名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2017年12月


*************** 名歌鑑賞 ***************


大晦日 定めなき世の 定めかな
                    井原西鶴

(おおみそか さだめなきよの さだめかな)

意味・・この世ははかなく定めのないものであるが、
    借金取りに追われる大晦日だけは毎年きちん
    とやって来る。これこそ定めのない世の定め
    というべきであろう。

    当時の大晦日は一年の決算期。借金の支払い
    をしなければならない定めがあった。この日
    に支払いが出来そうにない者はなんとか取り
    立てから逃がれようとしたものである。

    自分の思った通りにいかず、本当にいろいろ
    な事があった一年でしたが、ともかくも平凡
    ながら大晦日を迎える事が出来ました。来年
    もよろしくお願い致します。

 注・・定めなき世=無常な世の中。常に変化する世
     の中であり、明日はどうなるか決まってい
     ないこと。
     
 作者・・井原西鶴=いはらさいかく。1642~1693。
     小説・世間胸算用ゃ好色一代男が有名。

出典・・小学館「近世俳句俳文集」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


  その昔
  小学校の柾屋根に我が投げし鞠
  いかにかなりけむ
                           石川啄木

(そのむかし しょうがっこうの まさやねに わがなげし
 まり いかになりけん)

意味・・その昔のこと、小学生の私は小学校の柾屋根に
    向かって鞠を投げては、落ちてくるのを下で受
    け取って遊んでいた。それがどうしたわけか、
    下に落ちて来ず、そのままになってしまった事
    があった。あの鞠はその後どうなってしまった
    のだろうか。

    まりを投げては下で待っていた無心な子供の頃
    の気持ちがよみがえり、その頃を懐かしんでい
    ます。

 注・・柾屋根=木の薄板でふいた屋根。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。26
     歳。盛岡尋常中学校中退。

出典・・歌集「一握の砂」。


************** 名歌鑑賞 *************


霰ふる 音にも世にも 聾傘
                 長谷川馬光

(あられふる おとにもよにも つんぼがさ)

意味・・霰が降るなかに傘をさしてゆくと、傘に
    ぱらぱらと音がうるさいほどあるはずだ
    が、年をとって耳が遠くなったので霰の
    音もそれほどには聞こえず、そのように、
    公の勤めをやめた自分は、世の中の動き
    にも無頓着に、遁世した者のような暮ら
    し方をしている。

 注・・世にも=音が聞こえないように、世間の
     ことにもうとくなることをいう。
    聾傘=傘に降る霰の音が聞こえず、また
     世間のことにも関心をもたないこと。
    遁世(とんせい)=世を逃れて隠れること。
     隠居すること。

作者・・長谷川馬光=はせがわばこう。1685~
            1751。山口素堂門下。

出典・・小学館「近世俳句俳文集」。


*************** 名歌鑑賞 **************


松杉の 上野を出れば 師走かな
                  長谷川馬光

(まつすぎの うえのをでれば しわすかな)

意味・・常盤木である松や杉がこんもり茂っていて、
    季節の移り変りもあまり感じられない上野
    の山を出て、町へおりて行くと、町は師走
    で、上野の山とはうって変わったあわただ
    しい人々の生活が見られることだ。
    
 注・・松杉の=松や杉の木の茂っている。
    上野=江戸の北東部の上野の山(今の上野
     公園あたり)。
    師走かな=町は歳末で、あわただしい気配
     に満ちている。

作者・・長谷川馬光=はせがわばこう。1685~1751。
    山口素堂門下。

出典・・小学館「近世俳句俳文集」。


******************* 名歌鑑賞 *********************


行く年の をしくもあるか ます鏡 みる影さへに 
くれぬと思へば
                 紀貫之

(ゆくとしの おしくもあるか ますかがみ みるかげさえに
 くれぬとおもえば)

意味・・暮れ行く年というものは実に名残惜しく思えてなりません。
    なぜかといいますと、朝夕手に取っている明鏡に映る私の
     姿までがひとしお暗(く)れる・暮れるように思われますので。

    鏡を見て、年々老いて人生の暮れに近づいて行く自分の姿の
    自覚とその寂しさを年の瀬の名残惜しさとに結びつけたもの
    です。

 注・・行く年=去って行く年。
    ます鏡=真澄の鏡、よく澄んでいる鏡。
    影=水や鏡に映る姿。
    くれぬ=「暮れぬ」と「暗れぬ」を掛ける。「暗れぬ」は
      姿が暗くなる・醜くなるの意。

作者・・紀貫之=きのつらゆき。868~945。土佐守。古今和歌集の
    撰者。

出典・・古今和歌集・342。


*************** 名歌鑑賞 ***************


うれしさを つつみかねたる 袂より かなしき露の
などこぼるらむ
                  香川景樹

(うれしさを つつみかねたる たもとより かなしき
 つゆの などかこぼるらん)

意味・・嬉しさが多くて、包むにも包みきれない袂から、
    悲しい涙がなんだってこぼれるのであろうか。

    愛している娘を嫁にやった際の親心です。理屈
    では嬉しがるべきであるが、情としては寂しく
    悲しい気持ちです。

作者・・香川景樹=かがわかげき。1768~1843。

出典・・河出書房・日本の古典「蕪村・良寛・一茶」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


うづみ火の 外に心は なかれども むかへば見ゆる
しら鳥の山
                 香川景樹

(うずみびの ほかにこころは なかれども むかえば
 みゆる しらとりのやま)

意味・・埋火にあたって暖を取っているというだけの
    心で、それ以外の心は持っていないけれども、
    しかし、目を他の方に向けると、向った為に
    見える白鳥の山である。

    今は埋火の与える暖が刺激となって、心は埋
    火と共にあるのであるが、目を他方に向ける
    と、向けた為に見えて来る物があり、その物
    を認めると、心はまたそちらに動くというの
    である。白鳥の山は白くなっている。山では
    もう雪が降ったのだなあ・・などと。

    禅の心を詠んでいると言われている。
    
 注・・うづめ火=火桶、火鉢、囲炉裏などに、灰で
     埋めた火で、ぬるい火の意。

作者・・香川景樹=かがわかげき。1758~1843。


*************** 名歌鑑賞 ***************


帰るべき みちしなければ これやこの 行くをかぎりの
あふさかの関
                   源具行

(かえるべき みちしなければ これやこの ゆくを
 かぎりの おうさかのせき)

意味・・帰るという事の出来る道がないので、この旅
    は、今行くのを最後とした逢坂の関になるの
    だ、哀れだなあ。

    1331年の元弘の乱で捕えられて護送されなが
    ら逢坂の関を越える時、死を覚悟して詠んだ
    歌です。
    蝉丸が「これやこの行くも帰るも別れては
    知るも知らぬも逢坂の関」と詠んでいるが、
    私が一度この関所を通り過ぎたならば、他
    の旅人と違って、再び帰って来れないと悲
    しさを詠んでいます。

 注・・みちし=道し。「し」は上接する語を強調
     する語。
            元弘の乱=1331年、後醍醐天皇を中心とし
     た倒幕計画が発覚し鎌倉幕府により厳し
     い追求が行われた。後醍醐天皇は壱岐へ
     流罪となり、腹心の具行も捕えられ護送
     の途中で斬られて死んだ。

作者・・源具行=みなもとのともゆき。1290~1332。
    従二位権中納言。元弘の乱の時、鎌倉幕府に
           よって斬首。

出典・・新葉和歌集・538

参考歌です。

盤代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば 
また還り見む
               有間皇子

(いわしろの はままつがえを ひきむすび まさきく
 あらば またかえりみむ)

意味・・盤代の浜松の枝を結んで「幸い」を祈って行く
    が、もし無事であった時には、再びこれを見よ
    う。

      有間の皇子は反逆を企て捕えられ、紀伊の地に
    連行され尋問のうえ処刑されたが、この道中で
    詠んだ歌です。
      松の枝を引き結ぶのは、旅路などの無事を
    祈るまじないです。

 注・・盤代=和歌山県日高郡岩代の海岸の地名
    真幸(まさき)く=無事で(命が)あったなら

出典・・万葉集・141。


*************** 名歌鑑賞 ****************


心こそ うたてにくけれ 染めざらば うつろうことも
惜しからましや
                  詠み人知らず

(こころこそ うたてにくけれ そめざらば うつろう
 ことも おしからましや)

意味・・ままならぬ心とは本当に憎いもの。愛するあの
    人の色で自分の心を染めさえしなければ、その
    色がさめたと言って哀しむこともないのに。

    心というものはまったく頭に来る。思い染めて
    いなければ、相手の気持ちが変わったとしも惜
    しい事があるだろうか。    

 注・・うたて=ますます、非常に。
    にくけれ
=気に入らない。
    うつろう=心変わりしてゆく。

出典・・古今和歌集・796。


**************** 名歌鑑賞 ******************


  己が名をほのかに呼びて
  涙せし
  十四の春にかへる術なし
                     石川啄木

(おのがなを ほのかによびて なみだせし じゅうよんの
 はるに かえるすべなし)

意味・・自分の名をかすかに呼んでみて涙を流した。そんな
    少年らしい自愛心を抱いていた自分が思い出される。
    が、あの十四歳の春に私は帰ろうにも帰るすべがな
    いのだ。

 注・・ほのかに=聞こえるか聞こえないかほどの、かすか
     な声で。
    涙せし=「涙ぐむ」ではない。ほんとうに涙を流し
     た意。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。26歳。
    盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻に師事するために
    上京。

出典・・歌集「煙」。

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