名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年10月


**************** 名歌鑑賞 ****************


壁に書き 襖に書きし 幼児の 汽車の落書き
せんすべのなき
               内田守人
 
(かべにかき ふすまにかきし おさなごの きしゃの
 らくがき せんすべのなき)

意味・・幼児が壁や襖に落書きを書いて無邪気に遊んで
    いる。その中に汽車の落書きもある。汽車に乗
    れる事に憧れているのだろうが、病気が治って
    この療養所から帰る事がもう出来ないのに。

    昭和10年頃に癩病を患った幼児の治療にあた
    っていた医師が詠んだ歌です。当時は癩病は不
    治の病であり、療養所に入ると一生出る事が出
    来ませんでした。

 注・・せんすべのなき=する方法がない。

作者・・内田守人=うちだもりと。1900~1982。長島
    愛生学園の癩病の医師。癩患者の明石海人を歌
    人に育てる。

出典・・新万葉集・巻一。


*************** 名歌鑑賞 ****************


年月は 昔にあらず 成りゆけど 恋しきことは
変わらざりけり
                紀貫之

(としつきは むかしにあらず なりゆけど こいしき
 ことは かわらざりけり)

意味・・年月は経過して、物事は変化して昔のようでは
    なくなって行くが、昔を恋しく思う心だけは昔
    と変わらない事だ。

作者・・紀貫之=きのつらゆき。872頃~945頃。従五位・
    土佐守。古今集の撰者。古今集の仮名序を執筆。

出典・・拾遺和歌集・471


**************** 名歌鑑賞 ****************


忘るなよ ほどは雲井に 成りぬとも 空行く月の
廻りあふまで
                  詠み人知らず

(わするるなよ ほどはくもいに なりぬとも そらゆく
 つきの めぐりあうまで)

意味・・私の事を忘れないでくれ。我々二人の間は、大空
    遥か遠くに隔たっても、空を行く月が巡るように
    また再びめぐり逢うであろうから。

    駿河守として赴任することになり、恋人と別れる
    際に贈った歌です。

 注・・ほど=程。間、間柄。
    雲井=空、遠い所。
    廻りあふ=「再会する」と「月の運行する」の意
     を掛ける。

出典・・拾遺和歌集・470。


*************** 名歌鑑賞 ****************


大工町 寺町米町 仏町 老母買う町
あらずやつばめよ
            寺山修司

(だいくまち てらまちこめまち ほとけまち ろうぼ
 かうまち あらずやつばめよ)

意味・・大工町があり、寺町があり、米町があり、仏町
    があり、其の他いっぱい町がある中で、私の老
    いた貧しい母を買ってくれる町はないだろうか。
    つばめさんよ。

    前世代の名称を引きずっている町の名(大工町・
    寺町・米町・仏町)を平面に並べ、最後に架空
    の町(老母買う町)を述べて地獄絵を描き、年老
    いた母の介護をする大変さを詠んでいます。

    介護施設のない時代は、老母を介護するために
    会社を辞めて世話をする事もあり、当人にとっ
    ては地獄を味わう苦しさです。

    老母を買う町があれば売ろうという地獄を描い
    た歌。

 注・・大工町、寺町、大工町、米町、仏町=これらの
     名のついた町は全国にいくつかあります。
     茨城県水戸市大工町、京都市寺町、北九州小
     倉米町、石川県白山市法仏町など。

作者・・寺山修司=てらやましゅうじ。1935~1983。
    早稲田大学中退。 
  
出典・・歌集「田園に死す」。


****************** 名歌鑑賞 ****************


磯の上に 生ふる馬酔木を 手折らめど 見すべき君が
在りと言はなくに
                     大伯皇女
               
(いそのうえに おうるあしびを たおらめど みすべき
 きみが ありといわなくに)

意味・・流れのそばの岩のほとりに生えている美しいこの
    馬酔木の花を手折ろうとして見るけれど、その花
    を見せたい弟は最早この世に生きていない。
    
    詞書きによると、大津皇子を葛城の二上山に葬っ
    た時、妹の大伯皇女が哀傷して詠んだ歌です。

 注・・磯=池や川などの浪の打ち際。
    馬酔木(あしび)=ツツジ科の常緑低木。すずらん
     に似た小花を房状につける。牛・馬がその葉を
     食べると中毒し酔ったようになる。
    在りと言はなくに=生きていると言ってくれる者
     がいない。
    葛城の二上山=奈良県北葛城郡当麻(たいま)町の
     西の山。
    大津皇子=686年に草壁皇太子への反逆を企て、
     それが発覚して殺された。仕組まれた罠とも
     いう。
作者・・大伯皇女=おおくのひめみこ。674年14歳で伊勢
    の斎宮になる。大津皇子の姉。

出典・・万葉集・166。


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