名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年05月


*************** 名歌鑑賞 ***************


かかるよに 影もかはらず 澄む月を 見る我が身さへ
うらめしきかな
                  西行

(かかるよに かげもかわらず すむつきを みる
 わがみさえ うらめしきかな)

詞書・・世の中は大変な事になって、崇徳院は御謀反
    の企てに敗れるというとんでもない事態にな
    り、御出家されて仁和寺にいらっしゃると、
    もれ承(うけたま)って、お見舞いに伺った。
    月の明るい夜であった。

意味・・痛ましくも崇徳院が御出家になるようなこん
    な世の中が恨ましいばかりか、常に変わる事
    のない光を放っている月が、そしてそれを見
    ている我が身までが恨ましく思われる。

    何もかも変わって何を信じていいか分からぬ
    このような世に、いつもと少しも変わらぬ己
    が影をひいて、明るく澄んでいる月を見てい
    る自分という人間は、一体何なのであろうか。

    この歌は崇徳院が御謀反の戦に敗れて何日も
    経っていないまだ物情騒然としていた時期の
    歌です。御謀反の戦いというのは、多年にわ
    たっての崇徳院の皇位継承に関する不満が父
    鳥羽法皇崩御を契機として爆発し、それに藤
    原氏内部の摂関争いが結びついて起こった争
    乱で、世に言う保元の乱です。

 注・・かかるよ=皇位継承の保元の乱が始まった世
     の中であり、崇徳院が破れて出家し、また
     讃岐に流された世の中。
    うらめしき=口惜しく悲しい、残念だ。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義
     清。下北面の武士として鳥羽院に仕える。
     1140年23歳で財力がありながら出家。出家後
    京の東山・嵯峨のあたりを転々とする。
     
出典・・家集「山家集・1227」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


をさな子の 服のほころびを 汝は縫へり 幾日か後に
死ぬとふものを
                    吉野秀雄

(おさなごの ふくのほころびを なはぬえり いくひか
 のちに しぬとうものを)

意味・・病気の末期にある妻が、我が子の服の綻(ほころ)
    び縫っている。その変わることのない母親の姿
    を見ていると痛ましく思われて来る。

 注・・とふ=「といふ」の転。・・という。

作者・・吉野秀雄=よしのひでお。1902~1967。慶大卒。
    良寛や会津八一の研究者。

出典・・歌集「寒蝉集」(杉山喜代子著「短歌と人生」)


*************** 名歌鑑賞 ***************


霧雨の こまかにかかる 猫柳 つくづく見れば
春たけにけり
               北原白秋

(きりさめの こまかにかかる ねこやなぎ つくづく
 みれば はるたけにけり)

意味・・霧雨がしっとりと降りかかる猫柳をよくよく
    見つめると、そのやわらかな芽はすっかり伸
    び立っている。ああ春ももう深くなったこと
    だなあ。

 注・・猫柳=柳科の落葉灌木。葉は長楕円形。花は
     穂をなして、早春に葉より先に咲き、白毛
     を密集させ猫のしっぽに似ている。えのこ
     ろやなぎともいう。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅう。1885~19
    42。早稲田大学中退。詩人。

出典・・歌集「雀の卵」(谷馨著「短歌精講」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


夜々を 野分の風に 戻り来る 夫よ切なし
仕事のにおう
               新免君子

(よるよるを のわけのかぜに もどりくる おっとよ
 せつなし しごのにおう)

意味・・夫は毎日夜になって帰って来る。「会社や世間
    の厳しさ」という野分の風の中を戻って来る。
    毎日、仕事の臭いをさせて疲れて帰って来る勤
    てめ人である夫の姿。その姿に労わりや感謝を
    しているが、切なさを覚えてくる時もある。
    苦境に立ち向かう夫の姿はたくましく思われる
    が、弱々しい時もある。こんな時はやはり辛い
    気持ちになって来る。

作者・・新免君子=しんめんきみこ。歌人。

出典・・歌集「飛花」(杉田喜代子著「短歌と人生」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


植えざれば 耕さざれば 生まざれば 見つくすのみの
命もつなり
                  馬場あき子

(うえざれば たがやかさざれば うまざれば みつくす
 のみの いのちもつなり)

意味・・田を植えることもなく、畑を耕すこともなく、
    子を産むこともなかった私。農耕や女性の生に
    関する尊い営みであるが、それをしなかった私。
    それをしなかった自身の生き方を見つめると、
    世の中をひたすら見つめ続けて生きて行きたい。
    歌人として、今、ここに生きています。

 注・・見つくす=見極める。

作者・・馬場あき子=ばばあきこ。1928~ 。昭和女子
    大卒。窪田章一朗に師事。夫は歌人の岩田正。

出典・・歌集「桜花伝承」(杉山喜代子著「短歌と人生」)

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