名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年06月


**************** 名歌鑑賞 ****************


ありありと 雪もほたるも あつめずば 学ばで消えん
露の間の世
                               観竹

(ありありと ゆきもほたるも あつめずば まなばで
 きえん つゆのまのよ)

意味・・明日があるからと、いま蛍雪の功を積まなかっ
    たら、命はかない世の中だから、ついに学ぶ事
    なく終わってしまうだろう。

 注・・雪もほたるも=蛍雪の功。「蛍雪」は苦労して
     勉学に励むことを意味し「功」は成し遂げた
     仕事や功績を意味する。

作者・・観竹=伝未詳。

出典・・大江戸倭歌集(わかしゅう)。


五月雨は たく藻の煙 うちしめり しほたれまさる
須磨の浦人
                 藤原俊成

(さみだれは たくものけぶり うちしめり しおたれ
 まさる すまのうらびと)

意味・・謫居(たっきょ)の身の須磨の浦人は日頃から涙が
    ちなのに、五月雨の頃は焼いて塩を取る藻も湿め
    りがちで、いちだんと濡れぼそていることだ。

    五月雨が藻塩を湿らせていよいよ焼きにくくし、
    浦人の嘆きを一層つのらせている。

    参考歌です。

   「わくらばに問う人あらば須磨の浦に藻塩たれつつ
    わぶと答へよ」   (意味は下記参照)
    
 注・・五月雨=陰暦の五月に降る長雨。梅雨。
    たく藻の煙=製塩するため、海水を注ぎかけて塩    
     分を含ませた海藻を干して焼く、その煙。この
     灰を水に溶かし、上澄みを煮て塩を取る。
    しおたれまさる=海水に濡れて雫が垂れる。そして
     袖が涙で濡れるほど嘆き沈むことを暗示する。
    須磨の浦人=須磨の浦は摂津国の枕詞。罪を負っ
     て須磨に謫居している都の貴人。
    謫居(たっきょ)=罪によって遠い地方に流されて
     いること。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
    正三位・皇太后大夫。「千載和歌集」の撰者。

出典・・千載和歌集・183。

参考歌です。

わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ
わぶと答へよ
                   在原行平

(わくらばに とうひとあらば すまのうらに もしお
 たれつつ わぶとこたえよ)

意味・・たまたま、私のことを尋ねてくれる人があった
    ならば、須磨の浦で藻塩草に塩水をかけて、涙
    ながらに嘆き暮らしていると答えてください。

    文徳天皇との事件にかかわり須磨に流罪になっ
    た時に親しくしていた人に贈った歌です。

作者・・在原行平=ありわらのゆきひら。818~893。

出典・・古今和歌集・962。 


**************** 名歌鑑賞 *****************


とにかくに あればありける 世にしあれば なしとてもなき
世をもふるかも
                     源実朝

(とにかくに あればありける よにしあれば なしとても
 なき よをもふるかも)

詞書・・落ちぶれた人が世の中に立ちまじり歩いているのを
    見て詠んだ歌。

意味・・(どんな事情があっても)とにもかくにも生きていれ
    ば世を過ごして行けるこの世なのだから、何も無く
    ても、ないままに世を送っている事だなあ。

            大きな欲を出さなければ、何とか生きて行ける世の
    中ということです。
    世の中には、価値のあるもの、立派なものがあり、
    その一方、無価値なもの、つまらないものがあるが、
    すべて相対的なものであり、それに執着するに足り
    ない。落ちぶれて気弱になっていも、「落ちぶれる」
    といっても、これは相対的な事で自分より下の者が
    見れば、羨ましい状態なのかもしれない。だから悲
    観せずに元気を出して生きて行きたいものです。
    
 注・・わび人=気落ち、気弱になった人。みすぼらしく
     落ちぶれた人。
    あればありける=有れば在りける。生きていける。
    ふる=古る。年月がたつ。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。28歳。
     源頼朝の次男。鎌倉幕府三代将軍。鶴岡八幡宮
     で暗殺された。歌集「金槐集」。

出典・・金槐和歌集。


*************** 名歌鑑賞 ***************


今行きて 聞くものにもが 明日香川 春雨降りて
たぎつ瀬の音 
                  詠み人知らず

(いまゆきて きくものにもが あすかがわ はるさめ
 ふりて たぎつせのおと)

意味・・今すぐにでも出かけて行って、聞けるものなら
    聞きたいものだ。飛鳥川に春雨が降り続いて、
    激しく流れる瀬の音を。

    作者は飛鳥川の瀬音がとても懐かしいのでしょ
    うね。

 注・・聞くものにもが=「もが」は願望の助詞。
    たぎつ=激つ。水が激しく流れる。
    明日香川=飛鳥川とも書く。奈良県北西部を
     流れる川。流れが速いので、人の世の変わ
     りやすさに譬えられる。
   
出典・・万葉集・1878。


*************** 名歌鑑賞 ****************


賃銭の どれいならざる 誇りもて はたらきしことを
われは謝すべし
                 小名木綱夫

(ちんぎんの どれいならざる ほこりもて はたらき
 しことを われはしゃすべし)

意味・・いくら働いても貧しい生活ではあるが、金のため
    奴隷となって働いては来なかったことを誇りにし
    よう。そして、それが出来たことに感謝しょう。

    死の前日に詠んだ歌です。
    働く事に面白さ価値を見出して働いて来た。賃金
    が高い安いを基準にして働いて来たのではない。
    これが私の誇りであった。そのように自分の思う
    ように働けた事に感謝したい。

作者・・小名木綱夫=おなきつなお。1911~1948。37才。
    府立工芸学校卒。新日本歌人協会の創立に加わる。
    14歳で印刷見習い工として働き始める。持病の喘息
    で工場を辞め、以降たびたび健康を害して働いては
    辞めるという生活を送る。

出典・・歌集「太鼓」(本林勝夫篇「現代短歌鑑賞辞典」)

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