青麦も時おり風に揺れて輝く。仕事を続
    けながらも時おり顔をあげて窓さきを眺めるたびに
    その同じような風景が目に入る。ああ本当に永い春
    の一日だなあ。

    のどかな春の田園の情景です。

 注・・棕梠のはの=「棕梠の葉が」の意。同じく「菜の花
     が」、「麦が」の意。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。早稲田
    大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛す。

出典・・歌集「砂丘」。


***************** 名歌鑑賞 ***************


かんがえて 飲みはじめたる 一合の 二合の酒の
夏のゆふぐれ
                  若山牧水

(かんがえて のみはじめたる いちごうの にごうの
 さけの なつのゆうぐれ)

意味・・よそうか、飲もうか、そう考えながらにいつか
    取り出された徳利が一本になり二本になってゆ
    く。静かな夏の夕暮れの一時である。
    
作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
      早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛す。

出典・・歌集「死か芸術か」。

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