名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年02月


*************** 名歌鑑賞 ***************


年頃の 除目にもれて 老いしれし 博士が家の
鶯の声
                 服部躬治

(としごろの じもくにもれて おいしれし はくしが
 いえの うぐいすのこえ)

意味・・その年毎に行われる除目にも、この数年は
    洩れた。もうすっかり年をとった博士の、
    侘びしい住居にも、季節はやはりめぐって
    来て春になった。そして、美しい声で鶯の
    鳴く声がする。

    この歌は王朝時代を想定して詠んでいます。
    「除目」は王朝時代に、諸官職を任命する
    儀式で、秋には京官を任じ、春には地方官
    を任じた。博士は学者の事で、上の階級か
    ら、文章博士、明経博士、明法博士、書博
    士、算博士と多くの階級があった。
    除目に洩れ、不遇な老いぼれた博士とその
    侘び住居の姿。学者なので権門にも媚(こ)
    びず、ついに忘れられてしまって、年毎の
    除目に洩れていくその境遇に、作者は同情
    しいます。
    不遇の侘び住居にも、季節だけはめぐって
    きて鶯も鳴くという詩情を詠んでいますが
    作者の心境でもあります。

作者・・服部躬治=はっとりもとはる。1875~19
    25。落合直文の「浅香社」に参加。
    
出典・・歌集「迦具土・かぐつち」(永田義直編著「
    短歌鑑賞入門」)


*************** 名歌鑑賞 **************


熱燗の 夫にも捨てし 夢あらん
                   西村和子

(あつかんの つまにもすてし ゆめあらん)

意味・・晩酌をしながらくつろいでいる夫の横顔を
    見ていると、ふいにさまざまな思いが胸を
    よぎって来る。この人にも、実はもっと他
    に夢があったのではないだろうか、と思う。
    白髪も目立ち始め、よき父、良き夫でいて
    くれる彼だが、もしかすると家族のために
    秘めたまま捨てた夢があったのではないだ
    ろうか。

    横顔の中にあどけなさを見て、ふとそんな
    事を思ったのでしょう。ありがとう、とい
    う夫への感謝の思いが句の中に感じます。

作者・・西村和子=にしむらかずこ。1948~ 。慶
    應義塾大学卒。俳人。


**************** 名歌鑑賞 ****************


いかにあらむ 日の時にかも 声知らむ 人の膝の上
我が枕かむ
                   大伴旅人

(いかにあらん ひのときにかも こえしらん ひとの
 ひざのえ わがまくらかん)

詞書・・琴が娘子(おとめ)となって歌った歌。

意味・・どういう日のどんな時になったら、この声を聞き
    分けて下さる立派なお方の膝の上を、私は枕にす
    る事が出来るのでしょうか。

    旅人が藤原房前に桐製の琴を書状を添えて贈った
    時の歌です。
    書状です。
    この琴が娘子となって夢になって現れて言いまし
    た。
   「私は、遠い対馬の高山に根を下ろし、果てもない
    大空の美しい光に幹をさらしていました。長らく
    雲や霞に包まれて山川の陰に遊び暮らし、遥かに
    風や波を眺めて、物の役に立てるかどうかの状態
    でいました。たったひとつの心配は、天命の寿命
    を全うして、谷底深く朽ち果てる事でした。所が、
    幸いにも立派な工匠(たくみ)に出会い、細工され
    て小さな琴になりました。音質は荒く音量も乏し
    い事を顧みず、徳の高いお方のお側に置かれる事
    をずっと願っております」と。
    書状のなかに「雁木に出入りす」という言葉が入
    っています。荘子の言葉で、使い道のない大木は
    伐られずに天命である寿命を全う出来るが、役立
    つ木は伐られて天命を全う出来ない、という意味
    で、あなたはどちらの木を選びますか、と尋ねた
    歌となっています。

 注・・声知らむ=音を聞きわける。「知音・ちいん」の
     故事による。琴の名手伯牙がよく琴を弾き、鐘
     子期(しようしき)はよくその音を聞いたという。
     鐘子期が死に、伯牙は自分の琴の音をよく理解
     してくれる者がいなくなったと嘆き、琴の糸を
     切って二度と弾かなくなった。そこから、自分
     を知ってくれる人や、親友を知音というように
     なった。
    枕か=動詞「枕く」の未然形。枕にしょう。
    桐製の琴=膝に乗せて弾く六絃の日本琴。
    藤原房前=ふじわらのふささき。681~737。正
     三位太政大臣。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。大宰
    帥(そち)として九州に下向、その後従二位大納
    言に昇進。 
  
出典・・万葉集・810。


************** 名歌鑑賞 **************


雪催ふ琴になる木となれぬ木と
                 神尾久美子

(ゆきもよう ことになるきと なれぬきと)

意味・・今にも雪が降ってきそうな寂しい林を
    歩いててる。木々が目に入る。ふと思
    う。この中には琴の材料になる木とな
    れない木があると。

    どちらの木がいいのだろう。
    利用に適しない木は伐られないので天寿
    を全うする事が出来るが、人に役立つ木
    は伐られ早く寿命が尽きる。どちらの木
    が幸せなんだろう。
    寂寥(せきりよう)感に苛(さいな)まされ
    ながら、木の運命を考えさせられる。

    うだつの上がらない私だが、何が幸いす
    るのか分からない。それでくよくよしな
    いようにしよう。

作者・・神尾久美子=かみおくみこ。1923~ 。
    京都女子高卒。野見山朱鳥(あすか)に
    師事。

出典・・メールマガジン・黛じゅん「愛の歳時記」。


******************* 名歌鑑賞 *******************


馬鹿無力 病者述懐 わやく者 引っ込み思案
油断不根気
               細川幽斎

(ばかむりょく びょうじゃじゅつかい わやくもの ひっこみ
 じあん ゆだんぶこんき)

意味・・馬鹿な人、知識もなく金もなく指導力もない人、いつも
    病気をしている人、過去のことにいつまでも思い煩(わず
    ら)っている人、無理を重ねる人、積極的になれない人、
    気を引き締めていない人、根気のない人、これらの人達
    は物にならない者である。

    失敗しても躓(つまず)いても、その数は勲章だと思い、
    めけずに、たくましく生きる人は物になる。

 注・・わやく=無茶、無理。

作者・・細川幽斎=ほそかわゆうさい。1534~1610。戦国武将。

出典・・桑田忠親著「細川幽斎」。

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