名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年11月



*************** 名歌鑑賞 *****************


筑波嶺の をてもこのもに 守部据え 母い守れども
魂ぞ合ひにける
                  東歌

(つくばねの おてもこのもに もりべすえ ははいもれ
 ども たまぞあいにける)

意味・・筑波山のあちらこちらに番人を置いて山を守る
    ように、母は私を守っているけれど、私たち二
    人の魂はしっかり結ばれている。

 注・・をてもこのも=彼面此面。あちらの面とこちら
     の面。
    守部=守る人、山の番人。
    い=動詞の上について強調する語。

出典・・万葉集・3393。


************** 名歌鑑賞 ****************


かぎりなく 老いぬる後の 一年は 身につもるとも
よしや嘆かじ
                 慶運

(かぎりなく おいぬるのちの ひととせは みに
 つもるとも よしやなげかじ)

意味・・限りなく年老いた後の一年は、年が身に積も
    っても、ままよ、嘆くまい。

    普通は年老いるのはいやなのだが、ひどく年
    老いた後は、一年くらい年取っても余り関係
    がない、という気持ち。

 注・・よしや=不満をやむをえないものとして認め
     て決意する意。ままよ、なるようになれ。

作者・・慶運=けいうん。生没年未詳。南北朝期の歌
    人。浄弁・頓阿・兼好らとともに和歌四天王
    と称せられた。

出典・・新続古今和歌集。


*************** 名歌鑑賞 *****************


暮れぬまの 身をば思はで 人の世の あはれを知るぞ
かつははかなき
                  紫式部

(くれぬまの みをばおもわで ひとのよの あわれを
 しるぞ かつははかなき)

詞書・・亡くなった人の縁者に贈った歌。

意味・・今日の暮れない間の命で、明日の事が分から
    ない我が身は思わないで、はかない人の世の
    哀れさを知るというのは、一方で、またはか
    ない事です。

    本歌は紀貫之が紀友則が死んだ時に詠んだ歌
    です。
    明日知らぬ わが身と思へど 暮れぬ間の
    今日こそ悲しけれ     (古今和歌集)

    (明日はどうなるかも分からない、はかない
    我が身であるとは思っているけれども、とに
    かく今日のうちは、亡くなった友則の事が悲
    しいことだ。)

 注・・暮れぬ間の身=今日の暮れない間の命で、明
     日の事は分からない身。
    かつは=一方で、また。

作者・・紫式部=むらさきしきぶ。970頃~1016頃。
    源氏物語の作者。

出典・・新古今和歌集・856。


*************** 名歌鑑賞 ****************


あしびきの 山下光る 黄葉の 散りの乱ひは
今日にもあるかも
               阿部継麻呂

(あしびきの やましたひかる もみじばの ちりの
 まがいは きょうにもあるかも)

詞書・・竹敷の浦という入り海で、順風を待って船泊り
    している時、遣新羅(けんしらぎ)大使の一行が
    思い思いに旅の心を詠んだ歌。

意味・・山の上から山の裾まで照り輝くばかりの紅葉。
    その美しい葉が入り乱れて散る秋の真っ盛りは、
    まさに今日のこの日なのだ。

    今この瞬間、自分は真盛りの秋の中に身を置い
    ているという思い。そして、その盛りの秋こそ、
    妻が「この紅葉の季節にはお帰りになるでしょ
    うね」と約束して旅立ったのに・・。まだ新羅
    にも到着していないのに・・もう秋だ。

 注・・あしびきの=「山」にかかる枕詞。
    山下=山の麓。
    竹敷の浦=対馬の浅茅湾南部の竹敷の入海。
    新羅=韓国東南部にあった国。
    遣新羅(けんしらぎ)=736年6月に新羅に出発。
     秋には帰り着く予定であったが、疫病など
     が発生して、翌年3月に帰京した。

作者・・阿部継麻呂=あべのつぎまろ。737年没。736
    年遣新羅国の大使、途中対馬で病没。

出典・・万葉集・3700。


*************** 名歌鑑賞 ****************


飲む湯にも 焚き火のけむり 匂ひたる 山家の冬の
夕餉なりけり
                   若山牧水

(のむゆにも たきびのけむり においたる さんがの
 ふゆの ゆうげなりけり)

意味・・山小屋の囲炉裏には、自在鍵に吊るされた大
    鉄瓶で湯が沸かされている。暖を取るために
    時々焚き火が加えられ煙が上がっている。今、
    暖かい湯を飲み夕食をしている。

    山小屋で知らない人達と囲炉裏を囲んでいる
    風景を思わせます。知らない仲でも、ランプ
    の灯のもと話がはずんで旅愁を楽しんでいる
    姿です。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
      早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛
    す。

出典・・歌集「渓谷集」(大悟法利雄著「若山牧水の
    秀歌」)

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