名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年03月


**************** 名歌鑑賞 ****************


忘れない 空き地になつた あの場所に 人の暮らしが
あったということ
                   宮崎光花

(わすれない あきちになった あのばしょに ひとの
 くらしが あったということ)

意味・・今は津波の後も片づけられた何もない場所に、
    またその地域に、かっては多くの人の生活が存
    在していたこと。それはどんなに土地の形が変
    わっても忘れてはいけないことだと思います。

    2011年3月11日の東日本大地震の津波で家が流
    がされた災害を詠んでいます。

作者・・宮崎光花=みやざきみつか。宮城県仙台市。

出典・・講談社「また巡り来る花の季節は」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


山もとの 鳥の声より 明けそめて 花もむらむら
色ぞ見えゆく
                 永福門院

(やまもとの とりのこえより あけそめて はなも
 むらむら いろぞみえゆく)

詞書・・曙の花を詠みました歌。

意味・・山の麓でさえずる鳥の声から夜は明け始めて、 
    花一群ひとむらとその麗しい色が見えて来る
    ことです。

    春の朝の美しい景色です。

 注・・鳥の声=下に「花も」とあるから、「鳥の声
     も」方々から聞こえて、の意。
    むらむら=あちらこちらに群がるさま。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。
     伏見天皇の中宮。

出典・・玉葉和歌集。


*************** 名歌鑑賞 **************


言とはぬ 木すら春咲き 秋づけば もみち散らくは
常をなみこそ
                 大伴家持
 
(こととわぬ きすらはるさき あきずけば もみち
 ちらくは つねをなみこそ)

詞書・・世間(よのなか)の無常を悲しぶる歌、長歌と
    短歌。

意味・・物を言わない木でさえ、春は花が咲き、秋に
    なると紅葉して散るのは、物はすべて無常で
    るあからなのだ。
 
    長歌です。
    天地の始まった遠い昔から、この人の世は常
    なきものだと、語り継ぎ言い伝えて来たもの
    だが・・・。大空を振り仰いで見ると、照る
    月も満ちたり欠けたりして来た。山の梢も、
    春が来ると花は色美しく咲くものの、秋とも
    なれば冷たい露をあびて、葉が色づいて吹く
    風のままに散り果ててしまう。この世の人の
    身もみんなこんなものでしかないらしい。紅
    の頬(ほお)もたちまち色褪(あ)せ、黒々とし
    た髪も真っ白に変り、朝の笑顔も夕方には消
    え失せ、吹きわたる風が目に見えないように、
    流れ行く水が止まる事を知らないように、無
    常の習いとて、なべて移り変り行くのを見る
    につけ、溢(あふ)れ流れる涙はどうにも止め
    ようがない無い。
 
 注・・常をなみこそ=常でありようが無い。
    無常=全ての物が生滅、変転して留まらない
     こと。いつも変化していること。

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。
     大伴旅人の長男。万葉集の編纂をする。
 
出典・・万葉集・4161。



*************** 名歌鑑賞 **************


灯火の 影にかがよふ うつせみの 妹が笑まひし
面影に見ゆ
                 詠み人知らず

(ともしびの かげにかがよう うつせみの いもが
 えまいし おもかげにみゆ)

意味・・灯火の光に揺れて輝いているあの娘(こ)の笑
    顔が、今も目の前に浮かんで来る。

    この歌の作者の男は、その娘と離れているの
    でしょうか。でも、この歌は、とりようによ
    っては、今は亡きその娘が、現身・・つまり、
    まだ生きていた時の面影がありありと目に浮
    かんで来るという意味にも取れます。

    古典解説者の前川妙さんのお話です。
    「私の亡き夫の思い出も、とりたてて大きな
    出来事というのではなく、何かの時に、ふっ
    といい笑顔を見せたという事が、一番心に残っ
    ているのです。我が家の前は小路になっている
    のですが、ある時、私はその道を、南の方から
    家に向かって帰っていたら、向こうの北の方か
    らやって来る夫の姿が見えたのです。夫はとて
    も嬉しそうな顔をして、「おーい」と、私に向
    けて大きく手を振ったのです。まあ、あんなに
    にっこり笑って、手まで振って、近所の人に見
    られたら恥ずかしい、と、私はてれて、小さく
    笑っただけです。
    でも、その時の彼の笑顔と声は、私の中にはっ
    きり刻みつけられました。今でも、家に帰ろう
    と小路の角を曲がると、あの日の笑顔が面影と
    して目の前に浮かび、声さえ蘇(よみがえ)って
    来るのです」。

 注・・かがよふ=ちらちら揺れて光る。
    うつせみ=現身。現実の姿の意。
    面影=目の前にいない人の顔や姿が、いかにも
     あるように目の前に浮かぶ事。

出典・・万葉集・2642。


*************** 名歌鑑賞 ***************


限りなき 恵の色も 武蔵野の 草はみながら
春雨ぞ降る
               飛鳥井雅俊

(かぎりなき めぐみのいろも むさしのの くさは
 みながら はるさめぞふる)

意味・・限りない恵みを与える春雨が降る。武蔵野の
    すべての草はその恵みを感じながら、芽を育
    (はぐく)ませていることだ。

    春の風情を詠んでいます。
    古今集の次の歌を踏まえた歌です。

    紫のひともとゆえに武蔵野の草はみながら
    あはれとぞ見る

    (美しい紫草がただ一株あるだけのことで、広
    い武蔵野に生えている全ての草が、感慨深く
    思われることだ)

 注・・恵の色=恵まれた状態をさす。
    武蔵野=現在の東京と埼玉県にまたがる関東
     平野の広大な野原。
    みながら=すべての、意と、「見ながら」を
     掛ける。
    春雨=「春」には芽が膨らむの意の「張る」
     が掛けられている。

作者・・飛鳥井雅俊=かすがいまさとし。1462~15
     23。
    正二位権大納言。歌人。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。

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