名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年10月


*************** 名歌鑑賞 ***************


杖さきに かかぐりあゆむ 我姿 見すまじきかも
母にも妻にも
                明石海人

(つえさきに かかぐりあゆむ わがすがた みす
 まじきかも ははにもつまにも)

意味・・杖にすがって歩く私のこんな姿は。母にも
    妻にも決して見せたくないものだ。

    療養所にいる時、病状が悪化して失明した
    頃、杖を頼りに初めて出かけた時に詠んだ
    歌です。

 注・・かかぐり=手探りで探し求める。
        見すまじき=見せるべきでない。
    かも=詠嘆の意を表す。・・だなあ。

作者・・明石海人=かあかしかいじん。1901~19
    39。ハンセン病を患い岡山県の愛生園で
    療養。手指の欠損、失明、喉に吸気管を付
    けた状態で歌集「白描」を出版。

出典・・歌集「白描」。


**************** 名歌鑑賞 ****************


秋の灯や ゆかしき奈良の 道具市    
                      蕪村

(あきのひや ゆかしきならの どうぐいち)

意味・・古都奈良の、とある路傍に油灯をかかげる古道具
    の市が出ている。さすがに仏都にふさわしく、仏像
    やさまざまな仏具も混じっていて、これらの品々に
    は年輪を得た古趣が感じられ、立ち去りがたい奥ゆ
    かしさがあるものだ。
 
作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。

出典・・あうふ社「蕪村全句集」。  


*************** 名歌鑑賞 ****************


今朝の朝明 雁が音聞きつ 春日山 もみちにけらし
我が心痛し 
                 穂積皇子

(けさのあさけ かりがねききつ かすがやま もみちに
 けらし わがこころいたし)

意味・・今朝の明け方、雁の鳴く声を聞いた。もう春日山
    は紅葉したらしい。雁の声を聞くにつけても、春
    日の紅葉を思っても、私の胸は痛む。

    もう雁の鳴く季節になり、紅葉する秋になった。
    この時にまで自分の志を成し遂げたいと思ってい
    たのに、それが出来ていない。私の心は痛んでく
    る。
    この歌の場合、但馬皇女(たじまのひめみこ)との
    悲恋といわれている。
    
作者・・穂積皇子=ほずみのみこ。天武天皇の第五皇子。
    715年没。

出典・・万葉集・1513。


*************** 名歌鑑賞 ***************


たのしみは 心をおかぬ 友どちと 笑ひかたりて
腹をよるとき
                   橘曙覧

(たのしみは こころをおかぬ ともどちと わらい
 かたりて はらをよるとき)

意味・・私の本当の楽しみは、気兼ねの要らない友達
    と談笑して、おかしさのあまり、腹の底から
    笑い腹の皮がよじれる時です。心を許せる友
    人がいるのは、なんと幸せなことでしょう。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。早
    くから父母に死別し、家業を異母弟に譲り隠
    棲。福井藩の重臣と交流。

出典・・独楽吟(岡本信弘篇「独楽吟」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 
秋は来にけり   
                 恵慶法師
             
(やえむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそ
 みえね あきはきにけり)

意味・・幾重にも葎(むぐら)の生い茂る寂しいこの家に、
    人は誰も訪れて来ないが、秋だけはいつもと変
    わらずにやって来た。

    詞書に「河原院にて、荒れた宿に秋の心を詠む」
    とあります。
    河原院は、源融(とおる)左大臣が建てた雅(みや
    び)やかで豪華な邸宅であったが、融の没後は荒
    れ果ててしまった。
 
    華やかな過去を思い出しながら、時の推移と共に
    現在の荒廃した姿の哀れさを詠んでいます。

 注・・八重葎=幾重にも茂った葎。「葎」はつる性の草。
     荒廃した邸(やしき)などに茂る。
    源融=みなもとのとおる。822~895。陸奥国塩釜
     の風景を模して作庭した六条河原院を造営。

作者・・恵慶法師=えぎょうほうし。生没年・経歴未詳。
    10世紀後半の人。
 
出典・・拾遺和歌集・140、百人一首・47。

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