名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年11月


**************** 名歌鑑賞 ****************


今日も事なし凩に酒量るのみ
                山頭火

(きょうもことなし こがらしに さけはかるのみ)

意味・・今日も何事も無かったなあと、木枯らしの音を
    聞きながら、静かに酒を量っている。

    なんとなく不満であり、充足しない気分の今日
    この頃である。何かいい事が無いかなあ、胸が
    ときめくような事が無いかなあと期待しつつ、
    今日も普通の日と変わらずに過ぎた。寒い木枯
    らしが吹く中、細々と酒を量って売っている、
    平々凡々の一日であった。

    ありふれた何でも無い様な状態が、実は、いか
    に「幸福」な状態かを詠んだ句です。
    ある日突然の、大きな病気や怪我・仕事の失敗・
    リストラ・地震や火事・・、この様な不幸事を
    経験すると、平々凡々と過ごせたあの頃に戻っ
    てほしい・・。

 注・・酒量る=この歌の時期は、酒造業を営んでいた
    ので、酒を量って売るの意。

作者・・山頭火=さんとうか。1882~1940。本名種田
    正一。大地主の家に生れる。酒造業を継ぐ。父
    が放蕩して母が投身自殺。その後、種田家は破
    産。1925年出家して行乞流転。

出典・・金子兜太著「放浪行乞 山頭火120句」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の
錦なりけり
                 紀貫之
                
(みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみじは
 よるの にしきなりけり)

意味・・はやす人もいないままに散ってしまう山深い
    紅葉は、まったく夜の錦である。

    この奥山の紅葉は誰にも見てもらえないで、
    自然に散ってしまうが、それは人にたとえ
    れば、都で立身出世したにもかかわらず、い
    っこうに故郷に帰って人々に知らせないよう
    なもので、はなはだ物足りない。

 注・・夜の錦=「史記」の「富貴にして故郷に帰ら
     ざるは錦を着て夜行くが如し」を紅葉を惜
     しむ意に転じる。
     (いくら立身出世しても、故郷に帰って人々
     に知ってもらわなければ、人の目に見えな
     い夜の闇の中を錦を着て歩くようなもので
     つまらない)

作者・・紀貫之=きのつらゆき。866~945。土佐守・
    従五位。「古今集」の中心的撰者。
 
出典・・古今和歌集・297。


*************** 名歌鑑賞 ****************


み山辺に 時雨れてわたる 数ごとに かごとがましき
玉柏かな
                  源国信

(みやまべに しぐれてわたる かずごとに かごと
 がましき たまかしわかな)

意味・・山辺に時雨が降って通り過ぎるその度ごとに、
    愚痴を言っているかのような音をたてる柏の
    広葉であることだ。

    自分の気に食わないことがあったら、すぐに
    愚痴をいうお方だ。そんな事ではいけないの
    だぞ。

 注・・かごと=言い訳、愚痴。
    玉柏=柏木の美称。柏の広葉は枯れてもすぐ
     には落葉しない。

作者・・源国信=みなもとののぶくに。1111年没。43
    歳。正二位権中納言。
 
出典・千載和歌集・411。


*************** 名歌鑑賞 ****************


名にしおはば いざ尋ねみん 逢坂の 関路ににほふ
花はありやと
                  源実朝
             
(なにしおわば いざたずねみん おうさかの せきじに
 におう はなはありやと)

意味・・逢うという名を持っているならば、さあ、尋ねて
    みよう。逢坂の関の山路に美しく咲いている花に
    逢えるだろうか、と。

    同じ人が同じ花を見ても、心の状態により、同じ
    ように見えないものです。悲しい時に見る花は心
    を癒されるかも知れません。思い悩んでいる時は
    花は目に入らないかも知れません。嬉しい時は花
    を見て美しいと思うことでしょう。

    今自分が歩んでいるこの道は、いつか喜びをかみ
    しめて美しく花を見る事が出来るかどうか、尋ね
    て見たい。

 注・・逢坂=山城国(京都府)と近江国(滋賀県)の境。古
     く関所があった。
    関路=関所近くの路。
    にほふ=美しく色づく。
    ありやと=健在であるか。花は健在でそれに逢え
     るかの意。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。28
    歳。12歳で三代将軍になる。鶴岡八幡宮で暗殺さ
    れた。

出典・・金槐和歌集。


*************** 名歌鑑賞 ***************


春雨の あやをりかけし 水のおもに 秋はもみぢの
錦をぞ敷く
                  道命法師
             
(はるさめの あやおりかけし みずのおもに あきは
 もみじの にしきをぞしく)

意味・・春雨が綾を織り懸けていた水面に、秋には
    紅葉が錦を敷いており、これまた美しい。
 
    春雨の綾織物と紅葉の錦との見立ての対比
    の面白さを詠んでいます。

 注・・春雨のあや=雨の降りそそぐ波紋を綾織物
     の文様に見立てた。
    錦=川面の紅葉を錦に見立てること。

作者・・道命法師=どうみょうほうし。974~1020。
    比叡山天王寺別当。中古三十六歌仙。

出典・・詞花和歌集・134。

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