名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年06月


************** 名歌鑑賞 **************


古の 人に我れあれや 楽浪の 古き都を 
見れば悲しき
               高市黒人

(いにしえの ひとにわれあれや ささなみの ふるき
 みやこを みればかなしき)

詞書・・近江の古き都を感傷(かな)しびて作る歌。

意味・・私は昔の人なのだろうか。そうではないはず
    なのに、大津の宮の廃墟を見ると、この都の
    栄えた頃の人であるかのように哀しいことだ。

    古き都は大津の宮。667年天智天皇は近江の
    大津に遷都したがその後672年の壬申の乱で
    敗れ天武天皇が飛鳥に都を移すまでの5年間
    の都であった。その後廃墟となった。

 注・・楽浪=琵琶湖の中南部沿岸の古名。

作者・・高市黒人=たけちのくろひと。伝未詳。

出典・・万葉集・32。


**************** 名歌鑑賞 ***************


身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし
大和魂
                   吉田松陰

(みはたとい むさしののべに くちぬとも とどめ
 おかまし やまとだましい)

意味・・身はたとえ、武蔵の野辺で朽ち果てようが、
    大和魂だけは朽ちさせることなく、留め置い
    ておこう。

    正しいと信じた事は、死を覚悟してでも断固
    としてやらずにはおれない。これが日本人の
    魂であり、この意志と覚悟を忘れずに持ち続
    けよう。

    どのような困難が待ち受けていても、成し遂
    げる気迫。周りから何と言われようが、やる
    と決めたらやる。阿保になってこそ志が成就
    し誠意が天に通じる。

 注・・大和魂=日本固有の気概のある精神。困難が
     待ち受けていても成し遂げる心意気。
     明治になって、国家への犠牲精神とともに
     他国への排外的・拡張的な姿勢を含んだ語
     として用いられ、昭和の初期より軍国主義
     的な色彩を強く帯び、現状を打破し突撃精
     神を鼓舞する意味で使われた。

作者・・吉田松陰=よしだしょういん。1830~1859。29
     歳。幕末の志士、思想家。

出典・・留魂録。


***************** 名歌鑑賞 ***************


たのしみは 門売りありく 魚買ひて 烹る鍋の香を
鼻に嗅ぐ時
                  橘曙覧

(たのしみは かどうりあるく うおかいて にるなべの
 かを はなにかぐとき)

意味・・私の楽しみは、通りを売り歩いている魚屋から
    魚を買って、それを鍋で煮るうまそうな匂いを
    鼻に嗅いでいる時です。

    現在は美味い物が食べたい時にいつでも食べら
    れるので、食べる楽しみが少なくなった。楽し
    みが少なくなるのは幸せな事なのだろうか、不
    幸なことなのだろうか。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。早く父
    母に死に分かれ、家業を異母弟に譲り隠棲。福
    井藩の重臣と親交。

出典・・グラフ社「独楽吟」。


***************** 名歌鑑賞 *****************


ふるてらの はしらにのこる たびびとの なをよみゆけど
しるひともなし
                    会津八一

(古寺の 柱に残る 旅人の 名を読みゆけど 知る人もなし)

意味・・古寺の柱に落書きされた旅人の名を読んでいったが、
    一人も知る人はいない。

    現在でも、大きな灌木に名前が彫られている光景が
    見られます。もう来る事はないだろうが来た記念に
    と名を刻む。再び来て見る事が出来たら今を懐かし
    むだろうと。

作者・・会津八一=あいづやいち。1881~1956。早大卒。早
    大教授。古代美術研究家。
    
出典・・吉野秀雄著「鹿鳴集歌解」。


**************** 名歌鑑賞 *****************


海士はさしも 思ひいれずや 明けなむも をしまが磯に
すめる月かげ
                                                 後西天皇

(あまはさしも おもいいれずや あけなんも おしまが
 いそに すめるつきかげ)

意味・・漁師はそれほど深く心に留めていないのか。夜が
    明けようとするのが何とも惜しい。雄島が磯に澄
    んだ光をなげかけている美しい月は。

    風流を好む人は名月を長く見たいと思うものだが、
    風流のない人は、いくら名月であっても心には留
    めないものだ。

 注・・海士=漁師。
    さしも=それほどは。そんなにも。

作者・・後西天皇=ごさいてんのう。1637~1685

出典・・万治御点(小学館「近世和歌集」)

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