名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年04月


**************** 名歌鑑賞 ****************


今宵こそ 思ひ知らるれ 浅からぬ 君に契りの
ある身なりけり
                 西行

(こよいこそ おもいしらるれ あさからぬ きみに
 ちぎりの あるみなりけり)

意味・・自分という人間はなんという迂闊さだろう。一院の
    御葬儀の今宵になって初めて、自分が院と並み一通
    りでない御縁にあった事を、今更のように深く思い
    知り、思い知らされた事であった。

    長い詞書があります。
    一院が鳥羽離宮でお亡くおなりになって御葬儀に参
    列出来たが、大変悲しい事であった。一院が鳥羽離
    宮にお住まいになっていた頃、私は北面の武士とし
    てお供をしていたので、その時の事が思いだされて
    来る。今宵はご葬儀に参列出来た御縁の深さなどに
    思いを致し、昔の事、今の事が思いだされ、哀しみ
    に濡れて詠みました歌。

    恩師、友人、先輩、そうした人の訃報を聞くと「浅
    からぬ君に契りのある身なり」と改めて深い縁があ
    った事に思いがはせるものです。

 注・・一院=鳥羽法皇。1156年崩御。
    浅からぬ=「契りに」掛かる。
    契り=因縁、運命的なつながり。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義清。
    下北面の武士として鳥羽院に仕える。1140年23歳
    で財力がありながら出家。出家後京の東山・嵯峨の
    あたりを転々とした。陸奥の旅行も行い30歳頃高野
     山に庵を結び仏者として修行した。

出典・・山家集・782。


**************** 名歌鑑賞 ****************


立遅れ 立遅れ生きて ゆく事の これ迄のごとく
これからもまた
                清水房雄

(たちおくれ たちおくれいきて ゆくことの これまでの
 ごとく これからもまた)

意味・・これまでの生き様を振り返り、立遅れ立遅れ生きて
    来たけれど、これからもまた、このような生き方を
    是として生きてゆくことだろう。

    じっと立ち止まって納得するまで考えあぐねて踏み
    出す姿です。結果として歩みは遅れるが、生き方は
    変えられず、これからも同様であろうと思っている。
           要するに不器用な生き方です。

 注・・考えあぐねる=あれこれと考えても、いい知恵が出
     てこないこと。どうしたらいいか結論が出ないで
     困ってしまう。
    
作者・・清水房雄=しみずふさお。1915~2015。東大卒。
    土屋文明に師事。昭和女子大教授。

出典・・杉山喜代子著「短歌と人生」。


*************** 名歌鑑賞 **************


水の上に 数書くごとき わが命 妹に逢はむと 
祈誓ひつるかも
                                               柿本人麿

(みずのうえに かずかくごき わがいのち いもに
 あわんと うけいつるかも)

意味・・水の上に数を書くようなはかないわが命、
    そんな身でありながら、あの娘にきっと
    逢おうと、私は誓いをたてて神にお祈り
    をしている。

 注・・祈誓(うけ)ひ=神意を問うために誓約す
     る。

作者・・柿本人麿=かきのもとのひとまろ。生没
    年未詳。

出典・・万葉集・2433。


の葉は み山もさやに さやげども われは妹思ふ
別れ来ぬれば
                   柿本人麻呂

(ささのはは みやまもさやに さやげども われは
 いもおもう わかれきぬれば)

意味・・笹の葉はみ山全体にさやさやとそよいでいる
    けれも、私はただ一筋に妻を思う。別れて来
    てしまったので。

    現地妻を石見国に残して都に上がるときの旅
    の途中の歌です。
    笹のそよぐ音と山の清々しを示して山の神々
    しさを表し、現地妻を残して別れて来たこと
    の恐れ多いさを示しています。

 注・・石見=鳥取県の西部。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。宮廷歌人。

出典・・万葉集・133。


**************** 名歌鑑賞 ***************


思ひかへす 道をしらばや 恋の山 は山茂山
わけいりし身に
                 建礼門院右京大夫

(おもいかえす みちをしらばや こいのやま はやま
 しげやま わけいりしみに)

意味・・思いなおして引き返す道をしりたいものです。
    恋の山の麓から悩み苦しみ草木の茂った奥深く
    へと迷い込んでしまった私にとって。

    どうしょうもない恋の悩みで思い煩っていた頃
    詠んだ歌です。

 注・・恋の山=積もる恋の思いを山にたとえた。また
     恋は迷いやすいので山路にたとえる。
    は山=端山。山の麓あたり。
    しげ山=茂山。草木の茂った山。奥山とも。

作者・・建礼門院右京大夫=1157頃~1227頃。高倉天皇
    の中宮平徳子(建礼門院)に仕えた。

出典・・建礼門院右京大夫集。


*************** 名歌鑑賞 ****************


この空に いかなる太陽の かがやかば わが眼にひらく
花々ならむ
                   明石海人

(このそらに いかなるたいようの かがやけば わがめに
 ひらく はなばなならん)

意味・・この空にどういう太陽が輝けば、こんな私に希望
    という名の花が開いてくれるのだろうか。

    難病を患い、治るどころか段々悪化している時に
    詠んだ歌です。
    海人よりひどい病状の人が、「世の中の全ての人
    があなたを見捨てても、神様はあなたをお見捨て
    にはなりません」と言いながら献身的に看護して
    くれた看護師によって、何一つ口に入らなかった
    食事が、おもゆ、二分、三分粥と食べられるよう
    になり、自分の足で大地を踏めるようになった、
    という話を聞かされて、希望をなくすまい、と言
    い聞かせた歌です。その後、名医との出会いで生
    き甲斐を見つけます。

作者・・明石海人=1901~1939。ハンセン病を患い岡山県
    の愛生園で療養。手指の欠損、失明、喉に吸気管
    を付けた状態で歌集「白描を」出版。

出典・・歌集「白描」。


**************** 名歌鑑賞 ***************


たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ 頭ならべて
物をくふ時
                    橘曙覧

(たのしみは めこむつまじく うちつどい かしら
 ならべて ものをくうとき)

意味・・「いただきまあす!」妻子たちが一人も欠ける事
    なく、一家全員が寄り集まり、仲良く頭を並べて
    箸をとり、食事が始まる。話がはずむ、笑いがこ
    ぼれる。嬉しいねえ、ありがたいねえ。質素な夕
    餉ではあるが、一家団欒の風景である。こんな時、
    なんとも言えず楽しく幸せな気分になるのは。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。早く父
    母と死別。家業を異母兄弟に譲り隠棲。福井藩の
    重臣と交流。

出典・・独楽吟。


***************** 名歌鑑賞 ***************


もの忘れ またうちわすれ かくしつつ 生命さへや
明日は忘れむ
                   太田水穂

(ものわすれ またうちわすれ かくしつつ いのち
 さえや あすはわすれん)

意味・・老いて益々物忘れが激しくなり、ちよっとした
    事もすぐ忘れまた忘れる。このようにして生き
    ている生命さえも明日は忘れてしまうのではな
    かろうか。

    衰えてたわいなくなる自分を知るのは寂しく、
    時には恐ろしい。しかし「もの」から解放され
    心がかえって自在となった境地があり、衰える
    心身を解き放している。

 注・・む=推量の意味。・・だろう。

作者・・太田水穂=おおたみずほ。1876~1955。長野
    師範卒。

出典・・歌集「老蘇の森」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿
しばしとどめむ
                僧正遍照

(あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ おとめの
 すがた しばしとどめん)

詞書・・五節の舞姫を見て詠んだ歌。

意味・・空吹く風よ、天女を迎えに来る雲の道を閉ざ
    しておくれ。天女のように美しいこの乙女を
    いましばしの間、私の元に留めさせてくれな
    いか。

 注・・雲の通ひ路=雲の中の通路。
    五節の舞姫=11月に行われる豊明節会(天皇が
     新穀を召しあがり、臣下にも賜る儀式)に際
     して舞を舞う5人の女性。
    をとめの姿=舞が終わって退出する舞姫を空
     を飛んで帰る天女に見立てた。
     
作者・・僧正遍照=そうじょうへんじょう。816~890。
    六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・872、百人一首・12。


*************** 名歌鑑賞 ***************


夕暮れの 心の色を 染めぞおく 果てつる鐘の
声のにほひに
                正徹

(ゆうぐれの こころのいろを そめぞおく はてつる
 かねの こえのにおいに)

意味・・仕事が一段落した夕暮れの、落ち着いた気分に
    なったこういう時を、長く心に留めておこう。
    撞き終わる寺の晩鐘の余韻に浸る事によって。

    どどどん~、どどどん~という太鼓の音を聞け
    ば気持ちを奮い立たせてくれますが、その反面、
    ご~んという梵鐘の音は、静けさをもたらし心
    を落ち着かせてくれます。この鐘の音を聞きな
    がら、今日一日の無事に感謝し、ゆったりした
    気持ちになり、そして明日に備えよう。
    
 注・・心の色=心の様子、深く思っている心の状態。
    染めぞおく=深く心に染(し)み入れておく。
    声のにほひに=美しく映える鐘の音に。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。東福寺の僧。
     冷泉為尹(れいぜいためまさ)に師事。

出典・・歌集「草根集」(窪田章一郎編「和歌鑑賞辞典」)。

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