名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年07月


*************** 名歌鑑賞 ****************


ほど経れば 同じ都の 内だにも おぼつかなさは
問はまほしきを
                西行

(ほどふれば おなじみやこの うちだにも おぼつかな
さは とわまおしきを)

意味・・長く逢わないで時が経つと、同じ都にいてさえ、
    気になって安否を問いたくなるものなのに、遠く
    都を離れたらなおさら気掛かりになるだろう。

    旅に出る前に詠んだ歌です。都を離れて遠く旅立
    つ折りの心情を込めています。

 注・・ほど=時間、距離。
    おぼつかなさ=心配だ、不安だ、気掛かりなこと。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。

出典・・山家集・1091。


************** 名歌鑑賞 ****************


聞かずとも ここを瀬にせん 時鳥 山田の原の
杉のむら立ち           
                                        西行

(きかずとも ここをせにせん ほととぎす やまだの
 はらの すぎのむらだち)

意味・・たとえ聞けなくても、ここをほととぎすを待つ
    場所としよう。山田の原の杉の群立つここを。

    山田の原は伊勢神宮に近い森。この森厳な伊勢
    神宮の森で時鳥の鳴き声を厳粛な気持ちになっ
    て聞きたいと詠んでいます。

 注・・瀬にせん=逢う場所にしょう。
    山田の原=三重県伊勢市伊勢神宮の外宮の辺り。
    むら立ち=群立ち。群がって立っている所。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。鳥羽院北面
    武士。23歳で出家。

出典・・新古今和歌集・217。


**************** 名歌鑑賞 ****************


いざここに わが世は経なむ 菅原や 伏見の里の
荒れまくも惜し
                      * 詠み人知らず 

(いざここに わがよはへなん すがわらや ふしみの
 さとの あれまくもおし)

意味・・さあここで、私の生涯を暮らす事にしょう。私が
    去って、この菅原の伏見の里の荒れてしまうのが
    惜しいので。

    私が住みにくいからと言って、他に移ってしまっ
    たならば、ここがよりいっそう荒れてしまうであ
    ろうから、私はここに定住しょうというのである。
    社会情勢で寂れようとした頃の歌です。
    現在で言えば、産業の空洞化により地域が荒廃し
    たので、芸術文化の創造によって地域の再生を計
    ろう、という感じです。

 注・・わが世=私の生涯。
    菅原や伏見の里=奈良市菅原の一帯の地。「や」
     は・・の、・・にある、の意。菅原にある伏見
     の里。
    荒れまくも惜し=荒れるであろう事が惜しまれる。
     「まく」は推量の助動詞。

出典・・古今集・981。


************** 名歌鑑賞 ****************


昔見し 妹が垣根は 荒れにけり つばなまじりの
菫のみして
                藤原公実

(むかしみし いもがかきねは あれにけり つばな
 まじりの すみれのみして)

意味・・なつかしさのあまり、昔の恋人の家を訪ねて
    みると、その家の垣根はひどく荒れていた。
    彼女はもうどこかに引っ越して行ったらしい。
    そして、その垣根のそばに残っていたのは、
    茅花の白い花にまじって咲く菫の花だけであ
    った。

    徒然草の26段に出て来る歌です。26段の内容
    です。
    風に吹かれるまでもなく変り移ろうのが人の
    心であるから、慣れ親しんでいた当時を思い
    出して見ると、身に沁みた一言一句も忘れは
    しないものの、自分の生活にかかわりのない
    人のようになってしまう恋の一般性を考える
    と、死別にもまさる悲しみである。それゆえ、
    白い糸が染められるのを見て悲しみ、道の小
    路が分かれるのを嘆く人もあったのではあろ
    う。「堀河院百首」の中で藤原公実が歌って
    いるのに、

    昔見し 妹が垣根は 荒れにけり つばな
    まじりの 菫のみして

    哀れを誘う風情は、実感から出たものであろ
    う。桜の花より移ろいやすい人の心。親しく
            した年月を思えば、心が疎遠になって行くの
            は死別より悲しいことだ。

 注・・つばな=茅花。茅萱のこと。稲科チガヤ属。
     初夏白い毛を密生した花を咲かせる。薄に
     似ている。若い花穂を茅花(つばな)という。
    白い糸が染められるのを見て悲しみ=淮南子
     に出て来る墨子の言葉。木綿にしても絹に
     しても始めは白い糸のかたまり。これを用途に
     よって色染めして別々の種別に分けて行く、
     これを別れの実感として感じたもの。
    道の小路が分かれるのを嘆く=淮南子に出て
     来る楊子の言葉。道のちまたの別れのこと。

作者・・藤原公実=ふじわらのきんざね。1053~1107。
    正二位大納言。

出典・・堀河院百首・徒然草26段。


**************** 名歌鑑賞 ***************


城ヶ島の さみどりの上に ふる雨の 今朝ふる雨の
しみらなるかな
                  北原白秋

(じょうがしまの さみどりのうえに ふるあめの けさ
 ふるあめの しみらなるかな)

意味・・緑に包まれて眼の前に見えている城ヶ島に、繁く
    ひまなく今朝は雨が降っている。

    北原白秋は、しんみりとした、雨の風情を味わっ
    てこの心情を「城ヶ島の雨」の詩を書いています。

    城ヶ島の雨
           作詞:北原白秋、作曲:梁田 
                                https://youtu.be/cyWTy-Y081s

     雨はふるふる 城ヶ島の磯に
     利休鼠の 雨がふる
     雨は真珠か 夜明けの霧か
     それともわたしの 忍び泣き

     舟はゆくゆく 通り矢のはなを
     濡れて帆上げた ぬしの舟
     ええ 舟は櫓(ろ)でやる
     櫓は唄でやる
     唄は船頭さんの 心意気

     雨はふるふる 日はうす曇る
     舟はゆくゆく 帆がかすむ

 注・・しみら=繁ら。繁る、多い、盛んなさま。
    利休鼠=緑色を帯びたねずみ色。抹茶色。
    通り矢=城ヶ島・向ヶ崎のすぐ先にある潮の流
     れの速い部分。今は埋め立てられて、地名と
     して残っているだけ。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅう。1885~1942。
     詩人。詩集「邪宗門」。

出典・・永田義直著「短歌鑑賞入門」。

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