名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年02月


*************** 名歌鑑賞 ****************


梅の花 散らまく惜しみ 我が園の 竹の林に 
うぐひす鳴くも     
                 安氏奥島

(うめのはな ちらまくおしみ わがそのの たけの
 はやしに うぐいすなくも)

意味・・梅の花の散るのを惜しんで、この我が園の竹
    林で、鶯がしきりに鳴いている。

 注・・まく=推量の助動詞「む」の未然形に接尾語
    「く」がついたもの。・・・だろう。
    鳴くも=「も」は詠嘆を表す。鳴いているなあ。

作者・・安氏奥島=あじのおきしま 。752年ころの人。

出典・・万葉集・824。


*************** 名歌鑑賞 ****************


むかし見し 主顔にて 梅が枝の 花だにわれに
物語せよ
                藤原基俊
              
(むかしみし あるじがおにて うめがえの はなだに
 われに ものがたりせよ)

詞書・・公実卿(きんざねきょう)かくれ侍りて後、かの家
    にまかりけるに、梅の花盛りに咲けるを見て枝に
    結び侍りける。

意味・・昔見たこの家の主のような態度で、梅の枝の花よ、
    せめて私に話しかけてくれ。

    実際は梅の花ではなく遺族に語りかけています。
    大黒柱の主人が亡くなり、大変困っていることで
    しよう。なにかあれば相談にのりますよ、どんな
    ことでもおっしゃってください、ということを言
    っています。

 注・・主顔=主は公実卿。
    だに=最小限の希望を表す。せめて・・だけでも。
    公実卿=藤原公実(1053~1107)・権大納言。
    かくれ侍りて=お亡くなりになって。

作者・・藤原基俊=ふじわらのもととし。1060~1142。
    従五位上・左衛門佐。「新撰朗詠集」編纂など
    和漢に通じた。

出典・・金葉和歌集・604。


*************** 名歌鑑賞 ****************


いささめに 時待つまにぞ 日は経ぬる 心ばせをば
人に見えつつ
                   紀乳母
             
(いささめに ときまつまにぞ ひはへぬる こころ
 ばせおば ひとにみえつつ)

意味・・ついうっかり、よい機会があろうかと、ため
    らっているうちに、月日は経過してしまった。
    私の気持ちだけは先方に知らせておきながら。

    親元離れた子供が、もうすぐ家に帰って来る
    と言っているものの、まだ実現してないよう
    な状況です。

    物名歌で「ささ・まつ・びわ・ばしょう」を
    入れて詠んだ歌です。

 注・・いささめに=かりそめに、ほんの少し。「さ
     さ」が隠される。
    心ばせ=相手に対する好意。
    人に見えつつ=相手の目に入れるている。

作者・・紀乳母=きのめのと。生没年未詳。従五位上。
    陽成天皇乳母。

出典・・古今和歌集・454。


*************** 名歌鑑賞 ****************


はかなくて またや過ぎなん 来し方に かへるならひの
ある世なりとも         
                   兼好法師

(はかなくて またやすぎなん こしかたに かえる
 ならいの あるよなりとも)

意味・・過ぎてきた今までに再びかえる習わしが
    たとえこの世にあったとしても、やっぱ
    りまた、なんとなしにはかなく日々を過
    ごすであろうか。

    もし、生れ返って来れたなら、今までと
    違った生き方をするのだろうか。

 注・・はかなく=たいしたこともない、むなしい。

作者・・兼好法師=けんこうほうし。吉田兼好。12
    83~1352。鎌倉時代から南北時代の歌人。
    著書「徒然草」。

出典・・岩波文庫「兼好法師家集」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


咲いたって 散るわ変る値 撤退さ  
                    嶋村桂一

(サイタッテ チルワカワルチ テッタイサ)

意味・・美しく咲いた花は散るものだ。最盛期もいつか
    は過ぎてしまう。その時はいさぎよく後進の者
    に譲ろう。

    回文となっています。

    左遷されたり出向した時の慰めでもあります。

    次の歌の気持と似ています。

    「いざさくら我も散りなむひとさかりありなば
     人に憂きめ見なむ」  (意味は下記参照)

 注・・変る値=この前に、「最高になると」の言葉を
     補う。最盛期が過ぎると。

作者・・嶋村桂一=しまむらけいいち。詳細未詳。回文
    作家。 

出典・・嶋村桂一著「回文川柳辞典」。

参考歌です。

いざさくら 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に
憂きめ見えなむ       
                   承均法師

(いざさくら われもちりなん ひとさかり ありなば
 ひとに うきめみえなん)

意味・・さあ桜の花よ。おまえが潔く散るように、私も
    いつかは散り果てよう。物事はひとたび盛りの
    時があると、その後できっと人にみじめな姿を
    見られるだろうから。

 注・・ひとさかり=一時の盛り。最盛期。
    憂きめ=つらいこと。みじめなこと。

作者・・承均法師=ぞうくほうし。880年頃の僧。

出典・・古今和歌集・77。


*************** 名歌鑑賞 ****************


色香をば 思ひもいれず 梅の花 つねならぬ世に
よそへてぞ見る         
                花山院

(いろかをば おもいもいれず うめのはな つねならぬ
 よに よそへてぞみる)

意味・・梅の花の色香のすばらしさよ、しかし私は
    そのすばらしさにひかれて執着するのでは
    ない、花の咲き散る姿に無常な人間の世を
    なぞらえて見ることだ。

    花山天皇は在位2年で王位を捨てて出家し
    て詠んだ歌です。美しい梅の花にも、やが
    て散るその姿に無常の思いを浮かべていま
    す。
    下記「いろは歌」を参考にして下さい。

 注・・思ひもいれず=深く思い込まない。
    よそへて=なぞらえる、たとえる。
    つねならぬ=はかない、無常だ、世の中に
     あるすべての物は絶え間なく生滅変化し、
     永久不変でないこと。

作者・・花山院=かざんいん。968~1008。65代
    天皇。19歳で出家した。拾遺和歌集の撰者。

出典・・新古今和歌集・1445。

参考です。

  色はにほへど 散りぬるを
  我が世たれぞ 常ならむ
  有為の奥山  今日越えて
  浅き夢見じ  酔ひもせず

  自分はかって栄光の座で華やかに生きていた
  事もあったが、それはもはや遠い過去のもの
  となってしまった。この世の明日は分らない。
  自分に代わって、今栄光を極める者も、今に
  どうなるのか分らないのである。生死の別れ
  目の厳しい運命の時を迎えた今日、自分はも
  う何の夢を見る事も無いし、それに酔う事も
  ない。
      


*************** 名歌鑑賞 ****************


岩代の 結べる松に ふる雪は 春もとけずや 
あらんとすらむ
               中納言女王
           
(いわしろの むすべるまつに ふるゆきは はるも
 とけずや あらんとすらん)

意味・・岩代の結び松に降る雪は、その名の通り結ばれた
    まま、春になっても解けないのだろうか。

    有間皇子が次の歌を詠んだが、皇子は処刑された
    ので、結び松を再び見る事が出来ずに、結ばれた
    ままとなった。

    盤代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば 
    また還り見む    (意味は下記参照)
             
 注・・岩代=磐代。和歌山県日高郡南部町岩代。
    結べる松=枝を引き結ばれた松。旅路の無事を
     願うために行う。

作者・・中納言女王=ちゅうなごんのにょうおう。源式部。
    生没年未詳。後三条院乳母。

出典・・金葉和歌集・286。

参考歌です。

盤代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば 
また還り見む
               有間皇子
             
(いわしろの はままつがえを ひきむすび まさきく
 あらば またかえりみむ)
 
意味・・盤代の浜松の枝を結んで「幸い」を祈って行く
    が、もし無事であった時には、再び帰ってこれ
    を見よう。

    有間皇子は反逆の罪で捕えられ、紀伊の地に
    連行され尋問のうえ処刑されたが、この道中で
    詠んだ歌です。

    松の枝を引き結ぶのは、旅路などの無事を祈る
    まじないです。

 注・・盤代=和歌山県日高郡岩代の海岸の地名。
    真幸(まさき)く=無事で(命が)あったなら。

出典・・万葉集・141。


*************** 名歌鑑賞 ****************


しわくちゃの みんなの笑顔に 会えるから 今日もくぐるよ
定時制の門                
                    
(しわくちゃの みんなのえがおに あえるから きょうも
 くぐるよ ていじせいのもん)

意味・・ここでは、置かれた立場が似ているので、嬉しい事、
    悲しみや苦しい事、何でも口に出すと、理解し力に
    なってくれる皆がいる。笑い合える皆がいる。
    昼間の仕事が終わってからの勉強は辛いが、そんな
    友の顔を見たさに、今日も定時制の門をくぐるんだ。



*************** 名歌鑑賞 ****************


としどしの としはかたちに ゆづりやりて 心にとしは 
とらせずもがな
                     大屋裏住
               
(としどしの としはかたちに ゆずりやりて こころに
 としは とらせずもがな)

意味・・年毎に加える齢(よわい)は、外見の形の方にゆずり
    やって、心には年をとらせたくないものだ。

    肉体の老衰はまぬがれないものとしても、精神年齢
    はいつまでも若く、みずみずしくありたいと誰しも
    の願いを歌っています。

    「とし」と「と」の重複も快いひびきをだしている。

 注・・かたち=姿形。外貌。
    もがな=希望の助詞。

作者・・大屋裏住=おおやのうらすみ。1734~1810。日本
    橋の裏長屋に住み大屋をしていた。

出典・・万代狂歌集(小学館「日本古典文学全集・狂歌」)



*************** 名歌鑑賞 ****************


数ならぬ しづが垣根の 梅が枝に 身をうぐひすの
音をのみぞなく
                 大納言北の方

(かずならぬ しずがかきねの うめがえに みを
 うぐいすの ねをのみぞなく)

意味・・人数にも入らない身分賎(いや)しい私の家の
    垣根の梅の枝に、鶯が来て鳴いていますが、
    私も鶯のように、我が身を辛いと思って、声
    を挙げて泣いています。

    辛いのは病弱の身だけではないが・・。

 注・・うぐひす=「う」は「鶯」と「憂」を掛ける。
    なく=「泣く」と「鳴く」を掛ける。

作者・・大納言北の方=物語の登場人物。北の方は貴
     人の妻。

出典・・樋口芳麻呂著「王朝物語秀歌選」。

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