名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年08月


 唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 
旅をしぞ思ふ              
                 在原業平
            
(からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる
 たびをしぞおもう)

(か・・・・ き・・・・・・ つ・・・・  は・・・・・・
 た・・・・・)

意味・・くたくたになるほど何度も着て、身体になじんだ衣服
    のように、慣れ親しんだ妻を都において来たので、都を
    遠く離れてやって来たこの旅路のわびしさがしみじみと
    感じられることだ。

    三河の国八橋でかきつばたの花を見て、旅情を詠んだ
    ものです。各句の頭に「かきつばた」の五文字を置い
    た折句です。この歌は「伊勢物語」に出ています。

 注・・唐衣=美しい立派な着物。
    なれ=「着慣れる」と「慣れ親しむ」の掛詞。
    しぞ思う=しみじみと寂しく思う。「し」は強調の意
     の助詞。
    三河の国=愛知県。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。従四位
     ・美濃権守。行平は異母兄。

出典・・古今集・410、伊勢物語・9段。


 とにかくに あなさだめなき 世の中や 喜ぶものあれば
わぶるものあり
                   源実朝
              
(とにかくに あなさだめなき よのなかや よろこぶ
 ものあれば わぶるものあり)

意味・・とにもかくにも、なんと定めない世の中であろうか。
    喜ぶ者がいるかと思うと、つらがり苦しむ者もいる。

 注・・あな=強い感動から発する語。ああ、まあ。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。28歳。
    源頼朝の次男で鎌倉幕府の三代将軍。鶴岡八幡宮で
    暗殺された。
 
出典・・金槐和歌集・714。


 故郷は 浅ぢが原と あれはてて よすがら虫の
ねをのみぞ聞く
                道命法師
         
(ふるさとは あさじがはらと あれはてて よすがら
 むしの ねをのみぞきく)

詞書・・長恨歌の内容を描いた絵の中に、玄宗皇帝が、
    安禄山の変も治まって、もとの所に帰って来
    て、秋の虫が鳴き、あたり一面草が枯れはて
    て、それを見て帝が悲しんでいる絵の有り様
    を詠んだ歌。

意味・・古里の長安は浅茅が原となってすっかり荒れ
    果ててしまって、夜通し虫の鳴く声ばかりを
    耳にすることだ。
 
    戦火で長安の都が焼野原となった哀れさを詠
    んでいます。

 注・・長恨歌=唐の白楽天が作った長編叙事詩。唐
     の玄宗皇帝が、安禄山の変で、最愛の楊貴
     妃を亡くした悲愁の情を、七言、120句で
     綴ったもの。

作者・・道命法師=どうみょうほうし。974~?。中古
    三十六歌仙の一人。
 
出典・・後拾遺和歌集・270。


 大空の 塵とはいかが 思ふべき 熱き涙の
ながるるものを
                与謝野寛 
(おおぞらの ちりとはいかが おもうべき あつき
 なみだの ながるるものを)

意味・・大空に浮かぶかすかな塵のような自分だと、
    どうして思う事が出来ようか。熱い涙の流れ
    る我が身であるのに。

    広大な天地、悠久な時間からすれば、人間の
    存在は塵のようなものだ。しかし自分はそう
    はさせたくない。楽しい事も苦しい事も時が
    経ると消え失せるものなので、名が残る事を
    成し遂げたい。命を燃やし尽くして生きて行
    きたい。自分にはその情熱があるのだ。

    参考です。
    「楽も苦も 時過ぎぬれば 跡もなし 世に残る
    名を ただおもふべし」  (島津家の家訓)

作者・・与謝野寛=よさのひろし。1873~1935。号
     は鉄幹。明星を創刊して浪漫主義文学の
     運動の中心になる。慶大教授。「東西南
     北」「相聞」。

出典・・歌集「相聞」(笠間書院「和歌の解釈と鑑賞」)


子の為に 残す命も へてしがな 老いて先立つ
否びざるべく
                 藤原兼輔
         
(このために のこすいのちも へてしがな おいて
 さきだつ いなびざるべく)

意味・・我が子の為にしてやれる残りの命も少なくなって
    しまった。年老いて子に先立つ事は逆らいようの
    ない事だ。

    我が亡き後、子供たちはどのようにして生きてい
    くことか。

 注・・へて=経て。時がたつ。
    否び=承知しない。断る。

作者・・藤原兼輔=ふじわらのかねすけ。877~933。
    紫式部の曽祖父。通称堤中納言。

出典・・家集「兼輔集」。
 

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