名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年05月


*************** 名歌鑑賞 ****************


今ははや 恋ひ死なましを あひ見むと 頼めしことぞ
命なりける
                   清原深養父
            
(いまははや こいしなましを あいみんと たのめし
 ことぞ いのちなりける)

意味・・今頃はもうとっくに、ほんとうなら、恋焦がれて
    死んでいたであろうに。「そのうちに逢いましょ
    う」と、私を頼みに思わせた言葉が、今まで私を
    生き長らえさせてくれたのだ。

 注・・今ははや=今は直ちに。
    恋ひ死なましを=恋こがれて死んでいたであろう
     に。
    あひ見む=逢いましょう、相手の言った頼め言。
    頼めし=期待させる。

作者・・清原深養父=きよはらのふかやぶ。930年頃活躍
    した人。清少納言の曾祖父。

出典・・古今和歌集・613。


*************** 名歌鑑賞 ****************


須磨寺や ふかぬ笛きく 木下やみ   
                      芭蕉

(すまでらや ふかぬふえきく こしたやみ)

意味・・この須磨寺の、青葉小暗い木立の中にただずむと、
    昔のことが偲(しの)ばれる。そしてあの平敦盛(
    あつもり)の吹く青葉の笛の音がどこからか聞こ
    えてくるように思われることだ。

    青葉の笛は明治の唱歌になっています。
    https://www.youtube.com/watch?v=q8zBc9cJOok

    一の谷の 戦敗れ
    討たれし平家の 公達(きんだち)あわれ
    暁寒き 須磨の嵐に
    聞こえしはこれか 青葉の笛

 注・・須磨寺=神戸市須磨寺町にある福祥寺の通称。
     寺には平敦盛が夜毎に吹いたという青葉の笛
     が保存されている。
    平敦盛=笛の名手として鳥羽院より青葉の笛を
     賜った。17才で平家の一門として一の谷の闘
     に加わった。源氏側の奇襲で劣勢になり船に
     逃れようとした時、熊谷直実に討たれた。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1699。

出典・・笈の小文。


*************** 名歌鑑賞 ****************


思ひ出よ みちははるかに なりぬとも 心のうちは
山もへだてじ
                   源道済
             
(おもいいでよ みちははるかに なりぬとも こころの
 うちは やまもへだてじ)

意味・・私のことを思いだしてください。道は遠くなって
    二人の間は隔たったとしても、心の中はどんな山
    だって隔てないでしょう。私もひたすらあなたの
    ことを思っています。

    親しい人と分かれて遠くに行く時に詠んだ歌です。
    遠くに離れて行ってもあの人(尊敬する人)が自分
    の事を思っていてくれると思うと元気になります。

作者・・源道済=みなもとのみちなり。~1019。筑前守・
    正五位下。

出典・・後拾遺和歌集・484。


*************** 名歌鑑賞 ****************


心だに いかなる身にか かなふらむ 思ひ知れども
思ひ知られず      
                                          紫式部 

(こころだに いかなるみにか かなうらん おもい
 しれども おもいしられず)

意味・・私の気持ちの中で、どんな身の上になった
    らいいのだろう。どんな境遇にいても思い
    通りにならないとは知っているけれど諦め
    きれない。
    
    自分で満足のいく身の上というようなもの
    など、ありはしない。それは承知している
    けれど、諦めきれるものではない。

    他人が羨望するような良い所に就職出来た
    ものの、その中での人間関係が上手く行か
    ない。自分の思い通りになれるものではな
    いと、分かっていても不条理を何とかなら
    ぬかと諦めきれない、というような気持ち
    を詠んでいます。
    
 注・・心だに=(嘆く)心の中でも。気持ちの中で。
    いかなる身にか=どんな境遇の身であって
     も。
    かなふ=適ふ、思いどおりになる。
    思ひ知れども=道理などをわきまえる、悟
     る。どんな境遇になったとしも思い通り
     にならないと知っているけれど。
    思ひ知られず=理解できない、悟れない、
     諦めきれない。

作者・・紫式部=973頃~1019頃。藤原為時の娘。
    「源氏物語」「紫式部日記」の作者。

出典・・ライザ・ダルビー著「紫式部物語」。 


*************** 名歌鑑賞 ****************


春をだに 知らで過ぎぬる 我が宿に 匂ひまされる
花を見るかな            
                  風葉和歌集

(はるをだに しらですぎぬる わがやどに におい
 まされる はなをみるかな)

意味・・春の訪れさえ知らないで過ぎて来た私の家に
    まことに美しく咲く花を見ることです。

    浪人の息子が有名大学に合格した時の嬉しさ
    のような気持ちを詠んでいます。

 注・・風葉和歌集・・1271年に、源氏物語・うつほ
     物語・狭衣物語・・など200余りの物語に出
     てくる和歌を集めた歌集。

出典・・風葉和歌集。


*************** 名歌鑑賞 ****************


事足れば 足るにもなれて 何くれも 足るがうちにも
なほなげくかな      
                  源定信

(ことたれば たるにもなれて なにくれも たるが
 うちにも なおなげくなり)

意味・・ある欲望を持ち、それが実現したらいいと思って
    いる。それが実現し慣れてくると当たり前になる。
    実際はそれで満足のはずだがまた次の欲望が出
    てくる。それが実現できないと嘆き悲しむものだ。
   
    欲望があれば向上心が生まれ、努力する。この意
    味の欲望は良い事だ。でも、人の欲望にはきりが
    無いので、ある程度の欲望に満足出来ないと不満
    となる。

 注・・何くれ=なにやかや、あれやこれや。

作者・・源定信=みなもとのさだのぶ。生没年未詳。1102
    年出家。

出典・・山本健治著「三十一文字に学ぶビジネスと人生
    の極意」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


花のごと 世の常ならば 過ぐしてし 昔はまたも
かへりきなまし           
                  詠み人知らず

(はなのごと よのつねならば すぐしてし むかしは
 またも かえりきなまし)

意味・・花が毎年咲くように、人の世が変わらず
    常にあるものならば、すでに過ぎ去って
    しまった楽しかった私の過去だって、も
    う一度ぐらい帰って来てくれればいいの
    に。

 注・・世の常ならば=人の世が常住不変ならば。
     散りやすい花を、この歌では毎年咲く
     から常住とみている。
    きなまし=きっと来ようものを。「な」
     は完了の助動詞、「まし」は反実仮想
     の助動詞。

出典・・古今和歌集・98。


*************** 名歌鑑賞 ****************


朝露の 消やすき我が身 他国に 過ぎかてぬかも
親の目を欲り      
                大伴熊擬

(あさつゆの けやすきわがみ ひとくにに すぎかてぬ
 かも おやのめをほり)

意味・・朝露のように消えやすい我が命ではあるが、他国
    では死ぬに死にきれない。ひと目親に会いたくて。

    熊擬は18歳の時、国司官の従者として肥後(熊本)
    から奈良の都に向かった時、病にかかり安芸(広島)
    で亡くなった。
    臨終の時に嘆きの言葉として長歌が詠まれています。
    (長歌は下記参照)

 注・・朝露=「消えやすき」の枕詞。はかなさを示す。
    他国(ひとくに)=異郷。古代人は異郷での死を
     特に辛(つら)いものとした。
    過ぎ=「死ぬ」という事を忌み嫌った語。
    かてぬ=絶えられない。
    欲(ほ)り=願う。

作者・・大伴熊擬=おおとものくまごり。731年没。18歳。
    肥後の国の国司官。

出典・・万葉集・885。
    
長歌の要約です。
「地水火風の四大(しだい)が仮に集まって成った人の身は、
滅びやすく、水の泡のようなはかない人の命はいつまでも
留めることはむずかしい」ということだ。それ故、千年に
一度の聖人も世を去り、百年に一度の賢人も世に留まらない。
まして凡愚下賎(ぼんぐげせん)の者はどうしてこの無常から
逃れる事が出来ようか。ただし、私には老いた両親があり、
ともにあばらやに住んでいる。この私を待ち焦がれて日を過
ごされたならば、きっと心も破れるほどの悲しみを抱かれよ
うし、この私を待ち望んで約束の時に違ったならば、きっと
目もつぶれるほどに涙をながされよう。悲しいことよ我が父
上、痛ましいことよ我が母上。この我が身が死に出の道に旅
立つことは気にしない。ただただ、両親が生きてこの世に苦
しまれることだけが悲しくてならない。今日、長のお別れを
告げてしまったならば、いつの世にお遭いすることが出来よ
うか。


*************** 名歌鑑賞 ****************


いつの日か昔語りに五月闇
                    恵好灯

(いつのひか むかしかたりに さつきやみ)

意味・・梅雨時の闇のように、つらい日々を送っていたと
    しても、いつかは必ず、昔話になって語り合う事
    が出来ます。生き続けましょう。

    参考歌です。
   「ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと
    見し世ぞ 今は恋しき」    (意味は下記参照)

 注・・五月闇=五月雨(梅雨)の頃、陰鬱でどんよりと暗い
     昼や月の出ない闇夜。

作者・・恵好灯=詳細未詳。

参考歌です。

ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しとみし世ぞ
今は恋しき                  
                    藤原清輔
          
意味・・この先、生きながらえるならば、つらいと感じている
    この頃もまた、懐かしく思い出されることだろうか。
    つらいと思って過ごした昔の日々も、今では恋しく
    思われることだから。

 注・・憂し=つらい、憂鬱。

作者・・藤原清輔=ふじわらのきよすけ。1104~1177。

出典・・新古今和歌集・1843、百人一首・84。


*************** 名歌鑑賞 ****************


常盤なす 岩室は今も ありけれど すみける人ぞ
常なかりける         
                 博通法師

(ときわなす いわやはいまも ありけれど すみける
 ひとぞ つねなかりける)

意味・・常に変わらず岩室は今もあるけれど、ここに
    住んでいた人は替わってしまってもう居ない。

    方丈記、参考です。
    「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もと
    の水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、か
    つ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例(
    ためし)なし。世の中にある人と栖(すみか)と、
    またかくのごとし」

  注・・常盤なす=「常盤」は常に変わらない岩、
    「なす」は、・・のように。
    岩室=和歌山県日高郡美浜町にある岩窟。
    常なかり=変わっている。

作者・・博通法師=はくつうほうし。伝未詳。

出典・・万葉集・308。

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