名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年01月


***************** 名歌鑑賞 *****************


ふところの日参帳や寒詣
                 村上鬼城

(ふところの にっさんちようや かんもうで)

意味・・自分で解決出来ない悩み事を神仏に助けてもうため、
    素肌に白装束の姿で裸足になって、夜分神社に参詣
    している。寒さを忍び苦難をおかし神仏に真心を捧
    げている。寒入りから寒明けの三十日間参詣すると
    願いが叶えられるという。今、日参帳を付けて参拝
    している。自分の願いを聞き届けて欲しい。

    解決出来ない悩み事をかかえており、神仏にすがる
    ほかない切実な願いを詠んでいます。

 注・・寒詣=寒の入りから寒明けまでの三十日間、夜分に
     神社や寺に参詣すること。寒入りは一月五日の小
     寒から立春の前日の寒明け、二月三日まで。昔は
     裸や素肌に白装束に裸足になってお参りしていた。
    日参帳=神社・仏閣に満願成就を願って、毎日参詣
     しその印に記帳してもらうこと。

作者・・村上鬼城=むらかみきじょう。1865~1938。耳疾
            病を患う。


**************** 名歌鑑賞 ****************


愛し妹を いづち行かめと 山菅の そがひに寝しく
今し悔しも
                 東歌

(かなしいもを いずちゆかめと やますげの そがいに
 ねしく いましくやしも)

意味・・いとしい妻よ。お前が俺を置いて、決してどこ
    へも行かないと思えばこそ、生きていた日には
    夫婦喧嘩なんかして、背中合わせに寝た日もあ
    った。そのことが、お前の亡きあと悔やまれて
    たまらない。

    挽歌です。愛し合う者どうしの間には、さまざ
    まな思いが通いあう。愛の歓びにわきたつ日も
    あれば、憎しみののしる日もあろう。でも、生
    きている日こそ大切。相手が亡き人となってか
    ら、ありしののことを、ああすればよかった、
    こうすればよかっと、深く後悔してももう取り
    返しつかない。そんな思いをこめています。

 注・・愛(かな)し=いとおしい。
              いづち行かめと=どこへにも行く事はあるまい
     とたかをくくって、の意。
    山菅の=「背向・そがい」にかかる枕詞。
    そがひ=背向。背面。背中合わせ。
    挽歌=死を悲しむ歌。

出典・・万葉集・3577。


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冴ゆる夜の 仮寝の夢に 聞こゆなり 明日の山路の
雪折れの声
                  大内政弘

(さゆるよの かりねのゆめに きこゆなり あすの
 やまじの ゆきおれのこえ)

意味・・冴え冴えとした夜、夢うつつで仮寝をしている
    と、明日超えて行く山路のあたりから雪の重み
    で木々の枝が折れる音が聞こえて来ることだ。

    冴える夜、夢であったのか、現実なのか、山の
    方からしんしんと降る雪の重みで木の折れる音
    が聞こえてきた、そして、それでなくとも辛い
    山路が雪でさらに辛くなる事を詠んでいます。

 注・・仮寝=熟睡することなく寝ること。もともと浅
     い眠りである上に冴え冴えした夜であるため
     により一層深く寝入る事が出来ないのである。

作者・・大内政弘=おおうちまさひろ。1446~1495。
    従四位左京大夫。

出典・・家集「拾塵集」(笠間書院「室町和歌への招待」)



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山陰の 岩もる清水 こほりいて をとせぬしもぞ 
冬をつげける
                頓阿法師

(やまかげの いわもるしみず こおりいて おとせぬ
 しもぞ ふゆをつげける)

意味・・山陰の岩間から音をたてて洩れていた清水が
    凍りついてしまった。そのさまは音をたてな
    いものの、冬の到来を告げている。

    音が無ければ告げられないはずだが、音が無
    くても冬を告げるという面白味を詠んでいま
    す。
    
 注・・しも=強調の助詞。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。二
            条為世門の和歌四天王。

出典・・「頓阿法師詠」(中世和歌集室町編・新日本
          古典文学体系)。


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憂き身には 頼まずながら さすがまた 筆の跡をば
見てぞ慰む
                   卿内侍

(うきみには たのまずながら さすがまた ふでの
 あとをば みてぞなぐさむ)

意味・・世のつらさを一身に負っている私は、恋する
    人の心など頼みにすることは出来ないが、し
    かしそうは言っても、かって優しい言葉を書
    き連ねてくれた手紙を広げて見ては心を慰め
    るのである。

    相手の男を信頼するに足りないものの、それ
    でもかって男から届けられた手紙を広げてし
    まう女心を詠んでいます。

 注・・憂き身=この世で報われることのない辛い身。
     人生一般における状態も言うし、恋の成就
     出来ない身を言う場合もある。ここでは恋
     歌としてとっている。
    さすがまた=そうはいってもまた。ここでは、
     信頼なんか置いていないもののそうはいっ
     てもまた、の意。
    筆の跡=筆で書かれた文字の跡であるが、手
     元に残された恋する人の手紙類。

作者・・卿内侍=きょうのないし。1483~1543。

出典・・卿内侍集(笠間書院「室町和歌への招待」)。


*************** 名歌鑑賞 ***************


草も木も 埋もれ果てて 炭竃の 煙ぞ青き
雪の山本
                徳大寺実淳

(くさもきも うずもれはてて すみがまの けむりぞ
 あおき ゆきのやまもと)

意味・・草も木も白い雪にすっかり埋もれてしまった
    中で、炭竃の煙が一筋山の麓に青く立ち昇っ
    ている。

    白い雪の中に一筋立ち昇る青い煙の光景は、
    静寂感の中に、人の営みの息づきが感じられ
    ます。

 注・・山本=山の麓。

作者・・徳大寺実淳=とくだいじさねあつ。1445~1533。
    従一位太政大臣。

出典・・家集実淳集(笠間書院「室町和歌の招待」)


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ちちのみの 父いまさずて 五十年に 妻あり子あり
その妻子あり
                  楫取魚彦

(ちちのみの ちちいまさずて いそとせに つまあり
 こあり そのつまこあり)

意味・・父がいらっしらなくなってから五十年、私
    にはご在世中にいなかった妻子ができ、子
    の妻子まで出来ました。

    父は若死にしたが、幸いに自分は妻子を持
    ち、その子も妻子を持って無事に暮らして
    いる、と感謝の気持ちを詠んでいます。

 注・・ちちのみの=「父」の枕詞。

作者・・楫取魚彦=かとりなびこ。1723~1783。
           本性伊能。千葉県楫取群佐原の人で楫取と
    称した。賀茂真淵に和歌を学ぶ。

出典・・楫取魚彦家集(窪田章一郎著和歌鑑賞辞典)。


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長松が親の名で来る御慶かな
                  志太野波

(ちょうまつが おやのなでくる ぎょけいかな)

意味・・このあいだまで「長松、長松」と呼ばれていた
    小僧が、年季も明けて独立し、親の名を継いで
    何屋何兵衛といったふうな名で年始の挨拶にや
    って来た。

    年齢もまだ若く、祝詞を述べる口上にも板につ
    かないぎこちなさがあろう。そのおかしみを詠
    んでいます。

 注・・長松=江戸時代に商家などの小僧の名として用
     いられた。
    御慶=新年を祝う挨拶の言葉。

作者・・志太野波=しだやば。1663~1740。越後屋(今
    の三越)の番頭。芭蕉に師事。

出典・・小学館「近世俳句俳文集」。


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奥山に紅葉を分けて鳴く蛍             
                  豊臣秀吉

(おくやまに もみじをわけて なくほたる)

意味・・奥山の紅葉を分けて行くと、蛍が鳴いて
    いるよ。

    秀吉、細川幽斎、連歌師の紹巴と頓知比べ
    の遊びをしている時の句です。さあ、この
    後に句を続けよと秀吉。
    紅葉の時期には蛍はいない、まして蛍が鳴
    くなんてあり得ない、と秀吉に文句を言え
    ば、それこそ首が飛んでしまう。
    この句の本歌は百人一首・古今集の中で、
    猿丸太夫の詠んだ歌、
    「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の声聞く時ぞ
    秋は悲しき」です。

    (人里離れた奥山で、散り敷いた紅葉を踏み
    分けて鳴いている鹿の声を聞く時こそ、いよ
    いよ秋は悲しいものと感じられる)

    知恵者も集まり考えて出来たのが、
    「しかとも見えてみねのともしび」
    句を続けると、
    「奥山に 紅葉を分けて 鳴く蛍 しかとも
    見えて みねのともしび」

    (紅葉した山に蛍が鳴いているように見える
    ものだ。灯の点っている峰の所で鳴く鹿は)

作者・・豊臣秀吉=とよとみひでよし。1537~1598。
    本能寺の変の後、明智光秀、柴田勝家を破り、
    徳川家康を臣従させて、全国を統一した。

出典・・「続近世奇人伝」。インターネット「秀吉と愉快
    な仲間」。


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恋人は 現身後生 よしあしは 分たず知らず 
君こそ頼め
               与謝野晶子 

(こいびとは げんしんごしょう よしあしは わかたず
 しらず きみこそたのめ)

意味・・恋人について、その現在の身が、その将来において
    素晴らしいものであるか、悪いものであるかは判断
    出来ないし、またそれを予知する事も出来ない。
    また、そのような事をしようとするような気持ちを
    抜きにして、私は、一途に君を愛し、頼りにして生
    きて生きたい。

    恋人の運命が悪くなって、自分も一緒に地獄に落ち
    て行くような事になったとしても、一切後悔をしな
    いという覚悟を詠んでいます。

 注・・後生=死後に生まれ変わって行く所、将来。

作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~1942。堺女学校
     卒。与謝野鉄幹と結婚。

出典・・新万葉集・巻九。

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