名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年03月


*************** 名歌鑑賞 ****************


雪しろの かかる芝生の つくづくし  
                    良寛

(ゆきしろの かかるしばうの つくづくし)

意味・・雪どけの水があふれて、荒地の草の間から
    生えたつくしまで覆っているが、つくしは
    水に負けず、力強く頭を持ち上げているこ
    とだ。

    良寛の住んでいた当時の越後は、水害の連
    続であった。雪融け、梅雨末期、秋の長雨
    に農民は苦労していた。
    小川や田からあふれた水は、道を覆い草を
    覆ってしまう。しかし、春の大地は力強い。
    水の中からつくしが伸び蕗(ふき)のとうが
    頭を持ち上げる。そうした生命力に良寛は
    感嘆して詠んでいます。そして、農民の努
    力にも。

 注・・雪しろ=雪どけの水。
    芝生(しばう)=荒地や道の端に生えた雑草。
    つくづくし=つくし。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川敏郎著「良寛句全集」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


見わたせば 山もとかすむ 水無瀬川 夕べは秋と
なに思ひけむ       
                  後鳥羽院

(みわたせば やまもとかすむ みなせがわ ゆうべは
 あきと なにおもいけん)

意味・・見渡すと山の麓が霞み、そこを水無瀬川が流
    れている眺めは素晴らしい。夕べの趣は秋に
    限ると、どうして思っていたのであろうか。

 注・・山もと=山の麓。
    水無瀬川=大阪府三島郡を流れる川。淀川の
     支流。
    夕べは秋と=夕暮れの趣は秋が優れていると。

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。82代
    天皇。鎌倉幕府打倒を企てたが、破れて隠岐
    に流された。

出典・・新古今和歌集・36。



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汝や知る 都は野辺の 夕ひばり あがるをみても
落つる涙は
                飯尾彦六左衛門尉
           
(なれやしる みやこはのべの ゆうひばり あがるを
 みても おつるなみだは)

意味・・この京都は大乱で全く焼け野原になってしまい、
    そこから夕ひばりは空へさえずって上がって行く
    が、それを見ても落ちる私の涙を、夕ひばりよ、
    お前は知っているか。

    応仁の乱は、京都で、1467年から1477年まで10
    年余り続き、邸宅・町屋・名所古跡はあらかた灰
    になってしまった。それを見て嘆いた歌です。

 注・・汝や知る=「や」は疑問の係助詞。
    落つる涙は=「は」は叙述を強める助詞。

作者・・飯尾彦六左衛門尉=いいおひころくざえもんの
    じょう。生没年未詳。十五世紀の人。
 
出典・・応仁記(福武書店「名歌名句鑑賞辞典」)


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思はぬを 思ふと言はば 大野なる 三笠の社の
神し知らさむ
                 大伴百代

(おもわぬを おもうといわば おおのなる みかさの
 もりの かみししらさむ)

意味・・あなたのことを思ってもいないのに、「あなた
    を恋している」と嘘を言ったりすれば、嘘いつ
    わりに厳しい大野にある三笠の神さまがお見通
    しで、罰が与えられるでしょう。あなたを慕う
    私の気持ちは真実なのです。

    大伴百代が坂上朗女(いらつめ)に贈った恋の歌
    です。

 注・・大野なる三笠の社=福岡県大野城市にあった社。

作者・・大伴百代=おおとものももよ。730年頃の人。豊
    前守。

出典・・万葉集・561。


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人問はば 見ずとやいはむ 玉津島 かすむ入江の 
春のあけぼの         
                 藤原為氏

(ひととわば みずとやいわん たまつしま かすむ
 いりえの はるのあけぼの)

意味・・人が尋ねたなら「見ませんでした」と言おうか。
    この玉津島のある入江に霞のかかった春の曙の
    景色を。言葉でとうていこの美しさを言い表す
    ことは出来ないから。

     この歌に逸話が残っています。
    為氏は第二句を「見つといはん」(はい見ました
    よ、と言おう)として作ったが、父の為家に見せ
    ところ、「つ」の横に「す」と書いて返された
    のでこう改めて歌の会に出すと、賞賛されたと
    いう。
    たった一字の違いで歌を大きく変えています。

 注・・玉津島=紀伊の和歌の浦にあった小島。
    あけぼの=曙。夜がほのぼのと明ける頃。

作者・・藤原為氏=ふじわらためうじ。1222~1286。
    正二位権大納言。

出典・・続後撰和歌集(福武書店「名歌名句鑑賞辞典」)


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かへるべき ほどをかぞへて 待つ人は すぐる月日を
うれしかりける
                   源隆綱
              
(かえるべき ほどをかぞえて まつひとは すぐる
 つきひを うれしかりける)

意味・・(京に)お帰りになるはずの月日を指折り数えて
    待っている私には、いつも惜しい月日も過ぎて
    行くのがいっそ嬉しく思われますよ。

    恋の部に入っている歌です。好きな人と逢える
    日が早く来ないかと楽しみにして待っていると、
    日頃は月日が早く経つと嘆いているが、この時
    ばかりは時間が早く経つのは嬉しい。

 注・・ほど=時分、時間、月日。

作者・・源隆綱=みなもとのたかつな。1033~1074。
    正三位・左近中将。

出典・・後拾遺和歌集・727。


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故里と なりにしならの 都にも 色はかはらず 
花は咲きにけり 
                奈良帝

(ふるさとと なりにしならの みやこにも いろは
 かわらず はなはさきにけり)

意味・・すでに廃都となった荒涼たる平城京なので、
    今では昔の面影がなくなったけれど、花とい
    うものは、色は変らずに昔と同じように咲く
    ものだ。
    
    嵯峨天皇と不和にになり、退位後に奈良に戻
    って住むようになり、退位前の昔を偲んで詠
    んだ歌です。

 注・・故里=ここでは昔の首都。
    ならの都=かっての平城京。今の奈良市の位
     置。

作者・・奈良帝=ならのみかど。807頃の平城天皇と
    言われている。
 
出典・・古今和歌集・90。


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いづくにか 世をば厭はむ 心こそ 野にも山にも
まどふべらなり
                 素性法師

(いずくにか よをばいとわん こころこそ のにも
 やまにも まどうべらなり)

意味・・私は世を厭いきらって、いったいどこに逃れ
    たらいいのだろうか。身は世を隠れ住む所が
    あろうとも、私の心はいずこの山や野にも落
    ち着かず、さ迷い歩くに違いない。

    今いる所を嫌がって逃れても、心は満足しな
    いだろう、ということを言っています。

    桃源郷と思って行った所がまた地獄、結局今
    いる所が桃源郷。

作者・・素性法師=そせいほうし。909年頃没。僧正
    遍照の子。

出典・・古今和歌集・947。


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おほわだ波 うちあがり 岩をのりこゆる そのくりかへし
心に沁む        
                    鹿児島寿蔵

(おおわだなみ うちあがり いわをのりこゆる その
 くりかえし こころにしむ)
  
意味・・湾の中で波が岩に打ち上がり、乗り越えて白波を
    立てている。その永遠の繰り返しを思い、顧みる
    と、人の存在する短い時間をしみじみと思うのだ。
    
    老妻を失った晩年の作です。
 
 注・・おほわだ=大曲。海の湾入した所。

作者・・鹿児島寿蔵=かごしまじゅうぞう。詳細未詳。
 



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憂きことの なおこの上に 積もれかし 限りある身の
力試さん
                   熊沢蕃山

(うきことの なおこのうえに つもれかし かぎり
 あるみの ちからためさん)

意味・・つらいことがこの身に降り掛かるなら降り掛かれ。
    限りある身だけれど、自分の持てる限りの力で、
    どこまで出来るか試してみようではないか。

作者・・熊沢蕃山=くまざわばんざん。1619~1691。陽明
    学者。岡山藩主の池田光政に仕える。著書「源氏外
    伝(源氏物語の注解書)」。

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