名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年07月


*************** 名歌鑑賞 *****************


朽ちゆくも なにかおしまむ うき世には かへらぬみちの
谷のしばはし
                    萩原宗固

(くちゆくも なにかおしまん うきよには かえらぬ
 みちの たにのしばみち)

意味・・朽ちてゆくのもどうして惜しむ必要があろうか。
    俗世には戻らないと決心してたどって来た道の
    通る谷の芝橋は。

    乗りかかった船です。乗って漕ぎ出した船から
    は降りることが出来ないことから、一旦手をつ
    けてやり出した以上は、途中でやめたり、手を
    引いたり出来ないということで、決心の気持ち
    を詠んでいます。

作者・・萩原宗固=はぎわらそうこ。1703~1784。幕府
    の与力。冷泉為村に師事。

出典・・小学館「近世和歌集」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


山里に 独り眺めて 思ふかな 世に住む人の 
心強さを           
               慈円

(やまざとに ひとりながめて おもうかな よにすむ
 ひとの こころづよさを)

意味・・山里で、一人しみじみと見入って思うことだ。
    辛い世を嫌わないで住んでいる人の心強さを。

    逃げ腰ではなく頑張って明るく生きている世
    の姿を見ています。

 注・・眺めて=物思いに沈みながらぼんやり見入る。
    世=憂き世、辛い世。
    心強さ=辛い世を嫌わないで、逃れようとも
     思わない心の強さ。

作者・・慈円=じえん。1225年没、71歳。大僧正。
    新古今時代歌壇の指導者の一人。

出典・・新古今和歌集・1658。


************** 名歌鑑賞 ****************


眠くなりて ねむりし昼の しばしだに 命やすしと 
せめて思ふよ
                   大井広

(ねむくなりて ねむりしひるの しばしだに いのち
 やすしと せめておもうよ)

意味・・眠いままにしばらく昼寝をし、目覚めた思いは、
    このしばしの時間は、哀しみを忘れて、我が命
    に安らぎのあった時だと思う。
 
    嫌な事があったのだろうが、自然の要求に従
    って素直に眠った昼寝が、気持ち良い目覚め
    となり嫌な事も忘れて安らぎを感じています。

 注・・命やすし=いくら思い悩んでも解決出来ない
     ような問題を持っていて、昼寝をしたらそ
     の心地よさが、嫌な事を忘れさせてくれた
     ような状態。

作者・・大井広=おおいひろえ。1893~1943。京大文
    学部卒。立命館大教授。太田水穂に師事。

出典・・歌集「きさらぎ」(東京堂出版「現代短歌鑑
    賞事典」)

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をりをりの これや限りも いく思ひ そのあはれをば
知る人もなし
                  京極為兼

(おりおりの これやかぎりの いくおもい そのあわれ
 をば しるひともなし)

意味・・逢ったその折にこれが最後かと何度も思った。
    その切ない気持ちは二人以外に誰も知らない
    ことだ。

    なんとか逢ってくれたが、これが最後でもう
    逢えないと思うと切ない。そんな切なさを幾
    たび味わったことか。

    逢えないのは周囲の反対のためか、それとも
    相手の愛情が薄れたためなのか。

作者・・京極為兼=きょうごくためかね。1254~1332。
    正二位権大納言。玉葉和歌集の撰者。

出典・・玉葉和歌集・1675。


**************** 名歌鑑賞 ****************


恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ
思ひそめしか
                   壬生忠見

(こいすちょう わがなはまだき たちにけり ひとしれず
 こそ おもいそめしか)

意味・・恋をしているという私の噂が早くもたってしまった
    ものだ。誰にも知られないように、心ひそかに思い
    始めていたのに。

 注・・名=評判、うわさ。
    まだき=早くも、もう。

作者・・壬生忠見=みぶのただみ。生没年未詳。壬生忠岑の子。

出典・・拾遺和歌集・621、百人一首・41。


**************** 名歌鑑賞 ***************


数ならで 年経ぬる身は 今さらに 世を憂しとだに
思はざりけり
                 俊恵法師

(かずならで としへぬるみは いまさらに よを
 うしとだに おもわざりけり)

意味・・物の数にも入らずに何年も経た身にとっては、
    今更世を辛いところだなどとさえ思わないこ
    とです。

    不遇慣れした身の述懐です。不条理な事を言
    われても、「数ならでの身」なので仕方がな
    いと耐えている姿です。

 注・・数ならで=不遇な状態のままで。取るに足り
     ない。

作者・・俊恵法師=しゆんえほうし。1113生まれ。没
    年未詳。東大時の僧。

出典・・千載和歌集・1079。


**************** 名歌鑑賞 ****************


曇り深き 宗谷のせとの 朝明けを 我が乗れる船
ただ一つなり
                 石榑千亦

(くもりふかき そうやのせとの あさあけを わが
 のれるふね ただひとつなり)

意味・・曇りの深い宗谷海峡の明け方、海上に見えるもの
    といえば、自分が乗っている船がただ一つのみで
    ある。

    海峡といっても大きな海のことなので、稚内を出
    航して一時間もすれば陸地の影は見えなくなる。
    見えるのは水平線と空と雲に海原。この何一つも
    ない光景に感動して詠んでいます。

 注・・宗谷のせと=北海道と樺太の間の宗谷海峡。

作者・・石榑千亦=いしぐれちまた。1869~1942。香川
            県琴平明道高校卒。

出典・・歌集「鴎」(東京堂出版「現代短歌鑑賞事典」)


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今もかも 迫戸の波にや 船はのりし さかづきゆれて
酒のこぼれる
                  石榑千亦

(いまもかも せとのなみにや ふねはのりし さかずき
 ゆれて さけのこぼれる)

意味・・潮汐の干満によって生じる激しい潮流がある。
    今まさしく、瀬戸の激しい波に乗ったのであ
    ろう。手に持つ盃が揺れて、酒が膝の上にこ
    ぼれてしまった。

    激しい潮の音が聞かれ、また揺れる船の中で
    悠然と盃を傾ける作者の丈夫ぶりが感じられ
    ます。
 注・・迫戸(せと)=瀬戸。狭い海峡。
    にや=断定の助動詞「なり」の連用形「に」
     と副助詞の「や」。・・であろうか。

作者・・石榑千亦=いしぐれちまた。1869~1942。香
    川県琴平明道学校卒。

出典・・歌集「潮鳴」(東京堂出版「現代短歌鑑賞事典」)


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いかで我 ひまゆく駒を 引きとめて むかしに帰る
道をたづねむ
                  二条院参川内侍

(いかでわれ ひまゆくこまを ひきとめて むかしに
 かえる みちをたずねん)

意味・・なんとかして私は、速やかに過ぎ去る馬を引き
    止めて、昔に戻る道を尋ねて見たい。

    速やかに過ぎる時を止めて、昔に帰ってみたい
    と、老年の述懐です。
    
 注・・いかで=なんとかして。
    ひまゆく駒=時間の速やかに過ぎる喩。壁の隙
     間にみえる馬は忽ちに過ぎ去る意による。
    道をたづねむ=引き留めた馬にまかせて道を尋
     ねようの意。馬はどんな道も迷わずに進むと
     考えられていた。

作者・・二条院参川内侍=にじよういんのみかわのないじ。
    生没年未詳。二条院に仕えた女房。

出典・・千載和歌集・1087。


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わが世をば 今日か明日かと 待つかひの 涙の滝と
いづれ高けむ
                    在原行平

(わがよをば きょうかあすかと まつかいの なみだの
 たきと いずれたかけん)

詞書・・布引の滝を見に行って。

意味・・私の出世の時を、今日か明日かと待っていても、
    そのかいがないので流す涙の滝と、この滝と、
    どちらが高いであろうか。

    布引の滝を見て、栄進の道の開けない悲しみの
    涙に明け暮れる身が思われた作。

 注・・布引の滝=神戸市葺合区布引町の山中のある滝。
    わが世=自分の出世の時。
    かひの涙=「かひ」に「甲斐」と「峡」を掛け、
     涙の「なみ」に「無み」を掛ける。
    高けむ=「高からん」と同じ。

作者・・在原行平=ありわらゆきひら。817~893。正三
    位中納言。業平の兄。

出典・・新古今和歌集・1649、伊勢物語87段。

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