名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年05月


***************** 名歌鑑賞 ***************


ほととぎす 雲居のよそに 過ぎぬなり 晴れぬ思ひの
五月雨のころ
                   後鳥羽院

(ほととぎす くもいのよそに すぎぬなり はれぬ
 おもいの さみだれのころ)

意味・・ほととぎすが、雲の彼方に鳴いて過ぎて行くのが
    聞こえる。晴れ晴れしない思いに閉ざされている
    五月雨の頃に。

    重苦しい五月雨の頃、政治上の悩みを抱いていた
    作者に、雲の彼方に鳴き過ぎるほととぎすの声は
    悩みをさらに掻き立てるものであった。
    この歌が詠まれたのは、1221年の承久の乱の13年
    前ですが、鎌倉幕府の武家政治から朝廷側に取戻
    そうという重大事が政治上の悩みです。

 注・・雲居=雲の彼方。
    過ぎぬなり=鳴き過ぎるのが聞こえる。
    晴れぬ思ひ=五月雨が降り続くのでうっとうしい
     気持ち。

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。第82代天皇。
    1221年の承久の乱で北条氏に敗れ隠岐に配流され
    た。新古今集を勅撰させた。


**************** 名歌鑑賞 ***************


ぬばたまの 夜霧のたちて おほほしく 照れる月夜の
見れば悲しさ
                   大伴坂上郎女

(ぬばたまの よぎりのたちて おほほしく てれる
 つくよの みればかなしさ)

意味・・夜霧がたちこめておぼろに照っている月夜の光景
    を見ると、何ともうら悲しくてならない。

    心の晴れない状態を詠んでいますが、それがどん
    状態なのかは分からないが、次の歌が参考になり
    ます。
   「今は我は 死なむよ我が背 生けりとも 我による
    べしと 言うといはなくに」
             (万葉集・684 大伴坂上郎女)
   (もう私は死にます。あなた。このうえ生きていても、
    あなたの愛情は、今と同じように、私の方にはけっ
    して戻らないでしようから)

 注・・ぬばたまの=「夜」の枕詞。
    おほほし=「凡ぼ(おぼ)」を重ねた「おぼおほし」
            の約。ぼんやりしている、心が晴れない。

作者・・大伴坂上郎女=おおとものさかのうえのいらつめ。
    大伴旅人の異母妹。

出典・・万葉集・982。


************** 名歌鑑賞 ***************


今や夢 昔や夢と まよはれて いかに思へど 
うつつとぞなき
               建礼門院右京大夫

(いまやゆめ むかしやゆめと まよわれて いかに
 おもえど うつつとぞなき)

意味・・さびしい今の事が夢なのだろうか、それとも
    記憶に残っているあの華やかな昔の事が夢な
    のだろうか、と思わず迷う気持ちになって、
    どう思ってみても今のこの有様は現実とは感
    じられない。
 
    平家一門が滅び、右京大夫が都落ち以前に仕
    えていた建礼門院だけが壇ノ浦で身を投げた
    が助けられた。その後出家して今は大原の寂
    光院にいる。右京大夫は山道を分け入って寂
    光院を訪ね、瘦せ衰え変わり果てた建礼門院
    に対面した。昔は華やかな衣装を着けていた
    のだが今は粗末な尼の姿であった。この時に
    詠んだ歌です。

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうき
    ょうのだいぶ。1157頃~1227頃。高倉天皇の
    中宮平徳子(建礼門院)に仕える。

出典・・右京大夫集。


***************** 名歌鑑賞 ****************


棕梠の葉の 菜の花の麦の ゆれ光り 揺れひかり 永き
ひと日なりけり
                  若山牧水

(しゅろのはの なのはなのむぎの ゆれひかり ゆれひかり
 ながき ひとひなりけり)

意味・・作者は家にこもって、一人で静かに原稿書きか何か
    をしている。もう春もかなり深い。すぐ窓の先には
    いかにも南国的な感じの棕梠の木が立っていて、そ
    の向こうは菜の花畑、そしてその向こうには青麦畑
    が続いている。風というほどの風もないけれど、そ
    れでもその棕梠の葉が明るい日差しの中に時おり揺
    らいできらりきらりと光り、そうかと思えば今度は
    黄金色に輝く菜の花畑が静かに揺れて光り、もうか
    なり伸びた青麦も時おり風に揺れて輝く。仕事を続
    けながらも時おり顔をあげて窓さきを眺めるたびに
    その同じような風景が目に入る。ああ本当に永い春
    の一日だなあ。

    のどかな春の田園の情景です。

 注・・棕梠のはの=「棕梠の葉が」の意。同じく「菜の花
     が」、「麦が」の意。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。早稲田
    大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛す。

出典・・歌集「砂丘」。


***************** 名歌鑑賞 ***************


かんがえて 飲みはじめたる 一合の 二合の酒の
夏のゆふぐれ
                  若山牧水

(かんがえて のみはじめたる いちごうの にごうの
 さけの なつのゆうぐれ)

意味・・よそうか、飲もうか、そう考えながらにいつか
    取り出された徳利が一本になり二本になってゆ
    く。静かな夏の夕暮れの一時である。
    
作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
      早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛す。

出典・・歌集「死か芸術か」。

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