名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年07月


**************** 名歌鑑賞 ***************


数ならで 年経ぬる身は 今さらに 世を憂しとだに
思はざりけり
                 俊恵法師

(かずならで としへぬるみは いまさらに よを
 うしとだに おもわざりけり)

意味・・物の数にも入らずに何年も経た身にとっては、
    今更世を辛いところだなどとさえ思わないこ
    とです。

    不遇慣れした身の述懐です。不条理な事を言
    われても、「数ならでの身」なので仕方がな
    いと耐えている姿です。

 注・・数ならで=不遇な状態のままで。取るに足り
     ない。

作者・・俊恵法師=しゆんえほうし。1113生まれ。没
    年未詳。東大時の僧。

出典・・千載和歌集・1079。


**************** 名歌鑑賞 ****************


曇り深き 宗谷のせとの 朝明けを 我が乗れる船
ただ一つなり
                 石榑千亦

(くもりふかき そうやのせとの あさあけを わが
 のれるふね ただひとつなり)

意味・・曇りの深い宗谷海峡の明け方、海上に見えるもの
    といえば、自分が乗っている船がただ一つのみで
    ある。

    海峡といっても大きな海のことなので、稚内を出
    航して一時間もすれば陸地の影は見えなくなる。
    見えるのは水平線と空と雲に海原。この何一つも
    ない光景に感動して詠んでいます。

 注・・宗谷のせと=北海道と樺太の間の宗谷海峡。

作者・・石榑千亦=いしぐれちまた。1869~1942。香川
            県琴平明道高校卒。

出典・・歌集「鴎」(東京堂出版「現代短歌鑑賞事典」)


**************** 名歌鑑賞 ***************


今もかも 迫戸の波にや 船はのりし さかづきゆれて
酒のこぼれる
                  石榑千亦

(いまもかも せとのなみにや ふねはのりし さかずき
 ゆれて さけのこぼれる)

意味・・潮汐の干満によって生じる激しい潮流がある。
    今まさしく、瀬戸の激しい波に乗ったのであ
    ろう。手に持つ盃が揺れて、酒が膝の上にこ
    ぼれてしまった。

    激しい潮の音が聞かれ、また揺れる船の中で
    悠然と盃を傾ける作者の丈夫ぶりが感じられ
    ます。
 注・・迫戸(せと)=瀬戸。狭い海峡。
    にや=断定の助動詞「なり」の連用形「に」
     と副助詞の「や」。・・であろうか。

作者・・石榑千亦=いしぐれちまた。1869~1942。香
    川県琴平明道学校卒。

出典・・歌集「潮鳴」(東京堂出版「現代短歌鑑賞事典」)


***************** 名歌鑑賞 ****************


いかで我 ひまゆく駒を 引きとめて むかしに帰る
道をたづねむ
                  二条院参川内侍

(いかでわれ ひまゆくこまを ひきとめて むかしに
 かえる みちをたずねん)

意味・・なんとかして私は、速やかに過ぎ去る馬を引き
    止めて、昔に戻る道を尋ねて見たい。

    速やかに過ぎる時を止めて、昔に帰ってみたい
    と、老年の述懐です。
    
 注・・いかで=なんとかして。
    ひまゆく駒=時間の速やかに過ぎる喩。壁の隙
     間にみえる馬は忽ちに過ぎ去る意による。
    道をたづねむ=引き留めた馬にまかせて道を尋
     ねようの意。馬はどんな道も迷わずに進むと
     考えられていた。

作者・・二条院参川内侍=にじよういんのみかわのないじ。
    生没年未詳。二条院に仕えた女房。

出典・・千載和歌集・1087。


***************** 名歌鑑賞 ***************


わが世をば 今日か明日かと 待つかひの 涙の滝と
いづれ高けむ
                    在原行平

(わがよをば きょうかあすかと まつかいの なみだの
 たきと いずれたかけん)

詞書・・布引の滝を見に行って。

意味・・私の出世の時を、今日か明日かと待っていても、
    そのかいがないので流す涙の滝と、この滝と、
    どちらが高いであろうか。

    布引の滝を見て、栄進の道の開けない悲しみの
    涙に明け暮れる身が思われた作。

 注・・布引の滝=神戸市葺合区布引町の山中のある滝。
    わが世=自分の出世の時。
    かひの涙=「かひ」に「甲斐」と「峡」を掛け、
     涙の「なみ」に「無み」を掛ける。
    高けむ=「高からん」と同じ。

作者・・在原行平=ありわらゆきひら。817~893。正三
    位中納言。業平の兄。

出典・・新古今和歌集・1649、伊勢物語87段。

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