名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年04月


*************** 名歌鑑賞 ****************


青海の ありとは知らねで 苗代の 水の底にも
蛙鳴くなり
                       長尾為景

(あおうみの ありとはしらねで なわしろの みずの
 そこにも かわずなくなり)

意味・・青い広々とした海があるということも知らずに、
    狭い苗代の水の底でも蛙は満足して鳴いている。
    
    関ヶ原合戦の顛末を記した「関ヶ原軍記大成」を
    著わした時に、巻尾にこの歌を記したものです。

   「井の中の蛙大海を知らず」を踏まえた歌で、私が
    書いた本は「見識が狭い本です」と、謙遜して付
    けたタイトルとなっています。

作者・・長尾為景=なかおためかげ。1489頃~1543頃。
    上杉謙信の父。

出典・・「関ヶ原軍記大成」(綿抜豊昭著「戦国武将の歌」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


風ふけば 波のあやをる 池水に 糸ひきそふる 
岸の青柳
                      源雅兼  
        
(かぜふけば なみのあやおる いけみずに いとひき
 そうる きしのあおやぎ)

意味・・風が吹くと、綾織物のように波立っている池の
    水に、糸を引き加えるように吹き寄せられてい
    る岸辺の青柳だなあ。

    池の水が波紋を描いている美しい景色に加えて、
    清々しい若葉の柳が揺れているさまを詠んでい
    ます。

 注・・あや=波の紋様、綾織物に見立てる。

作者・・源雅兼=みなもとのまさかね。1079~1143。
    権中納言。

出典・・金葉和歌集・25。


*************** 名歌鑑賞 ****************


わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
                        紫式部

(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
 みをや おもいすつべき)

意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
    うてあってくれないのは。

    宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
    澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。

    味方になってくれる人は「何を言われても素知
    らぬ顔で受け流しなさい、いじめて喜んでいる
    人は一部の人にすぎないから」と言ってくれる
    が・・。

 注・・わりなし=つらい。無理もない、やむをえない。
    人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
     間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
     の未然形。「め」は卑下する語。
    みづから=その人自身、当人。
    身=自分、我が身。
    思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
    女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
     位の女官。
    うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
     方言。

作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏
    物語」の作者。

出典・・ライザー・ダルビー著「紫式部物語」。

この歌の解釈の仕方、参考です。

「わりなしや 人こそ人と 言わざらめ」
直訳すると、
仕方がない事だ、人は自分の事を普通の人と言わないだろうが。

仕方のない事だ、どうせ私は普通の人の扱いをしてもらえないから、

つらいことだ、私は仲間外れにされて。

「みづから身をや思ひ捨つべき」
直訳すると、
みずから我が身を見捨てる事が出来ようかいや出来ない。

私は自分を見捨てる事は出来ない。自分なりに生きて生きたい。

人に相手にされなくても生きて行こう。

つらい事だ、人に相手にされないことは。
以上のように、直訳して翻訳という経路を取りました。



*************** 名歌鑑賞 ****************


わたの原 波にも月は 隠れけり 都の山を
何いとひけん         
                      西行

(わたのはら なみにもつきは かくれけり みやこの
 やまを なにいといけん)

意味・・海路の旅では山のように高くない波にも、
    月は隠れてしまった。それなのにどうして
    都の山を月を隠すといっていやになったの
    だろう。

    西行が厭世気分になり出家直後の気持ちを
    詠んだ歌です。青い鳥(幸せ)は身近な所に
    いるという事を詠んでいます。

 注・・わたの原=大海、海原。
    波にも=遮る山もない海上の波にも。
    いとふ=嫌う、世を避ける。
    厭世(えんせい)=希望をなくし生きるのが
     嫌になること。

作者・・西行=1118~1190。鳥羽院の北面武士で
    あったが、23歳で出家。新古今集に一番
    多く入首。
 
出典・・山家集・1102。


*************** 名歌鑑賞 ****************


道のべの 朽木の柳 春来れば あはれ昔と
しのばれぞする    
                     菅原道真

(みちのべの くちきのやなぎ はるくれば あはれ
 むかしと しのばれぞする)

意味・・道のほとりの朽ち木の柳は、春が来ると、
    ああ、昔はさぞ美しく茂ったことであろう
    と思われることだ。
    作者自身の境遇を顧みて詠んでいます。

 注・・朽木の柳=ほとんど枯れかかった柳の木。
     左遷されて世に埋もれている自分の姿を
     見ている。
    あはれ昔としのばれぞする=ああ、昔はさ
     ぞ美しく茂った事であろう。世に時めい
     ていた頃の自分の追懐をこめている。

作者・・菅原道真=すかわらのみちざね。845~903。
    従二位右大臣。大宰権帥(そち)に左遷された。

出典・・新古今和歌集・1449。


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誰見よと 花咲けるらむ 白雲の たつ野とはやく 
なりにしものを             
                      詠み人知らず

(たれみよと はなさけるらむ しらくもの たつの
 とはやく なりにしものを)

意味・・いったい誰に見よといって、この花は咲いて
    いるのであろうか。すでに住む人もなくなり、
    白雲のかかるような野原となってしまったの
    に。
    
    荒れ野になってしまった庭を見て昔を偲んで
    詠んだ歌です。
    現在も空き家が多く見られます。

 注・・はやく=早くも、もう、すでに。
    白雲のたつ野=白雲が湧き立つ野原。
    なりにしものを=主語は庭と解釈。 

出典・・古今和歌集・856。



*************** 名歌鑑賞 ****************


かくしつつ いつをかぎりと 白真弓 おきふしすぐす
月日なるらん        
                       兼好法師

(かくしつつ いつをかぎりと しらまゆみ おきふし
 すぐす つきひなるらん)
 
意味・・いつ生命が終わるとも知らないで、このように
    安閑と起きたり寝たりして月日を過ごすのであ
    ろうか。

    やるべき事、やりたい事が特に無く、時間をも
    てあまし、だらだらと無為な時間を過ごす反省
    を詠んでいます。
    
 注・・かぎり=限界、臨終。
    白真弓=檀(まゆみ)の木で作った弓。起き伏し
      の枕詞。「知ら」が掛かる。

作者・・兼好法師=1283~ 1352。「徒然草」が有名。

出典・・岩波書店「兼好法師家集」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


願はくは われ春風に 身をなして 憂ある人の
門をとはばや    
                       佐々木信綱

(ねがわくは われはるかぜに みをなして うれい
 あるひとの かどをとわばや)

意味・・願うことには、どうか我が身をかろやかな春
    風と化して、憂いを抱いている人の門べに訪
    れて、その悲しみの気持ちをまぎらわしてあ
    げたいものだ。

    作者の自注に「人の心の深く秘められた憂悶
    を聞けることは、歌道の徳の一つであるとい
    う当時の信念から歌ったものである」とあり
    28歳の時の作です。

作者・・佐々木信綱=ささきのぶつな。1872~1963。
    東京帝大古典科卒。

出典・・歌集「思草」(笠間書院「和歌の解釈と鑑賞辞
    典」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


昔とは 遠きをのみは 何かいはん 近き昨日も
けふはむかしを    
                       永福門院

(むかしとは とおきをのみは なにかいわん ちかき
 きのうも きょうはむかしを)

意味・・昔というのは、遠い過去のことだけと、
    どうしていえようか。近い昨日にしても
    今日になってみれば過ぎ去ってしまった
    昔に変りはないのに。

    昨日が積もって遠い昔になる。

    蕪村の句、参考です。

    「遅き日のつもりて遠き昔かな」
           (意味は下記参照)

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~13
    42。藤原実兼(さねかね・太政大臣)の娘。
    伏見天皇の中宮。

出典・・永福門院百番御歌合(岩波書店「中世和
    歌集・鎌倉篇」)

参考句です。

遅き日の つもりて遠き むかしかな    
                          蕪村

意味・・日の暮れの遅い春の一日、自然と思いは過去に
    向う。昨日もこんな日があり、一昨日もこんな
    日であった。こんな風にして、過去の一日一日
    も過ぎていった。やがて来る残り少ない未来の
    ある一日も、このようにして昔となってゆくの
    だろう。

 注・・つもり=積り、一日一日が積って過去になる。

作者・与謝蕪村=1716~1783。池大雅と共に南宗画の
   大家


*************** 名歌鑑賞 ****************


水の面に 綾織り乱る 春雨や 山の緑を 
なべて染むらん 
                     伊勢

(みずのおもに あやおりみだる はるさめや やまの
 みどりを なべてそむらん)

意味・・池水の表面に美しい模様を織り散らす春雨が、
    山のあの美しい緑をすべて染めだしているの
    であろうか。

    池水の波紋は織物、遠く山一面の緑は染物、
    いずれも春雨の美しい工芸と見立てたもの。

 注・・綾織り=美しい模様を織った織物。
    なべて=一面に、おしなべて、すべて。

作者・・伊勢=いせ。生没未詳、940年ごろ生存。
    大和守藤原継陰の娘。36歌仙の一人。

出典・・新古今和歌集・65。

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