名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年06月


*************** 名歌鑑賞 ****************


はかなしや 命も人の 言の葉も たのまれぬ世を
たのむわかれは       
                兼好法師
 
(はかなしや いのちもひとの ことのはも たのまれぬ
 よを たのむわかれは)

意味・・はかないものだ。人の命も人の言葉も当て
    にならないこの世なのに、別れに際しての、
    再開を期する言葉を頼みにすることとは。

    退職するような時で、もう人との交際も期
    待出来ず、一人ぽっちの寂しい思いになっ
    ている時に、再会の別れの言葉に期待した
    時のような気持ちを詠んでいます。

 注・・たのむ=頼む。たよりにする、期待する。

作者・・兼好法師=けんこうほうし。1283~1350。
    出家前の名は吉田兼好。当代和歌の四天王。
   「徒然草」を書く。
 
出典・・岩波文庫「兼好法師家集」。


*************** 名歌鑑賞 ****************


勅なれば 思ひな捨てそ 敷島の 道にものうき
心ありとも
                二条良基
          
(ちょくなれば おもいなすてそ しきしまの みちに
 ものうき こころありとも)

意味・・勅命であるので和歌の道を思い捨ててはいけない。
    たとえ和歌の道につらいことがあったとしても。

           物事を進めるのに大事なのは自発的な心である。
    でも自発心は嫌になれば止めてしまうものである。
    が、命令となれば続けざるを得ない。志に折れる
    気持ちになった時は、命令だと思って続ける事で
    ある。

 注・・勅=天皇が下す命令。
    な・・そ=禁止の意を表す。
    敷島の道=和歌の道、歌道。

作者・・二条良基=にじょうのよしもと。1320~1388。
    関白右大臣。南北朝期の歌人。

出典・・新続古今和歌集(小学館「中世和歌集」)


*************** 名歌鑑賞 ****************


百薬の 長どうけたる 薬酒 のんでゆらゆら 
ゆらぐ玉の緒     
              唐衣橘洲

(ひゃくやくの ちょうどうけたる くすりざけ のんで
 ゆらゆら ゆらぐたまのお)

意味・・百薬の長といわれる薬の酒を、たっぷり杯に
    受けて飲むと、わが玉の緒の命も、ゆらゆら
    と揺れ動くような、浮き立つ快さを覚える。

    参考です。
    「初春の初子の今日の玉箒手に取るからにゆら
     ぐ玉の緒」の歌と、
    「酒は憂いの玉箒」の諺を念頭に詠んだ歌です。
                           (意味は下記参照)

 注・・百薬の長=酒は百薬の長。「長」は「ちょうど」
     を掛ける。
    ちょうど=たっぷり、十分。
    玉の緒=玉をつらぬいた緒、命。

作者・・唐衣橘洲=からころもきっしゅ。1743~1802。
    田安家の臣。江戸時代の狂歌師。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。

参考歌です。
初春の 初子の今日の 玉箒 手に取るからに
揺らぐ玉の緒     
              大伴家持

(はつはるの はつねのきょうの たまははぎ てに
 とるからに ゆらぐたまのお)

意味・・新春のめでたい今日、蚕室を掃くために玉箒
    を手に取るだけで、揺れ鳴る玉の緒の音を聞
    くとうきうきした快さが感じられる。

 注・・初子(はつね)=その月最初の子の日の称。
    玉箒(たまははぎ)=古代、正月の初子の日に、
     蚕室を掃く玉飾りのついたほうき。酒の異称、
     憂いを掃くので。
    取るからに=「からに」はわずかな事が原因で
     重大な結果が起こる場合をいう。
    揺らぐ=目に揺れ動くさまが映ると共に耳にも
     その触れあって鳴る音が伝わって来ることを
     意味する動詞。
   玉の緒=玉箒の玉を緒に通して吊るしたものを
    さすが、同時に生命を表す語として、それを
    見る作者の心の躍動緊張をも意味する。

出典・・万葉集・4493。

諺です。
酒は憂いの玉箒 (さけはうれいのたまぼうき)

意味・・酒を飲めば心にかかっている悩み事や心配事も、
    箒で掃き清めたように無くなってしまう、とい
    うこと。


*************** 名歌鑑賞 ****************


たち変わり 古き都と なりぬれば 道の芝草 
長く生ひにけり    
                 田辺福麻呂

(たちかわり ふるきみやこと なりぬれば みちの
 しばくさ ながくおいにけり)

意味・・すっかり様子が変わって、今ではもう古びた
    都になってしまったので、往き来する者もな
    く、道の雑草も丈(たけ)高くなってしまった。

    奈良遷都で人々がいっせいに新都に行ってし
    まった。今まで大宮人が踏み平して往き来し
    ていた道は、馬も通らず人も通わないので、
    今では全く荒れ放題になってしまったと、悲
    しんで詠んだ歌です。

 注・・たち変り=「たち」は意味を強める接頭語。
    奈良還都=740年から745年まで都は難破や
     久爾(くに)に移った。奈良の都はその後日
     々に荒廃した。

作者・・田辺福麻呂=たなべのさきまろ。生没年未詳。
    748年頃活躍した宮廷歌人。

出典・・万葉集・1048。


*************** 名歌鑑賞 ****************


声たえず さへづれ野辺の 百千鳥 のこりすくなき
春にやはあらぬ     
                 藤原長能

(こえたえず さえずれのべの ももちどり のこり
 すくなき はるにやわあらぬ)

意味・・声が絶えないように囀(さえずり)り続けてくれ
    よ、野辺の百千鳥よ。もう後いくらもない春な
    のだから。

 注・・声たえず=声が絶えないで。
    百千鳥=いろいろな鳥。
    春にやはあらぬ=「やは」は反語。春ではなか
     ろうか、いや春なのだ。

作者・・藤原長能=。ふじわらのながとう。生没年未詳。
    伊賀守。能因法師は弟子。

出典・・後拾遺和歌集・160。


*************** 名歌鑑賞 ****************


今ぞ知る 民も願ひや 久方の 空にみづほの
国さかふなり     
               招月正徹
 
(いまぞしる たみもねがいや ひさかたの そらに
 みずほの くにさかふなり)

意味・・今こそ分かった、国民たちの願望も永久に
    満たされるように、日本の国の、いよいよ
    栄えていることが。

    国民の願望が叶えられるところに日本国の
    繁栄があることを詠んでいます。

    民が富むと年貢も増えて国も栄える。年貢
    を取りすぎたり、戦争が多いと民が貧しく
    なり国の繁栄にはならない。

 注・・久かた=「空」の枕詞。永久の願いの意を
     こめる。
    みづほの国=日本国の美称。「みつ」は空
     に「満つ」を掛ける。

作者・・招月正徹=しょうげつしょうてつ。1381~
    1459。招月は雅号。室町中期の歌僧。
 
出典・・正徹詠草(岩波書店「中世和歌集・室町編」) 



************** 名歌鑑賞 ****************


なみならぬ 用事のたんと よせくれば 釣りにゆくまも
あらいそがしや     
                   加保茶元成

意味・・なみなみならぬ大事な用事が、波のようにあとから
    あとから沢山寄せて来るので、釣りに行く暇もない。
    まあなんと忙しい事なのだろう。

    忙しくて好きな釣りにも行けない、という事を詠んだ
    ものですが、「釣り」に「波」の縁語仕立てた面白さ
    がネライです。

 注・・なみならぬ=普通ではないと「波」を掛ける。
    あらいそがしや=波の縁語の「荒磯」を掛けている。

作者・・加保茶元成=かぼちゃもとなり。1754~1828。江戸
    時代の狂歌作者。

出典・・小学館「日本古典文学全集・狂歌」。



*************** 名歌鑑賞 ****************

友ほしく 何おもひけむ 歌といひ 書という友
ある我にして
                 橘曙覧

(ともほしく なにおもいけん うたといい ふみ
 というとも あるわれにして)

意味・・寂しくなり、どうして友達が欲しいと思った
    のだろう。私には、歌詠みとか本という友達
    がありながら。

    悩みを聞いてくれる友、喜びを分かち合える
    友、それは本であり歌を詠むことである。

 注・・何おもひけん=どうして思ったのだろう。
    にして=・・でありながら。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。越前
    国福井(今の福井市)の紙商の長男。家業を異母
    弟に譲って隠棲。歌集「志濃夫廼舎」。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。



*************** 名歌鑑賞 ****************


伊勢島や 潮干の潟に あさりても いふかいなきは
我が身なりけり
                 六条御息所
                 
(いせしまや しおひのかたに あさりても いうかい
 なきは わがみなりけり)

意味・・伊勢の海水の引いた干潟で食べ物を得ようとしも
    何の貝もない、そのように今更何を言っても何の
    甲斐がないのは、私の身です。

    光源氏との不毛の愛を詠んでいます。

 注・・伊勢島=伊勢と同じ。
    あさり=漁り。魚介や海藻を採集する。
    かい=「甲斐」と「貝」を掛ける。
    いふかいなきは=取り立てて言うだけの価値が
     ない。

作者・・六条御息所=ろくじょうみやすんどころ。源氏
    物語の登場人物。

出典・・源氏物語・須磨の巻。


*************** 名歌鑑賞 ****************


むさし野を 霧の晴れまに 見わたせば ゆく末とほき
心ちこそすれ
                   平兼盛
             
(むさしのを きりのはれまに みわたせばゆくすえ
 とおき ここちこそすれ)

詞書・・屏風に武蔵の国の絵を描いてありましたのを
    詠んだ歌。

意味・・武蔵野を霧の晴れ間にずっとながめ渡すと、
    野がはるばると続いて、行く末の遠い心地が
    します。あなた様もこの絵のように、行く末
    長くご長命なさることと存じます。

    藤原兼家の60歳の賀で詠んだ歌です。

 注・・むさし野=武蔵の国一体に広がる平野。今の
     関東平野の一部。

作者・・平兼盛=たいらのかねもり。~990。駿河守。
    三十六歌仙の一人。

出典・・後拾遺和歌集・427。

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