名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年03月


***************** 名歌鑑賞 *****************


飛びあがり 宙にためらふ 雀の子 羽たたきて見居り 
その揺るる枝を
                 北原白秋

(とびあがり ちゅうにためらう すずめのこ はたたきて
 みおり そのゆるるえだを)

意味・・春、巣立ったばかりの雀の子には、見るもの触れる
    ものが何でも珍しい。枝を勢いよく飛び上がると、
    はばたきながら宙にとどまって、自分が止まってい
    たその枝が揺れるのを不思議そうに見ている。

    好奇心の強い子雀の様子を、温かい目で見つめてい
    ます。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅう。1885~1942。詩
    人。

出典・・インターネット「中学受験学習用資料め短歌」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


誰もみな 殿づくりして をさまれる 淀野のあやめ
刈りぞふかまし
                  後土御門天皇

(だれもみな とのずくりして おさまれる よどのの
 あやめ かりぞふかまし)

意味・・誰もが立派なお屋敷を造営して平穏無事な
    世になって、有名な淀野の菖蒲を刈って軒
    端に挿して飾れたらいいのに。

    民の生活の幸福を願うという、帝王の歌で
    す。即位後、すぐに応仁の乱となったので、
    このような平穏な光景ははかない望みにな
    った。

 注・・殿づくり=素晴らしい御殿を造営すること。
    淀野=山城国淀付近の野。景物は「菖蒲」。
    あやめ=菖蒲。端午の節句に菖蒲を葺(ふ)
     くことには、邪気を払い長寿を祈る願い
     が込められている。
    ふかまし=葺かまし。草木を軒端にさして
     飾りたいものだ。
    応仁の乱=1467年〜1477年に京都で起き
     た戦乱。室町幕府の足利義政の後継争い
     がきっかけで、各部族の対立になり、10
     年間の争いで京都は焼野原となった。

作者・・後土御門天皇=ごつちみかどてんのう。14
    42~1500。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。


****************** 名歌鑑賞 *****************


物草の太郎の上や揚げ雲雀
                    夏目漱石

(ものぐさの たろうのうえや あげひばり)

意味・・物臭太郎の私は、原っぱに寝転がって青い空を
    見ている。すると雲雀が楽しそうに上空に舞い
    上がっていく。幸せを感じる一時である。

    せちがらさを忘れて、こんな幸せがあれば、そ
    れだけでいい。物臭太郎になりたいものだ。

 注・・物草の太郎=「物臭の太郎の」当て字。無精な
     性質の人、めんどうがる人。
    揚げ雲雀=春の高空に垂直に舞い上がり、朗ら
     かにさえずる。

作者・・夏目漱石=なつめそうせき。1867~1916。小
            説家。

出典・・大高翔著「漱石さんの俳句」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


親は子を 育ててきたと 言うけれど 勝手に赤い 
畑のトマト
                  俵万智

(おやはこを そだててきたと ゆうけれど かってに
 あかい はたけのたトマト)

意味・・親としては愛情を精一杯注ぎ、期待をかけ、
    子育ての苦悶も乗り越えて育て上げてきた愛
    しい我が子であるが、そんな親の思いを越え
    て、子どもは子どもとしての思いを抱き、個
    性をもち、独立した人格をもつかけがえのな
    い自分として成長し、生きている。

 注・・勝手に赤い畑のトマト=畑のトマトは手取り
     足取り伸び方を教えなくても、自力で伸びて
    赤くなる。

作者・・俵万智=たわらまち。1962~ 。早稲田大
            学卒。佐々木幸綱と出会い作歌を始めた。

出典・・歌集「サラダ記念日」。


***************** 名歌鑑賞 ***************


国論の 統制されて 行くさまが 水際たてりと
語り合ふのみ
                近藤芳美

(こくろんの とうせいされて ゆくさまが みぎわ
 たてりと かたりあうのみ)

意味・・世論を統制して行く法律が、次々と公布され
    ている。民主主義が崖っぷちに立たされた思
    いであるが、どうする事も出来ず、こそこそ
    と話すだけである。

    昭和12年6月第一次近衛内閣が成立し、7月に
    は盧溝橋で日中両軍が衝突し、以後長い日中
    戦争が始まる。この当時に詠んだ歌です。

    今の私達がなかなか理解出来ない法律が次々
    と公布されている。年表によれば、国民精神
    総動員実施要綱、臨時資金調達法、輸出入品
    等臨時措置法、国家総動員法等々。
    軍国主義にまっしぐらに進んでいる時代を悲
    しんで詠んだ歌です。

 注・・国論=国家一般の議論。世論。

出典・・歌集「早春賦」(小高賢著「鑑賞現代短歌・
    近藤芳美」)。


**************** 名歌鑑賞 ****************


忘れない 空き地になつた あの場所に 人の暮らしが
あったということ
                   宮崎光花

(わすれない あきちになった あのばしょに ひとの
 くらしが あったということ)

意味・・今は津波の後も片づけられた何もない場所に、
    またその地域に、かっては多くの人の生活が存
    在していたこと。それはどんなに土地の形が変
    わっても忘れてはいけないことだと思います。

    2011年3月11日の東日本大地震の津波で家が流
    がされた災害を詠んでいます。

作者・・宮崎光花=みやざきみつか。宮城県仙台市。

出典・・講談社「また巡り来る花の季節は」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


山もとの 鳥の声より 明けそめて 花もむらむら
色ぞ見えゆく
                 永福門院

(やまもとの とりのこえより あけそめて はなも
 むらむら いろぞみえゆく)

詞書・・曙の花を詠みました歌。

意味・・山の麓でさえずる鳥の声から夜は明け始めて、 
    花一群ひとむらとその麗しい色が見えて来る
    ことです。

    春の朝の美しい景色です。

 注・・鳥の声=下に「花も」とあるから、「鳥の声
     も」方々から聞こえて、の意。
    むらむら=あちらこちらに群がるさま。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。
     伏見天皇の中宮。

出典・・玉葉和歌集。


*************** 名歌鑑賞 **************


言とはぬ 木すら春咲き 秋づけば もみち散らくは
常をなみこそ
                 大伴家持
 
(こととわぬ きすらはるさき あきずけば もみち
 ちらくは つねをなみこそ)

詞書・・世間(よのなか)の無常を悲しぶる歌、長歌と
    短歌。

意味・・物を言わない木でさえ、春は花が咲き、秋に
    なると紅葉して散るのは、物はすべて無常で
    るあからなのだ。
 
    長歌です。
    天地の始まった遠い昔から、この人の世は常
    なきものだと、語り継ぎ言い伝えて来たもの
    だが・・・。大空を振り仰いで見ると、照る
    月も満ちたり欠けたりして来た。山の梢も、
    春が来ると花は色美しく咲くものの、秋とも
    なれば冷たい露をあびて、葉が色づいて吹く
    風のままに散り果ててしまう。この世の人の
    身もみんなこんなものでしかないらしい。紅
    の頬(ほお)もたちまち色褪(あ)せ、黒々とし
    た髪も真っ白に変り、朝の笑顔も夕方には消
    え失せ、吹きわたる風が目に見えないように、
    流れ行く水が止まる事を知らないように、無
    常の習いとて、なべて移り変り行くのを見る
    につけ、溢(あふ)れ流れる涙はどうにも止め
    ようがない無い。
 
 注・・常をなみこそ=常でありようが無い。
    無常=全ての物が生滅、変転して留まらない
     こと。いつも変化していること。

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。
     大伴旅人の長男。万葉集の編纂をする。
 
出典・・万葉集・4161。



*************** 名歌鑑賞 **************


灯火の 影にかがよふ うつせみの 妹が笑まひし
面影に見ゆ
                 詠み人知らず

(ともしびの かげにかがよう うつせみの いもが
 えまいし おもかげにみゆ)

意味・・灯火の光に揺れて輝いているあの娘(こ)の笑
    顔が、今も目の前に浮かんで来る。

    この歌の作者の男は、その娘と離れているの
    でしょうか。でも、この歌は、とりようによ
    っては、今は亡きその娘が、現身・・つまり、
    まだ生きていた時の面影がありありと目に浮
    かんで来るという意味にも取れます。

    古典解説者の前川妙さんのお話です。
    「私の亡き夫の思い出も、とりたてて大きな
    出来事というのではなく、何かの時に、ふっ
    といい笑顔を見せたという事が、一番心に残っ
    ているのです。我が家の前は小路になっている
    のですが、ある時、私はその道を、南の方から
    家に向かって帰っていたら、向こうの北の方か
    らやって来る夫の姿が見えたのです。夫はとて
    も嬉しそうな顔をして、「おーい」と、私に向
    けて大きく手を振ったのです。まあ、あんなに
    にっこり笑って、手まで振って、近所の人に見
    られたら恥ずかしい、と、私はてれて、小さく
    笑っただけです。
    でも、その時の彼の笑顔と声は、私の中にはっ
    きり刻みつけられました。今でも、家に帰ろう
    と小路の角を曲がると、あの日の笑顔が面影と
    して目の前に浮かび、声さえ蘇(よみがえ)って
    来るのです」。

 注・・かがよふ=ちらちら揺れて光る。
    うつせみ=現身。現実の姿の意。
    面影=目の前にいない人の顔や姿が、いかにも
     あるように目の前に浮かぶ事。

出典・・万葉集・2642。


*************** 名歌鑑賞 ***************


限りなき 恵の色も 武蔵野の 草はみながら
春雨ぞ降る
               飛鳥井雅俊

(かぎりなき めぐみのいろも むさしのの くさは
 みながら はるさめぞふる)

意味・・限りない恵みを与える春雨が降る。武蔵野の
    すべての草はその恵みを感じながら、芽を育
    (はぐく)ませていることだ。

    春の風情を詠んでいます。
    古今集の次の歌を踏まえた歌です。

    紫のひともとゆえに武蔵野の草はみながら
    あはれとぞ見る

    (美しい紫草がただ一株あるだけのことで、広
    い武蔵野に生えている全ての草が、感慨深く
    思われることだ)

 注・・恵の色=恵まれた状態をさす。
    武蔵野=現在の東京と埼玉県にまたがる関東
     平野の広大な野原。
    みながら=すべての、意と、「見ながら」を
     掛ける。
    春雨=「春」には芽が膨らむの意の「張る」
     が掛けられている。

作者・・飛鳥井雅俊=かすがいまさとし。1462~15
     23。
    正二位権大納言。歌人。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。

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