名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2018年12月


*************** 名歌鑑賞 ****************


ながめこし 花より雪の ひととせも けふにはつ瀬の
いりあひの鐘
                  頓阿法師
              
(ながめこし はなよりゆきの ひととせも きょうに
 はつせの いりあいのかね)

意味・・春の花から冬の雪まで、ずっと眺めてきた
    この一年も、今日で終わったと初瀬の入相
    の鐘が響いている。

 注・・初瀬=奈良県桜井市初瀬。長谷寺がある。
    いりあひ=入相。夕暮れ。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。
    俗名は二階堂貞宗。和歌の四天王。

出典・・頓阿法師詠(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)
 


*************** 名歌鑑賞 ****************


いたづらに なす事もなく くれはつる としもつもりの
うらめしの世や
                   寒河正親

(いたずらに なすこともなく くれはつる としも
 つもりの うらめしのよや)

意味・・今年はこれだけの事をした、という充実感もなく、
    無駄に月日を送ってはや年も暮れようとしている。
    悔やまれることである。子や孫よ、こんな事では
    いけないのだぞ。

 注・・としもつもり=年も積り。月日が積み重ねる。

作者・・寒河正親=さむかわまさちか。生没年未詳。江戸
    時代の初期の教訓的作者。

出典・・教訓書「子孫鑑(しそんかがみ)」。



************* 名歌鑑賞 **************


欠航と 決まりし埠頭 霙打つ 
                 
(けっこうと きまりしふとう みぞれふる)

意味・・フェリー乗り場に行くと欠航!
    この激しい霙では仕方がないか。
    さて、これからどうしょうか。
 
出典・・インターネット。


*************** 名歌鑑賞 ****************


ますらをは 友の騒ぎに 慰もる 心もあらむ
我ぞ苦しき           
                詠み人知らず

(ますらおは とものさわぎに なぐさもる こころも
 あらん われぞくるしき)

意味・・殿方は、友達とのつきあいに興じて憂さを
    晴らすこともありましょう。けれど、女の
    私はそれも出来なくて苦しくてなりません。
 
    男性には仕事があり、またそれに伴っての
    付き合いもあって、妻とだけの生活の度合
    が少ない。女性は家事が主体なので生きる
    対象は夫である。夫のいない時の寂しさを
    詠んでいます。

 注・・ますらを=勇ましい男子。立派な人。
    騒ぎ=騒ぐこと、遊興。
    慰もる=慰める。
 
出典・・万葉集・2571。


*************** 名歌鑑賞 ****************


思ふぞよ 故郷遠き 旅寝して 霰降る野に
あられける身を
               後水尾院
            
(おもうぞよ ふるさととおき たびねして あられふる
 のに あられけるみを)

意味・・思うことだよ、故郷を遠く離れて旅寝をして、
    霰の降る野にもいる事の出来る我が身を。

    過酷な旅にも耐えられる自分を再発見した気持
    です。

作者・・後水尾院=ごみずのおいん。1596~1680。10
    8代天皇。
 
出典・・御着至百首(小学館「近世和歌集」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


ひいき目に 見てさえ寒き そぶりかな    
                      一茶

(ひいきめに みてさえさむき そぶりかな)

意味・・どうひいき目に見ても、自分の姿は寒そうで
    みすぼらしい様子をしていることだ。
    でも今に見ていろ頑張るぞ。

    一茶の劣等感を詠んだ句です。しかしこの劣等
    感には不幸不運に耐えて力強く生きて行こうと
    いう強靭さ、雑草のように踏みつけられ、引き
    抜かれても、なおかつたくましく生きる精神が、
    この句の底に流れています。

 注・・寒きそぶり=たんに寒いというのでなく、
     みすぼらしさの意をふくんでいる。
 
作者・・一茶=いっさ。小林一茶。1763~1827。3歳で
    生母に死別し継母と不和のため、15歳で江戸に
    出て奉公生活に辛酸をなめた。
 
出典・・一茶発句集。


*************** 名歌鑑賞 ****************

ひと夜寝て 憂しとらこそは 思ひけめ 浮き名
立つ身ぞ わびしかりける
                            詠人知らず
              
(ひとよねて うしとらこそは おもいけめ うきな
 たつみぞ わびしかりける)

意味・・ただ一夜共寝をして、きっと私のことを嫌だと
    思ったのだろう。あの人はその後訪れて来ない
    が、一夜だけで評判が立った自分の身を思うと
    わびしいことである。

    「物名歌」で、十二支の前半の「子・丑・寅・
    卯・辰・巳」の名が入っています。

 注・・寝て=「寝」に「子」を掛ける。
    憂しとら=「憂し・とら」に「丑・寅」を掛け
     る。「ら」は語調を整える接尾語。
    けめ=「けむ」の已然形。・・したのだろう。
    浮き名立つ身=「浮・立つ・身」に「卯・辰・
     巳」を掛ける。

出典・・拾遺和歌集・429。


*************** 名歌鑑賞 ***************


むまれより ひつしつくれば 山にさる ひとり
いぬるに 人いていませ
                  詠み人知らず
              
意味・・生れた時から櫃(ひつ)を作っているので、
    これから山に去って行く。一人で行くのは心
    もとないから人を連れていきなされ。

    「幼いけれども、己が業なので櫃を作るため
    これから山に材木を取りに行きます」。
    「一人で行くのは心もとないので人を連れて
     行きなされ」。

    「物名歌」で、十二支の後半の「午・未・申・
    酉・戌・亥」の名が入っています。

 注・・む(う)まれ=生まれ。「むま」に「午」を掛け
     る。
    ひつし=櫃し。ご飯を入れる大きな丸い木の器。
     「ひつし」に「未」を掛ける。「し」は意味
     を強調する語。
    山にさる=山に去る。「さる」に「申」を掛
     ける。
    いぬる=往ぬる。行ってしまう。「いぬ」に
     「戌」を掛ける。
    人いていませ=人率て座せ。「い」に「亥」
     を掛ける。
 
出典・・拾遺和歌集・430。


*************** 名歌鑑賞 ****************


冬の来て 山もあらはに 木の葉降り 残る松さへ
峰に寂しき       
                  祝部成茂

(ふゆのきて やまもあらわに このはふり のこる
 まつさえ みねにさびしき)

意味・・冬が来て、山も地肌がはっきりと見えるまでに
    木の葉が散り、散らないで残っている松までも
    峰に寂しく見えることだ。

    全山、紅葉が散りつくし、地肌があらわになっ
    た中に残る松。そこに見た寂しさを詠んでいま
    す。

 注・・あらは=丸見えであるさま。

作者・・祝部成茂=はうりべのなりもち。1180~1254。
    丹後守・従四位。

出典・・新古今和歌集・565。 


*************** 名歌鑑賞 ****************


このくれは いつのとしより うかりける ふる借銭の
山おろしして    
                    唐衣橘洲

(このくれは いつのとしより うかりける 
 ふるしゃくせんの やまおろしして)

意味・・この暮れは、いつの年よりも情けなくつらい
    思いをした。古い借銭の催促がまるで山おろ
    しの風のように、はげしくやってきたので。

    本歌の「はげしかれとは祈らぬものを」の気
    持を含めています。本歌を参照して下さい。

 注・・としより=「年より」と「俊頼」を掛ける。
    うかりける=憂かりける。つらい、情けない。
     俊頼の「憂かりける人を初瀬の山おろしよ
     はげしかれとはいのらぬものを」を利かし
     ている。
    山おろしして=山から吹きおろす風のように、
      はげしく責め立てる。

作者・・唐衣橘洲=からころもきっしゅう。1743~18
    02。江戸時代の狂歌の創始者。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。

本歌です。

憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは
祈らぬものを          
                  源俊頼

(うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげし
 けれとは いのらぬものを)

意味・・つれなかった人をどうか私になびかせてくださいと
    初瀬の観音に祈ったのだが。初瀬山から吹き降ろす
    山風が激しく吹きすさぶように、ますます薄情にな
    れとはいのらなかったのに。

    片想いのあの人のことを、長谷の観音さまにお祈り
    をした。そよ風のように私にほほえんでくれるよう
    にと。それなのに、なぜ・・そよ風吹かぬ心の荒野
    を淋しい風が吹き抜けている。

    ままならぬ恋を詠んだ歌です。
    つれない相手の心がなびくように初瀬の観音に祈った。
    しかし、その思いは通じるどころか、相手はいよいよ
    冷たくあたるようになったというのです。

 注・・憂し=まわりの状況が思うにまかせず、気持ちがふさ
     いでいやになること。
    初瀬=奈良県にある地名。長谷寺の11面観音がある。
    やまおろし=山から吹きおろす冷たく激しい風。
 
作者・・源俊頼=みなもとのとしより。1055~1129。金葉和
    歌集の撰者。
 
出典・・千載和歌集・708、百人一首・74。

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